実験室でマウス細胞から人工的に(精巣)を作り出すことに成功

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イスラエルの研究チームが、マウスの細胞から一対の睾丸(精巣)オルガノイドを培養することに成功したそうだ。オルガノイドとは、試験管の中で細胞から作るミニチュアの臓器のことである。
ミニ精巣が生み出された理由は、精巣の発達や機能について理解を深め、男性不妊の原因を解明し、男性の不妊症治療へとつなげることだ。
不妊症の治療に取り組む夫婦は年々増えており、厚生労働省によると夫婦4.4組に1組が不妊治療を受けているという。だが男性の不妊症の詳しい原因はほとんどわかっていない。
イスラエルのバル=イラン大学のニツァン・ゴネン氏は、「ミニ精巣は、精巣の発達や機能について基礎研究する際のモデルとして有望で、性発達障害や不妊症の治療への応用が期待できます」とプレスリリースで述べている。
・細胞から培養されたミニチュアの人工臓器「精巣オルカノイド」
培養された精巣は「オルガノイド」という人工臓器で、本物によく似た管状構造をしている。
オルガノイドは、実験室内で培養された細胞から作る、人間の体と同じように機能するミニチュア臓器で、臓器の発達や病気を研究するモデルとして注目されている。
『International Journal of Biological Sciences』(2024年1月12日付)に掲載された研究では、生まれたばかりのマウスから未成熟の精巣細胞を採取し、これを培養した。
精巣は男性の生殖器官の一部であり、いわゆる睾丸のことで、男性の生殖細胞である精子を生産したり、男性ホルモンであるテストステロンを分泌する。
マウスの精巣細胞を培養した期間は9週間。理論的には、精子の生産やホルモンの分泌プロセスを完了するのに十分な時間だ。
この精巣オルガノイドが実際に精子を作れるのかわからないが、それでも初期の精細胞が生産されているらしき兆候はあったという。
こうしたことができたのも、ゴネン氏らが精巣オルガノイドが成熟して、精管を成長させられるような環境を作り出すことに成功したおかげだ。
じつはほとんどのオルガノイドは、臓器の初期段階に似せて作られるため、ここまで成熟したオルガノイドは珍しい。
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マウスの細胞から14日培養された精巣オルガノイド。管状の構造が形成されている / image credit:CHELI LEV/BAR-ILAN UNIVERSITY・将来的にはヒト細胞から精巣オルガノイドを作り出す計画
なお今回の精巣オルガノイドは、あくまでマウスの細胞から培養されたものだ。
臓器の発達を研究するモデルとして有望だが、ゴネン氏はいずれは人間の細胞から同じようなオルガノイドを作ろうと考えている。
ゴネン氏らによると、小児がんで化学療法や放射線治療を受けた思春期前の男児は、3人に1人が不妊になるのだそう。
若くしてがんになった子供でも、85%が成人になっていることを考えると、このことは彼らの人生を大きく左右する。にもかかわらず、彼らの生殖能力を回復させる方法は今のところない。
「この研究では、マウスから精巣オルガノイドを作ったが、同様のやり方で思春期前の男児から精巣オルガノイドを作れる可能性は大いにある」そうだ。
References:Towards a “Testis in a Dish”: Generation of Mouse Testicular Organoids that Recapitulate Testis Structure and Expression Profiles / Lab-Grown Testicles Developed by Scientists Could Aid With Male Infertility, Boost Understanding of Testicular Development and Function | Science Times / written by hiroching / edited by / parumo
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