1200万年前の新種の類人猿の化石を発見。中新世のヨーロッパでは2種の古代類人猿が共存していた

カラパイア

1200万年前の新種の類人猿の化石を発見。中新世のヨーロッパでは2種の古代類人猿が共存していた
1200万年前の新種の類人猿の化石を発見。中新世のヨーロッパでは2種の古代類人猿が共存していた

[画像を見る]

 ドイツ南部にある粘土採掘場で、これまで知られていなかった1200万年前の類人猿の化石が発見されたそうだ。

 「ブロニウス・マンフレドシュミディ(Buronius manfredschmidi)」と命名されたこの種は小さく、自分よりも2倍以上も体が大きな類人猿と同じ場所で暮らしていたことになる。

 ヨーロッパの化石類人猿(すでに絶滅した太古の類人猿)でこのような共生関係が確認されたのは、今回が初めてのことだ。

 化石からは、彼らが互いに同じ場所で暮らしながらも、うまく棲み分けし、争いを避けるための進化を遂げていたことが明らかになっている。

・新たに発見されたヨーロッパに生息する新種の類人猿
 1200万年前に存在したとされる新種の類人猿「ブロニウス・マンフレドシュミディ(Buronius manfredschmidi)」は、テュービンゲン大学をはじめとする研究チームによってドイツ南部にあるハンマーシュミーデ粘土採掘場から発掘された。

 その名は中世の街ブロンと、1970年代後半に同じ場所で貴重な化石を発見した歯科医マンフレート・シュミットにちなんだものだ。

 じつはこの場所では2010年代半ばにも1160万年前の「ダヌビウス・グッゲンモシ(Danuvius guggenmosi)」という類人猿(オランウータン・ゴリラ・チンパンジー・ヒトが属すグループだ)が発見されている。

 その状況から、ブロニウスとダヌビウスは同じ時代の同じ生態系で、共存しながら生きていた可能性が高い。

 このように2種類の類人猿の化石が、まったく同じ場所から発見されたのは世界初のことであるという。

[画像を見る]

7.7mmほどのブロニウスの歯の化石。ここから彼らが異種と共存することができた秘密が見えてくる/Photo credit: Berthold Steinhilber/University of Tubingen ・2種の類人猿はいかにして争いを避けたのか?
 発掘されたブロニウスの化石は2本の歯と膝頭で、その分析から彼らのライフスタイルに関する興味深い事実が明らかになっている。

 ブロニウスもダヌビウスも木の上で生活していた可能性が高いが、小柄なブロニウスはずっと身軽で、ダヌビウスよりも高いところの枝で葉っぱだけを食べていたと考えられるのだ。

 化石の大きさから、ブロニウスの体重は10kgほどしかなかったと推測されている。

 今日生きている類人猿だとボノボなら30kg、ゴリラなら200kg以上あるので、現代の基準で言うならブロニウスはかなり小柄だった。同じサイズの現生の類人猿としては、東南アジアに生息するフクロテナガザル(シアマン)に近い。

 一方、ダヌビウスは15k~46kgでブロニウスよりは大きく、チンパンジーに近い。

 ブロニウスとダヌビウスの膝頭を比べてみると、ブロニウスはより厚みがあり、左右で非対称的な作りになっている。

 こうした違いは、太ももの筋肉の違いのせいであるという。おそらくブロニウスはダヌビウスよりも木登りが得意で、細い枝の上で上手に過ごすことができた。

[画像を見る]

ロニウスの歯の化石。上段は上顎第2大臼歯、下段は下顎第2小臼歯を異なる角度から撮影したもの / image credit:age: Agnes Fatz, Tubingen・草食のブロニウスと雑食のダヌビウス
 歯の分析からは、彼らの食べ物について詳しいことが明らかになっている。

 霊長類の場合、歯のエナメル質の厚さは食生活と密接な関係がある。たとえば、ゴリラのようなエナメル質が薄い歯は、繊維質が豊富な植物を食べていたことを示している。

 私たち人間のようなエナメル質が分厚い歯なら、硬いものや丈夫なものを食べるのに都合が良く、雑食性だろうことがうかがえる。

 そしてブロニウスのエナメル質は、ヨーロッパのどの類人猿よりも薄く、ゴリラのそれに近い。一方、ダヌビウスは、近縁の絶滅種のどれよりもエナメル質が厚く、ほとんど人間に匹敵する。

 さらに上の歯と下の歯が噛み合う面(咬合面)のエナメル質の形状もヒントになる。

 ブロニウスの場合、エナメル質は滑らかな一方、先端は鋭い。これは食べ物を切断しやすい形状だ。ダヌビウスの場合、エナメル質には溝があり、先端は丸みを帯びている。

 こうしたことから、ブロニウスが草食性だったのに対し、ダヌビウスは雑食性だっただろうと推測されている。

[画像を見る]

写真はボノボ。ダヌビウスの四肢の比率はボノボに最も似ている / photo by iStock・2種の類人猿が同じ場所で暮らしていた初の証拠
 異なる種が同じ場所で同時に共存している状況を「シントピー(Syntopy)」という。ハンマーシュミーデの化石は、ヨーロッパの化石類人猿がシントピーにあったことを示す初めての証拠だ。

 シントピーにある2種は、争いを避けるために、それぞれは異なる資源を利用しなければならない。

 そこで小柄なブロニウスは、高く細い木の枝に登り、葉っぱだけを食べて過ごした一方、その2倍以上も体が大きなダヌビウスは、2本足で歩くことができたので、もっと広い範囲を歩き回り、いろいろな食べ物を口にした。

 こうした関係は、インドネシアに生息するテナガザルとオランウータンの関係にも似ている。小柄なテナガザルは木の上で果物を食べて生きるが、オランウータンが歩き回って食べ物を探す。

 大昔の類人猿もインドネシアの類人猿も、互いにうまく棲み分けをすることで、争うことなく一緒に生きる術を見つけ出したのだ。

 この研究は『Plos One』(2024年6月7日付)に掲載された。

References:Researchers discover new 12-million-year-old great ape in Europe | Faculty of Arts & Science / written by hiroching / edited by / parumo



画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。
「1200万年前の新種の類人猿の化石を発見。中新世のヨーロッパでは2種の古代類人猿が共存していた」のページです。デイリーニュースオンラインは、カルチャーなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る