100歳まで生きる!「名医の食卓」大公開
医療のプロであると同時に、健康のプロでもある医師。その食生活には“長生き”のヒントが隠されている!
今や“人生100年時代”といわれるが、日常生活を不自由なく暮らせる「健康寿命」は男性72・68歳、女性75・38歳と、意外に短いのが現実だ。人生を元気に楽しく過ごすには、どうしたらいいか。そのための第一歩は、やはり日々の食事。そこで今回、各分野の名医が実際に食べている献立を徹底解剖。プロフェッショナルの“元気の秘訣”に迫っていこう。
■健康長寿を目指すなら
まずは“朝食”から。忙しさから朝食を食べない人も多いが、今回、話を聞いた名医3人は全員、「食べる」と口をそろえた。予防医学の権威でもある、新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦氏は、こう語る。
■炭水化物をしっかり
「健康長寿を目指すなら、朝から、米やパンなどの炭水化物をしっかり食べましょう。
なぜなら、血糖値は1日3食を規則正しく食べることで安定しますが、朝食を抜くと、低血糖の状態が長く続いて、それが原因で、体調を崩してしまう人が多いからです。
そのため、私は手軽に食べられるトーストをメインにし、さらに、タンパク質やビタミンの補給に優れた卵を目玉焼きなどにして、朝食に食べています」
■トーストには動物性のバターを
『医師が認知症予防のためにやっていること。』(日経BP)の著者で、認知症専門医の遠藤英俊氏も、朝のエネルギー源としてトーストを食べるという。
「注意点として、トーストには必ず動物性のバターを塗っています。植物性のマーガリンは、がんの発病率や、動脈硬化の発症リスクを上げるというトランス脂肪酸が含まれているので、避けたほうが無難です」
■ヨーグルトで免疫機能がアップ!
朝食のメインにヨーグルトを据えているのが、『長生きする人・しない人の習慣 100歳でも元気なのはどっち?』(あさ出版)の著者で、内科医の秋津壽男氏だ。その狙いは、どこにあるのか。
「起床後の胃腸が空っぽの状態でヨーグルトを食べることで、乳酸菌が腸に届きやすくなり、腸内環境が改善されるんです。体の免疫機能の7割は腸にあるので、免疫力が向上。
さらには、精神の安定に関わる脳内の神経伝達物質“セロトニン”も腸で作られるので、うつ病などの対策になります」
■EPAオイルを
そのまま食べてもよいが、秋津氏は、ヨーグルトにEPAオイルをかけるそうだ。
「EPAオイルは、オメガ3系脂肪酸を含んだ油のことで、脳と心臓の血管を健康にし、動脈硬化の予防になると言われています。亜麻仁油やエゴマ油が有名ですが、私は南米産の植物から抽出された、インカインチオイルを愛用しています」(前同)
■ハチミツを合わせて認知症予防
前出の遠藤氏も、朝食にはヨーグルトが定番だ。甘さが欲しいなら、ハチミツを合わせるとよいという。
「近年の研究で、ヨーグルトが認知症予防によいことが分かっています。さらに、東北大学の研究で、ハチミツのローヤルゼリーに抗認知症効果があると分かったので、2つを合わせれば鬼に金棒です」(遠藤氏)
■コーヒー、紅茶もオススメ
朝の飲み物は近年、ポリフェノールの健康効果が注目を集めているコーヒーとともに、紅茶もオススメだ。
「実は、紅茶も抗酸化作用のあるポリフェノールを豊富に含んでいて、アンチエイジング効果が期待できます。さらに、ストレス軽減効果のあるテアニンも含んでいるので、朝はリラックスしたいという人にうってつけです」(秋津氏)
■幕の内弁当風のランチを
次は“昼食”。前出の岡田氏は、おかずの種類が豊富な幕の内弁当風のランチを薦める。
「毎日、決まった食材を食べ続けると、栄養が偏って、逆に健康に悪い。いろんな食材を、まんべんなく食べるのがポイントです。加えて、主食、おかず、野菜と果物の3つのジャンルを、見た目で1:1:1のバランスになるように食べることを意識してください」
■ダイエットしたいなら
ダイエット中の人は、主食だけを減らすのではなく、3つを3割ずつ均等に減らすなどするのがよいという。
「炭水化物だけを抜く“糖質カットダイエット”がはやっていますが、私はオススメしません。糖質は脂肪を燃やすための燃料なので、糖質を取らないと、逆に痩せにくい体になってしまうからです」(前同)
