決して「軍部の操り人形」ではなかった昭和天皇。日本軍のまっとうな統率者としての実像とは

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決して「軍部の操り人形」ではなかった昭和天皇。日本軍のまっとうな統率者としての実像とは

まっとうな統率者だった昭和天皇

昭和天皇といえば「軍部の独走に反対したが、力及ばず傀儡となった悲劇の平和主義者」という穏健な人物だったイメージが今でも根強く残っています。

実際、即位後にアメリカとの関係が険悪になると、国力に勝る同国との対立を避けるよう軍部に抑制を促しています。また対米戦が不可避となった時点でも、最後まで外交交渉を優先するよう軍部に助言し続けました。

また、対米戦の3カ月前に開かれた1938年の御前会議では戦争回避を示唆しています。御前会議は天皇臨席のもとで重要事項を決める際に開かれていました。

しかし、自らが政治介入することを嫌っていたこともあって軍部を抑えきれなかった昭和天皇。そうして戦時中は軍部の操り人形となってしまった――。これが、一般にイメージされている昭和天皇像でしょう。

昭和31年、正装姿の昭和天皇(Wikipediaより)

しかし近年の研究により、昭和天皇は平和一辺倒の理想主義者ではなかったことが明らかになっています。彼は軍部を忌み嫌っていたわけではなく、むしろ軍の統率者という立場から、戦時中は軍事行動に関して積極的に意見を出していました。

そもそも、天皇が軍の統帥権を握る大日本帝国では、作戦案の実行には必ず昭和天皇の許可が必要でした。

後世では、軍部が都合のいい情報で天皇を誤魔化したようなイメージがありますが、それは誤りです。実際には、作戦の詳細や戦地の状況はこと細かに天皇に伝わっていました。

昭和天皇は、軍部をコントロールした上で軍事行動を容認し、きちんとした戦果を挙げることで国益につなげようと考える、至極まっとうな統率者だったのです。

最優先事項は「天皇制の維持」

昭和天皇が軍部をきちんとコントロールした上で、対外的な軍事作戦にも理解を示していたのには、天皇制を維持したいという思いがあったのではないか、という指摘があります。

彼は青年時代に欧州を外遊し、第一次世界大戦の被害が色濃い各国をじかに見ました。これにより、天皇は戦争の悲惨さを痛感したのです。

1921年の訪英時の写真(中央が昭和天皇)。当時のロイド・ジョージ英首相と(Wikipediaより)

昭和天皇が欧州外遊で実感したのは、平和の尊さだけではありません。敗戦国の王族が力を失い、帝政が崩壊した現実も目の当たりにしました。

もしも日本が欧米諸国との戦争に負ければ、皇室が厳しく処分されるのは必須です。事実、戦後のアメリカ世論は昭和天皇への厳しい処分を求めていました。だからこそ、降伏する際に譲歩を引き出せるよう、昭和天皇は軍部の戦果拡大を容認したのではないか、という説もあるのです。

実際、戦争末期には政府も軍部も、降伏するとしても天皇制の維持を優先すべきだと考えていました。その意味では、天皇・政治家・軍人の思惑は根本で一致していたと言えるでしょう。

今の時代からは想像もつきませんが、日本の秩序維持のためには天皇制は欠かせないものだったのです。

ターニングポイントは沖縄戦

こうしたことから、よく言われるように昭和天皇は軍部の操り人形だったわけではなく、軍部からの報告も形式的に聞いていたわけではないことが分かるでしょう。

天皇は、軍事作戦の内容について、時には疑問点がなくなるまで質問攻めにしていたことが分かっています。また、戦況が圧倒的に不利でも戦闘継続を求めたこともありました。

例えば沖縄戦では、戦況は不利だったにもかかわらず陸軍に総攻撃を決断させています。

沖縄県営平和祈念公園「各県戦没者(霊域ゾーン)」新潟県戦没者の碑(新潟の塔)

また、昭和20(1945)年2月に近衛文麿元首相が終戦交渉を上奏しても、戦果が乏しいため降伏はできないとしました。あくまでも、日本にとって有利な状況を作り出すことを政府と軍に求めていたのです。

しかし、沖縄戦ではアメリカに大した打撃を与えられず、沖縄が占領される結果に。こうなると、本土決戦になったとしても勝利する望みは薄いです。

こうした事態を受け、天皇は勝つ見込みがないと悟り、戦争終結に向けて動き出しました。軍部の急進派は戦争継続を主張したものの、昭和天皇は降伏の意志を固めて8月10日にポツダム宣言受諾を決定。14日に無条件降伏を受け入れたのです。

参考資料:日本史の謎検証委員会・編『図解最新研究でここまでわかった日本史人物通説のウソ』彩図社・2022年

画像:photoAC,Wikipedia

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