親になって初めて分かった〝母が玄関に茶碗を持ってきた理由〟 生前に伝えたかった「ごめんなさい」と「ありがとう」 (2/3ページ)
涙を浮かべていた母を思い出して
「要らないって!!」
私はそれを、左手で払った。その瞬間、ガシャーン。
母が持って来てくれた卵かけご飯は、お茶碗ごと玄関の下駄箱の上に落下。
母がうっすら涙を浮かべてそれを拾い集め、「気を付けて行きなさい」と言った。
私は無言で家を出た。
滑り込みで学校に到着し、教室に入り着席すると、左袖に違和感。
触ってみると、卵かけご飯がこびりついていた。母の手を振り払った際に付いたのだろう。
何気なく口に運んでみたらなんとも美味しい。
玄関での母を思い出し「なんてことをしてしまったんだろう」と後悔した。
母がうっすら涙を浮かべていたなと、私も涙が出てきた。
「帰ったらすぐに謝ろう」とその時は真剣に思った。
自分にも子供が出来て、痛いほどわかる母の気持ちただ、小学生の私は帰宅する頃にはその思いをすっかり忘れ、ランドセルを放り投げて遊びに出掛け、謝るどころではなくなってしまった。
母はいつもどおりだった。
女手一つで私を育ててくれた母も、3年前に亡くなりました。
今、私にも子供がいる。
子供が出来て初めて思うことも多く、母の気持ちが痛い程分かる。
玄関まで茶碗を持って来てくれた時の気持ちが、痛い程分かる。
母へ。
あの時は本当にごめん。
謝ろうと思いつつ、ありがとうと言わなきゃと思いつつ。
結局言わないまま今日を迎えてしまった。