バランスのよい食事は、認知症予防にも効果がある。
「国立長寿医療研究センターが10年かけて行った研究で、いろんな食材を食べている人は、そうでない人よりも認知症リスクが44%低下したことが分かりました」(遠藤氏)
■カレーの注意点
さらに、“最強の認知症予防食”と言えそうなのが、カレーだ。認知症のプロフェッショナルでもある遠藤氏は、「週に2〜3回は食べている」と語る。
「アルツハイマー型認知症は、原因物質のアミロイドベータが脳内に蓄積することで発症します。その蓄積を抑えてくれるのが、カレーのターメリックに含まれるクルクミンです。
さらに、シンガポール人を対象にした研究で、カレーをしばしば食べる人は認知症リスクが半分程度になった、という報告がありました」(前同)
ただし、気をつけたいのが、ごはんの量だ。
「九州大学が行った、認知症などを対象にした疫学調査(久山町研究)では、同予防のために減らすとよい食材として、米と酒を挙げています。ごはんの食べすぎには注意しましょう」(同)
■シークワーサーに含まれるノビレチン
遠藤氏がカレーと並び、頻繁に口にするのが、シークワーサーだ。
「シークワーサーに含まれるノビレチンは、神経細胞の突起を増やす効果があり、脳神経によいといわれています。
沖縄県が他県より認知症発症率が低いのは、シークワーサーの影響ではないかと、今も研究が進められているほどです」(同)
現在は少し大きめのスーパーに行けば、シークワーサーの果汁100%で作られた原液が売られているので、これを使えば、手軽に自宅で利用できる。
■中高年世代は昼食を“食べない”選択肢も
一方、あえて昼食を食べないのが、前出の秋津氏だ。
「もちろん、肉体労働者など日中に体を動かしている人は食べたほうがいいんですが、普通の人は無理に食べる必要はないと思います。
特に、中高年世代は、朝昼晩にしっかり食べると、消費カロリーよりも摂取カロリーが上回って、肥満や糖尿病などの生活習慣病のリスクになります」
■胃腸を休める
より健康を意識するならば、近年流行中の“16時間断食ダイエット”に挑戦してみるのも手だという。
「胃腸を長時間、休めることで糖尿、高血圧、高脂血症などの予防になると言われています。
断食と聞くと、何も食べないと思いがちですが、そうではなく、朝はヨーグルトにし、昼食を抜くだけでも同様の効果が期待できます」(前同)
■タンパク質の摂取がカギ
最後は、1日を締めくくる“夕食”。ここは、タンパク質の摂取がカギになる。
「日本人の食生活で、最も不足しているのがタンパク質です。私が診療している高齢者の多くは、血液中のタンパク濃度が低く、筋肉が衰えて、骨がもろくなっています。転倒時に骨折するリスクもあるので、そうならないために、日頃から魚や肉を食べましょう」(岡田氏)
そこで岡田氏が薦めるのが、しゃぶしゃぶだ。ポイントは調理法にある。
「100度を超える高温調理だと、肉の成分が発がん性物質に変わります。また、炭火の焼肉、燻製ベーコンなどは煙に含まれるダイオキシンという発がん性物質が付くので控えたいところ。その点、しゃぶしゃぶは高温調理ではなく、煙もつかないので、健康的にタンパク質が取れます。たっぷりの野菜や豆腐と一緒に食べれば、栄養のバランスもよく、理想的な健康食です」
■魚は刺身で食べるのが理想
遠藤、秋津の両氏は、タンパク質の補給として魚料理を“愛食”している。遠藤氏は海鮮丼だという。
「アジ、サバ、マグロ、カツオ、サンマなどの青魚には血管を健康にし、脳によいとされる栄養素のEPA ・DHAがたくさん含まれています。加熱調理をすると栄養素が壊れるので、新鮮な刺身の状態で食べるのが理想です」(遠藤氏)
■焼くより煮たほうがよい
魚を刺身以外で食べるなら、焼きものより煮ものを食べるほうがよいという。
「魚の頭の部分はEPA・DHAが豊富で、特に、目玉や骨の周辺に栄養素が集まっています。その部分を余すことなく食べるには、焼きものより、煮ものが適しています」(秋津氏)
■蒸した里芋にも注目
また、秋津氏の夕食例にある蒸した里芋(きぬかつぎ)にも注目したい。
