月の満ち欠けが生まれる魚の性別に影響を与えることが判明
[画像を見る]
神秘的な月は魚の性別にミステリアスな影響を与えることもある。新たな研究によると、スズキ目ベラ科の「セナスジベラ」という魚は、新月に生まれるとオスになるのだという。
この不思議なパターンは、新月や満月における海の環境の変化をうまく生き抜くための適応かもしれない。
というのも新月に生まれたセナスジベラの赤ちゃんは、ほとんどが死んでしまうからだ。だが、運よく生き残れた赤ちゃんはオスになり、子供を作るという幸運に恵まれることになる。
この研究は『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』(2024年8月7日付)に掲載された。
・月の満ち欠けに生存率が左右される魚「セナスジベラ」
インド洋や太平洋西部のサンゴ礁に生息するスズキ目ベラ科ニシキベラ属の魚「セナスジベラ(Thalassoma hardwicke)」は、体長20cm程度にまで成長する、薄い青色の体色に背側に黒色の筋があり、頭部に赤色の筋があるのが特徴の魚だ。
この和名は7本筋にちなんだものだが、英名「シックスバーラス」は6本筋にちなんでおり、同じ種でも地域によって筋の数え方が違うのが面白い。
もう1つ興味深いのは、セナスジベラの生存率が月に影響されることだ。
セナスジベラはなぜか新月によく卵を産むのだが、不思議なことに、このタイミングで生まれた稚魚はほとんどが死んでしまう。一方、満月に生まれた稚魚は生き残りやすい。
ヴィクトリア大学ウェリントン校(ニュージーランド)の生態学者ジェフ・シマ教授らが取り組んだのが、この奇妙なパターンの謎だ。
そのために、フランス領ポリネシアのモーレア島でセナスジベラを観察した。
[画像を見る]
モーレア島でセナスジベラを観察 / image credit:Te Herenga Waka—Victoria University of Wellington・新月に生まれた子はオスになる確率が高まる
そして明らかになったのは、新月に生まれたセナスジベラは、生き延びるために発達速度を変化させねばならないということだ。
それが性成熟にも影響を与え、オスになる確率が高まるという。
新月に生まれたセナスジベラは、成長するうえで最適な場所を見つけねばならない。
そこで長く成長し、大きな体になり、そして群れの一員となる。こうした要因はどれもオスとして成熟する可能性を高める。
こうした赤ちゃんのほとんどは生き残れませんが、生き残った少数の稚魚はオスになる可能性が濃厚です。これは宝くじに当たったようなものです。セナスジベラのオスはその分たくさん子孫を残せるのですから(シマ教授)こうした産卵パターンは、賭けの勝率を計算したものかもしれないという。すなわち満月に生まれた低リスクの稚魚と、新月に生まれた高リスクの稚魚の生存率が関係している可能性がある。
[画像を見る]
photo by iStock・他の海洋生物にも同じパターンがある可能性
こうしたパターンがセナスジベラ以外にあってもおかしくはない。
シマ教授によれば、さまざまな海の生物の繁殖には、月のサイクルが関わっているのだという。
こうしたパターンは適応的なものかもしれません。それによって親や子供は、潮の流れや食物の豊富さといった有利な影響を利用したり、捕食動物を避けたりするのです(シマ教授)とは言え、海の生き物がいつ、どこで、どのように繁殖しているのか、ほとんどわかっておらず、自然界の最大の謎の一つなのだそう。
またシマ教授らは、人間が使う照明がこうしたパターンに悪影響を与えるのではと懸念している。
夜に人間が使う照明は、一部の地域の生物の成長・生存・繁殖に大きな、それでいてほとんど気づかれていない影響を及ぼすかもしれません(シマ教授)References:Fish develop their sex based on phases of the Moon / Early life history variation in phenotypes and fitness of a coral reef fish, Thalassoma hardwicke / written by hiroching / edited by / parumo
『画像・動画、SNSが見れない場合はオリジナルサイト(カラパイア)をご覧ください。』