帰ってきた言葉のタイムカプセル。自分の言葉が導いた選択と別れ【海のはじまり#9】
※このコラムは『海のはじまり』9話までのネタバレを含んでいます。
■突然変わった2人の関係
順調に交際を続けいてたはずの夏(目黒蓮)と弥生(有村架純)。しかし、そこに突如、夏の子ども・海(泉谷星奈)が現れたことで、二人の関係が一気に変化しました。
夏の中では優先順位の一番が海になり、弥生と二人で食べる自炊の献立も、夏の目線の先には海がいる……。出かけるのも夏と弥生の真ん中には海がいて、その行き先も子どもありき。
夏からの「夕飯を食べよう」との誘いには、二人きりだと喜び勇んで、行きたい店を提案したものの、実は海も一緒で……子どもがいることで行きたい場所にも行けない。何より夏の目線の先には弥生がいない。
海のことは大好きだけど、大好きな夏との関係が大きく変わり、気づけば知らず知らずのうちにたくさんの無理をして、弥生の心もパンク寸前になっていました。
■夏が本音を言うくらい追い込まれた状況
夏と弥生の出会いは、仕事がきっかけ。取引先として仕事で関わり、お互いの良いところを少しずつ見つけながら気づけば恋心が生まれていました。子どもが大好きな弥生は「いつか二人の子どもを」と夢見ながら交際を続けてきた中での、青天の霹靂のような海の登場。
弥生の変化に気づきながら見て見ぬふりをしてきた夏も、そろそろ限界に気がつき、弥生に本音を問いかけます。
「子どもがいるって知って、最初は面倒だと思った。自分もまだ弥生さんと二人でいたかった。でも今は海ちゃんがすごく大切。弥生さんが母親になってくれたらうれしいし、正直楽だと思った。一人で親になるの不安だったから……弥生さんの辛さには気がついていたけれど、無視して自分の思い通りにしようとしてた」
優しすぎてお互いの本音を隠し続けていた二人。あれだけ本音を言えない夏が、ここまで自分の気持ちを話すほどの状況ということに、弥生がどれだけ追い込まれてしまっていたかを感じ取れます。しかし弥生の中ではまだ答えが出ませんでした。
■タイムカプセルのような水季の言葉
夏の後押しもあり、弥生は水季(古川琴音)の手紙を読むことを決意します。
「夏くんの恋人」にあてられたその手紙。
その中に綴られていたのは、面倒なことに巻き込んだことへのお詫び。中絶するつもりだったこと。それは相手のことを考えすぎていたためで、珍しく他人の言葉に影響され、自分が幸せだと思える道を選択して、それが間違いなく幸せだったと今言えること。
そして、その先には「他人に優しくなりすぎず、物分かりのいい人間を演じず、ちょっとズルをしてでも自分で決めてください。どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。海と夏くんの幸せと同じくらい、あなたの幸せを願っています」の言葉。
そう、これは弥生が産婦人科で、中絶を選んだ後悔をノートに綴ったのと全く同じメッセージ。弥生はこれを読んで、水季が影響を受けた他人が弥生だったことに気づいたでしょうか。
そして、あの時したためた自分の言葉が、タイムカプセルのように今弥生のもとに帰ってくることで、弥生は自分の選ぶ道がはっきりと見えたのでした。
■弥生の決意と、最後の2人きり
「最初は3人で楽しかった。けれど、どこかに水季の影があり、3人ではなくなっていた。水季から奪い取ったような気持ちや、水季を知らない自分だけが仲間はずれのような疎外感、水季への嫉妬が生まれ、いつしか3人でいることが辛くなっていた。海と夏のことは好きなのに、いろんな感情が邪魔をして、2人でいると自分が嫌いになる」
自分の気持ちをはっきりと伝えた弥生は、「やっぱり夏と2人でいたかったし、海ちゃんのお母さんにはならない」と、夏に別れを告げます。
夏も「2人のどちらかを選ばなきゃいけないなら海ちゃんを選ぶ」とはっきりと伝え、2人の進む道がはっきりと分かれたのでした。
駅まで送るまでの道すがら、夏が弥生の手を握ったのが印象的でした。
2人の間に海がおらず、海ではなく互いの手を握ったのは久しぶりのこと。
夏が涙を流す中、気丈にふるまっていた弥生が電車に乗ってからは夏に背を向け、一切振り向くことがなかったのは、好きなのに別れる2人の決意を揺らがせないためだったのでしょうか。
背を向けながら、夏に涙を見せないように泣く弥生。きっと弱さを見せたら2人の気持ちが変わってしまうかもしれないから。
■良くも悪くも、弥生の人生を変えてしまった言葉
弥生の言葉で水季は産むことを決意しましたし、弥生は夏と別れて自分の人生を生きることを決めました。これだけ見ると、「弥生の言葉が、水季の人生も変え、自分の人生もまた、変えてくれた」悲しい美談のように見えます。
しかし裏を返せば、「弥生の人生を望まぬ方向に大きく変えてしまった」ということでもあります。弥生があの時、あの言葉を綴っていなければ、きっと水季は産む決意をしていませんでした。
そうなれば今ここに海はいないし、夏との幸せな交際がそのまま続いていたわけです。果たしてどちらが弥生にとって幸せだったのか。悪く言えばあの言葉が、弥生が描いていた未来を奪ってしまったともいえます。
良くも悪くも、あのノートが弥生自身の人生を大きく変えたのでした。一見悲しい美談のように見えて、一方で裏を返せばなんとも皮肉な展開。
母親、中絶と、ずっと苦しみと我慢を強いられてきた優しい弥生。今回もまた、犠牲を伴いながらの悲しい選択をせざるを得なくなりました。どうか幸せになってほしい……。
これから、もし、気持ちが変わることがあって、夏と海との人生を歩むようなことがあれば、この意味はまた変わってくるのですが。
海と2人での暮らしを始めることを決意した夏。海にもたくさんの環境の変化が訪れることで新たな問題が生まれると思われますが、果たして……また次回。
(やまとなでし子)