なんと日本海軍はブドウから兵器を作っていた!?戦時中のワイン造りとロッシェル塩【前編】

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なんと日本海軍はブドウから兵器を作っていた!?戦時中のワイン造りとロッシェル塩【前編】

ロッシェル塩とは?

ブドウからワインを作るときに白い結晶体があります。これは酒石酸と呼ばれるもので、ロッシェル塩という物質の原料になります。

スカイラブ上で成長させたロッシェル塩の大きな結晶(Wikipediaより)

実はこのロッシェル塩、第二次世界大戦で日本海軍にとって重要な役割を果たしました。ロッシェル塩には音波をすばやく捉える特性があり、水中聴音機レーダーなどの探査技術に用いられたのです。

しかし、日本ではロッシェル塩の製造が困難で、ワイン造りが奨励されることになったのでした。

詳しく説明しましょう。ロッシェル塩は、酒石酸ナトリウムカリウムという化学式を持つ単結晶です。酒石酸ナトリウムは、ブドウからワインを醸造するときに、酒樽の周壁などに白い小さな結晶体として生じるものです。

この周壁の酒石酸などが粗酒石で、採取した粗酒石に加里ソーダを化合させると酒石酸加里ソーダという少し大きな結晶体が精製されます。これがロッシェル塩です。当時の日本では、国内で唯一山梨県の「サドヤ醸造場」で製造が可能でした。

ロッシェル塩には音波をすばやく捉える特性がありました。圧電効果と呼ばれる現象を利用して電気信号と音波を相互に変換することができるのですが、この性質を利用して、水中聴音機やレーダーなどの探査技術に用いられたのです。

ドイツから学んだロッシェル塩生産

第二次世界大戦では、ドイツがいち早くロッシェル塩を採用して音波防御レーダーを開発しました。潜水艦や魚雷に対処する艦船用の兵器として効果を発揮していたのです。

一方の日本海軍ですが、昭和17年(1942)6月、中部太平洋のミッドウェー海戦で航空母艦四隻を失う大打撃を受けます。

この敗退直後に、海軍は同盟国のドイツに兵員を派遣します。そしてロッシェル塩を利用した探査技術を習得させ、二本の艦艇の戦備を強化することにしました。

しかし日本ではロッシェル塩の製造が困難でした。原料となる酒石酸はワイン造りの副産物ですが、当時の日本ではワイン造りそのものが規制されていたからです。

そこで海軍は、全国のワイン醸造場に粗酒石の採取を働きかけました。そして上述のサドヤ醸造場に集めてロッシェル塩を精製します。

さらに東芝などの大電機メーカーに依頼して、この精製品を使って対潜水艦用の水中聴音機を量産するよう依頼しました。

水中聴音機は、まさに「ブドウから作る兵器」だったのです。

統制品の規制緩和も

一方、酒類行政を取り扱っていた大蔵省では、昭和19年(1944年)のある時期から、日本海軍の求めに応じて酒石酸の増産を決定します。

現在の財務省本庁舎

ワインに添加して酒石酸を採取するための脱酸用石灰は、当時は統制品でした。しかし酒石酸を緊急軍需物資として増産するために、割当や配給の面で特別な便宜が与えられます。

とはいえ、酒石酸はワインの製造処理過程で析出するものなので、そもそもワイン造り自体を推し進めなければ意味がありません。そこでワイン造りの統制を特別に緩和し、ワインの製造免許数を増やしたり、造石数の増量を容認したります。

さらに、ワイン造りに欠かせない砂糖も当時は最重要の統制品でしたが、やはり割当や配給の面で便宜を与えました。こうして戦時中の日本では、ワイン造りが奨励されていったのです。

【後編】につづく

【参考資料】
山形の戦跡 薄れる戦争の記憶 NHK
国税庁

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