「塩分を控えたい人は、素材そのものの味が生きて、薄味でもおいしく食べられる、蒸し料理がオススメです。加えて、イモ類は食物繊維が豊富で、腸内細菌のエサとなるオリゴ糖も含んでいるので、腸内環境の改善になります」(前同)
■日本が誇る「豆腐」
ここからは名医が太鼓判を押す健康食材を、いくつか紹介しよう。まずは日本が誇る健康食材の豆腐だ。
「大豆は、良質な植物性タンパク質と食物繊維の両方がとれる理想の食材。日本人の健康寿命が世界トップクラスなのは、大豆をたくさん食べる日本古来の和食が健康によいから、と言っても過言ではありません」(岡田氏)
さらに、豆腐に含まれるマグネシウムには突然死を遠ざける働きもあるという。
「マグネシウムは体温、血圧、ホルモン分泌の調整や、筋肉の働きなどを助けます。国立がん研究センターなどの共同研究で、マグネシウムを多く摂取している人は、心筋梗塞の発症リスクが3〜4割低いことが分かりました」(秋津氏)
■納豆に含まれるナットウキナーゼ
同じく、大豆を使った納豆も健康の強い味方だ。
「納豆に含まれるナットウキナーゼに血栓を溶かす働きがあり、脳梗塞などの予防になります。減塩のためタレを使わず、シラスやかつおぶしなど、うま味成分が強い食材と和えて食べるとより健康的です」(前同)
■適度な飲酒を
また、お酒好きの医師として知られる秋津氏は、健康のために適度な飲酒を楽しんでいるという。
「お酒をまったく飲まない人に比べて、1日90ミリリットル(日本酒で約0・5合)の飲酒をする人は、がんの死亡率が下がるという研究データがあります。
また、動脈硬化の予防は、HDL(善玉コレステロール)の数値を上げるのが有効で、その数値を上げるには、少量のアルコール摂取がよいといわれています。つまり、適度な飲酒は有益なんです」
ただし、飲酒量と、お酒の種類には気をつけたい。
「日本酒なら1日1合、ビールなら大瓶1本、ワインはグラス2杯を目安にしてください」(前同)
■赤ワイン3〜4杯で!
また、認知症予防に効果が期待できるのは赤ワイン。
「フランスのボルドー大学の研究で、毎日3〜4杯(250〜400ミリリットル)の赤ワインを飲む人は、アルツハイマー型認知法の発症リスクが4分の1だったという報告があります。フランス人を対象にした研究なので、無理に3杯を飲む必要はなく、あくまで適量のワインを飲むと効果が期待できるということです」(遠藤氏)
医食同源、毎日の食事を楽しみつつ、健康も手に入れていただきたい。
■おやつ編「旬の果物を」
小腹が空いたときに食べる、体に良い“おやつ”とは何か。秋津氏が薦めるのは旬の果物だ。
「日々の食事で不足しがちなのが、ビタミンとミネラルです。特に、ビタミンC・Dは体の免疫機能と関わるので、とっておきたい。そこで果物です。味つけはせず、そのままの状態で食べてほしい。種類はなんでもいいですが、栄養満点の旬のものがよいですね」
■“1日1個のリンゴは医者を遠ざける”
岡田氏もオススメは果物、中でもリンゴが体に良いと言う。
「“1日1個のリンゴは医者を遠ざける”ということわざの通りです。リンゴは特に抗酸化物質が豊富ですし、値段も比較的お手頃です。食べるコツは、皮ごと食べること。リンゴの抗酸化物質は、皮のすぐ下に集中しているので、むいて食べると、ほぼ栄養的に意味がない。丸ごとかじるか、皮ごとミキサーにかけてください」
■高濃度カカオが入ったチョコレート
また、岡田・遠藤両氏の意見が一致したのが、高濃度のカカオが入ったチョコレートだ。
「長寿の方が食べているとして話題なのが、高カカオチョコレートです。ポリフェノールの健康効果が期待できて、おやつには最適。ただし、糖分は大敵なので、甘さ控えめでカカオが80%前後配合されている、ビターチョコが良いでしょう」(遠藤氏)
午後に飲み物でホッと一息つきたいときは、コーヒーがベストだ。
「『国立がん研究センター』の発表では、コーヒーが肝臓がんを抑える効果は“ほぼ確実”とのこと。甘いジュースを飲んでいる人は、砂糖が入っていないブラックコーヒーを1日1〜2杯ほど飲む生活に切り換えるといい」(秋津氏)
おやつの注意点は、血糖値の急な上昇を抑えることと、糖分をとり過ぎないこと。ここに取り上げた食べ物を参考にしてほしい。
【画像】新潟大学名誉教授、有名クリニック「朝・昼・晩」メニュー例
〈献立イラスト/小野たかし〉