「誰も傷つかなくていい世界」を作るのにやさしさや本心は必要ない カツセマサヒコさんインタビュー(2) (2/3ページ)
誰だって嫌いな人はいますし、受け入れられないこともあるでしょう。でも、だからって相手を傷つけていいことにはなりません。たとえどんな考えをもっていたとしても、最低限、相手が持っている人としての尊厳を守る。という話であって、全員が全員を本心から受け入れよう、という話ではないと思います。
土方と雨宮だって、本心から打ち解けて仲良くなることなんてないですよ。明らかに遠い二人だけど、それでもここまでなら歩み寄れるというラインはどこかにあるはずだと思って、筆を進めていました。
――自分の加害性を自覚したとしたら、「誰も傷つけないために、人との関わり自体を最小限にしよう」という選択肢もありえるわけですが、それでは人はどんどん孤独になってしまいます。その意味で、会社で居場所を失い、家庭生活も崩壊して荒んだ生活を送る土方と三条の場面はすばらしかったです。
カツセ:土方の隣の課にいる三条には、「隣の課にいるむかつくパワハラおじさんを救う理由」なんて本来ないですから、立場とか役割ではなくて、「この人と今関わらないと後悔する」という三条なりの正義感があったのだと思います。とても好きなキャラクターです。
――土方にエプロンをつけるシーンが特に印象的でした。
カツセ:僕もあのシーンは好きです。これまで料理をしてこなかった土方にとってエプロンをつけるのは抵抗があったはずです。でもその抵抗感にこそ、意識の芽生えがあることを読者の皆さんには感じ取ってもらえると嬉しいなと思います。
――土方が典型的な「昭和の男」として描かれる一方で、雨宮はかなりナイーブな人物として書かれていますね。
カツセ:彼はまだ若くて、時代に合わせて価値観を変化できている26歳という設定なのですが、今の若い男の子たちを見ていて、あまり自分に自信がない人が増えているという感覚を持っていたので、それが反映されているのかもしれません。
――彼は会社でハラスメント被害に関して土方と面談したことを翠さんに話したことがきっかけで、あることを指摘されます。