幕末期に日本が植民地化されなかったのはなぜ?徳川幕府の採った対策と欧米諸国の状況から読み解く

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幕末期に日本が植民地化されなかったのはなぜ?徳川幕府の採った対策と欧米諸国の状況から読み解く

植民地化されなかった日本

幕末期は、日本史上稀に見る激動の時代でした。さらに世界に目を転じてみると、インドや清国をはじめとするアジア諸国が、当時は欧米諸国による植民地化の危機に直面していました。

実際、日本もアメリカをはじめとするヨーロッパの国々から不平等条約を押し付けられています。また、薩摩や長州は外国との戦争で大きな損害を受けました。

悪名高い「不平等条約」はまだマシな方だった?実はアメリカも手を焼いた徳川幕府の粘り強い交渉

薩英戦争におけるイギリス艦隊と薩摩砲台の戦闘(Wikipediaより)

しかし、こうした脅威に直面しながらも、日本は列強によって植民地化されることはありませんでした。領土の割譲も押し付けられていません。隣国を見てみると、当時の清国は列強から土地を奪われ、保護貿易策を撤廃させられるというひどい目に遭っているにもかかわらず、です。

これはなぜだったのでしょう?

幕府と徳川慶喜による列強対策

一般的には、日本の諸藩が江戸幕府を倒して中央集権体制をつくり、近代化政策を急速に進めたことが要因だと考えられることが多いです。

しかし史料をつぶさに見ていくと、江戸幕府は決して諸外国の脅威に対して策を講じていなかったわけではなく、開国前から対策を練っていました。

そのきっかけとなったのは、天保14年(1840)に起きたアヘン戦争です。アジアの大国である清がイギリスに敗れたことで、幕府は対外政策を変化させざるを得なくなりました。

アヘン戦争でイギリス東インド会社の汽走軍船ネメシス号に吹き飛ばされる清軍のジャンク兵船を描いた絵(Wikipediaより)

例えば天保13年(1842)には異国船打払令を廃止するなどし、外国船舶への態度を軟化させました。また開国後は特にフランスとの関係を強化して近代化政策を実施しています。

また、徳川慶喜の動向も無視することはできません。

大政奉還後、慶喜は薩長との衝突を予測し、内乱が起きた場合、不干渉の立場を保つよう諸外国に依頼しました。

さらに鳥羽伏見の戦いが始まったときも、イギリス・フランス・アメリカ・オランダ・イタリアの公使に対し、不干渉と中立の立場をとるよう要求し、公使たちはこれを受けて局外中立を宣言したのです。

将軍在任時の徳川慶喜(Wikipediaより)

こうした下地があったからこそ、日本の内乱に諸外国は干渉しなかったのです。

諸外国の脅威に立ち向かうために討幕を行った薩長に負けず劣らず、江戸幕府もまた、そうした脅威に対してギリギリまで粘って対抗策を講じていました。

植民地化どころではなかった列強

一方、列強による侵略が起きなかったのは、欧米側の事情も関係しています。幸運にも、各国は日本を侵略している余裕がなかったのです。

まず海洋帝国であるイギリスは、1856年に終結したクリミア戦争の戦後処理が残っていたため、極東の日本にまでは目が届かず、それよりもインドや清国における植民地政策を優先していました。

クリミア戦争の「セバストポリの陥落」を描いた絵(Wikipediaより)

またフランスも、やはりクリミア戦争の戦後処理や対外関係の緊張があったため余力がありません。日本を開国させたアメリカだって、1861年に南北戦争が始まったことで国内が混乱していました。各国とも、日本を侵略できる状態ではなかったのです。

また、そもそも諸外国は、日本を植民地にする意図が希薄だったという見方もあります。

そもそも、列強が植民地を設けたのは市場と資源・食糧供給基地を確保することが目的でしたが、資源に乏しく平野が少ない日本はプランテーションをつくるのに適した土地ではありません。

しかも、極東に位置する日本に人材や物資を送り、軍隊を常駐させ、行政府を設置し、各種インフラを整えることは、膨大な資金・時間が必要となるため効率が悪いのです。日本は「投資に見合わない植民地」になる可能性が高く、今風に言えば、日本を植民地化することはコスパ・タイパ的に良くなかったということです。

幕府や雄藩が列強による植民地化に危機感を抱いていたのは事実ですが、当時の状況を考えると、日本が他のアジア諸国のような侵略を受ける可能性はもともと低かったとも言えるでしょう。

参考資料:
日本史の謎検証委員会『図解 幕末 通説のウソ』2022年

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