女好きな天下人・豊臣秀吉に会心の一撃!戦国大名・鍋島直茂の正室・陽泰院は何をしでかした?

嫌な取引先への接待やつまらない呑み会など、気乗りのしない集まりって、ありますよね。
気乗りがしなければ行かなければいいのですが、なかなかそうも行かないのが世のならいというものです。
どうしても行かねばならない時、あなたならどうしますか?そんな悩みはいつの時代にもあり、みんなそれぞれに答えを出してきたのでした。
今回は戦国時代に生きた女性・陽泰院(ようたいいん)のエピソードを紹介したいと思います。
しつこい誘いを断るも……
陽泰院は九州肥前の戦国大名・鍋島直茂(なべしま なおしげ)の正室。若いころから機転のきく女性として評判でした。
さて、そんな時、天下人・豊臣秀吉が朝鮮征伐のため肥前・名護屋城に入ります。
秀吉は権力にモノを言わせ、九州一円の大名らを呼び集めて挨拶させていました。
「ふん、成り上がりの猿めが。せいぜいいい気になっておれ」
もちろん夫の直茂も仕方なく挨拶に参上していますが、なにぶん女好きな秀吉のこと。今度は妻妾らにも招集をかけたのです。
「そういう訳で、奥方様にもご参加下さるようにと……」
表向きは楽しい宴会。しかしその実態は秀吉への接待以外の何物でもありません。
現代でも、ブラック企業で「※参加は任意です」とか銘打って忖度させる呑み会とかありますよね。そんな感じだったのでしょう。
「嫌です。都合が悪いとお断りの返事を出しなさい」
陽泰院は蔵主(ぞうす。僧侶)を使者に出して断りました。
しつこい誘いに仕方なく、一度だけ承諾しかし女好きな秀吉のこと。そう簡単には諦めてくれません。むしろ来ないとなれば、ますますどんな女性なのか、興味津々で食い下がる始末。
「あの、ご都合のよろしい時で構わないので、どうか一度だけでもお越しいただけないでしょうか……」
何度も断られていながら、食い下がる使者。毎回成果を得られずに帰って、こっぴどく叱られているのでしょう。
「なぁ。一度だけとの仰せであれば、一度だけ伺ってはどうか」
夫の直茂も何かチクチク言われているようで、陽泰院はあきれてしまいます。
「まったく……あなたがそうまで仰るなら、お仕事のご都合もあるでしょうし、仕方ありませんね」
「本当はキッパリ断れればよいのだが、面目ない」
「それでは、一度だけですよ」
陽泰院は使者に参上すると返事して、当日の支度をするのでした。他人事ながら、気が重いですね……。
笑みを絶やさぬその顔は
さて当日。
秀吉は各大名家のご婦人がたを侍らせながら、陽泰院の参上を待ち構えます。
「まったく、手こずらせおって。わしが呼んだらさっさとくれば、夫に対する心象もよかろうものを……」
お高く止まって勿体つけて、果たして鍋島の妻はどれほどのものか見てやろう……。
そんな秀吉の舐め腐った態度が驚きに変わるまで、そう時間はかかりませんでした。
「こたびは殿下のお目にかかれましたこと、恐悦至極に存じます」
「何じゃそなたは!?」
現れたのは陽泰院。秀吉がさんざん呼びつけた彼女本人に他なりません。
が、秀吉を驚かせたのはその姿でした。
彼女は額から角をのばし、その顔面を鬼のように彩ったのです。
「いかがされましたか?」
陽泰院は鬼の形相で笑みを絶やさず、秀吉に近づきます。
「いや、何でも……」
ここで怯んだり、取り乱したりしては面目丸つぶれ。秀吉はあくまで平静を装いましたが、やはり気が気ではありません。
鬼の美女に酒を注がれ、談笑を交わし……秀吉の笑顔は、さぞ引きつっていたことでしょう。
終わりに
以上、秀吉に呼び出された陽泰院のエピソードを紹介しました。
人を見世物か何かのように容易く呼び出す秀吉の増上慢に、一撃を食らわした彼女の快挙。
「そんなに見世物が見たければ、とくと見るがいい!」
これっきり、陽泰院にお呼びがかかることはなくなったそうで、よかったですね。
現代でも気乗りしないお誘いに、応用が利きそうなエピソードではないでしょうか。
※参考文献:
古川哲史ら校訂『葉隠 上』岩波文庫、2011年1月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan