紫式部は”あの男”と一夜をともにしたの?してないの?想いを「朝顔」に託した若き日の切ない恋愛エピソード
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『紫式部集』の朝顔の歌
大河ドラマ『光る君へ』で話題沸騰中の紫式部ですが、おそらく彼女のことを歴史資料などからある程度知っている人は、「あのシーンはどのように描かれるんだろう」と気になっているエピソードがあるのではないでしょうか。
それは誰もが気になる、紫式部の若き日の恋愛についてです。
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紫式部の人となりを知るための第一級の史料である『紫式部日記』には、若い頃の話はあまり書かれていません。よって幼少期から青春時代までの紫式部の人となりはよく分かっていません。
ただ、ヒントになるものはあります。私家集『紫式部集』です。これには、少女時代から晩年の間までで、彼女が自分で選んだ120ほどの歌が、詞書と呼ばれる前書きや説明文とともに収録されています。
※合わせて読みたい:
紫式部、実は母に次ぎ姉も亡くしていた…その悲しみを癒すため文通した一人の女性がいた【光る君へ】 実はいまだ不明「紫式部はいつ生まれたのか?」さまざまな学説と大河ドラマ『光る君へ』の設定検証【前編】中でも注目すべきは、彼女が二十代の頃のものと思われるエピソードです。
ある夜のことです。彼女が姉と暮らしていた自宅に、一人の男性が宿泊しました。
この男性が宿泊したのは、方違えのためでした。
方違えというのは陰陽道に基づく当時の風習です。目的地の方角が良くないと考えられる場合、前の晩に一度別方向の家に泊まり、翌日に改めて目的地へ向かうというものです。一度立ち止まることで不吉な方角をそらすということですね。
「方違へ」の夜の出来事『紫式部集』には、この時のことについていくつかの歌が載っています。
方違へにわたりたる人の なまおぼおぼしきことありて 帰りにけるつとめて 朝顔の花をやるとて
(方違えのために泊まっていった人が不可解なことをして、翌朝に知らん顔をして帰っていた。その人に朝顔の花を添えて歌を送った)
おぼつかな それかあらぬか 明けぐれの そらおぼれする 朝顔の花
(はっきりしませんね。そうだったのか、そうではなかったのか。明け方の暗い中でぼんやり咲く朝顔みたい)
返し 手を見分かぬにやありけむ
(返歌は、手紙の筆跡が私のものか姉のものなのか分からなかったみたい)
いづれとぞ 色分くほどに 朝顔の あるかなきかに なるぞわびしき
(どっちからの手紙かと考えているうちに、朝顔の花のようにしぼんだのが辛い)
さて問題は、最初に書いてある「おぼおぼしきこと(不可解なこと)」の意味です。式部はその意味を確かめようと、朝顔を添えて歌を贈ったというのです。
しかしその男は答えてくれず、式部からの手紙か、それとも姉からの手紙なのか分からないというあやふやな歌を返してきたようです。
ここで誰もが連想するのは、泊まっていった男が式部とセックスしていったのではないか? ということでしょう。彼女が歌を贈ったのは、「あの時、なんで私を抱いたのですか?」という問いかけだったのかも知れません。
これについては二つの見方があります。
セックスした説・していない説まず、セックスした説です。この説によると、式部が男に送ったという朝顔は、実際には式部の「顔」を表しています。
夜に式部のもとに忍んでいって、事をなして明け方に帰っていった男がいました。そして、男が帰るのを呆然と見送るばかりだった式部。その心情を、彼女は朝顔に託したということです。
またもうひとつが、セックスしていない説です。
この歌に登場する男とは、後に彼女の夫となる藤原宣孝のこと。そして「おぼおぼしきこと」はセックスとは限らず、部屋を覗き見たとか、部屋に入り込んできたという程度のものだったのではないか―というものです。
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もちろん、真実がどうだったのかは知りようがありません。いずれにせよ、紫式部にもまた、若い頃にこのような形の恋愛体験があったのでしょう。
大河ドラマ『光る君へ』では、おそらくセックスに関する事柄はあからさまには描かれないでしょう。しかしこのエピソードは避けては通れないと思いますので、どう描かれるか注目ですね。案外、方違えで泊まっていくのが藤原道長になるのかも。
参考資料:
歴史探求楽会・編『源氏物語と紫式部 ドラマが10倍楽しくなる本』(プレジデント社・2023年)
トップ画像: 源氏物語絵巻より(国立国会図書館)
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