祖国や故郷の平和を願い…【光る君へ】劇中で藤原隆家が武者たちと舞っていた唄の元ネタと意味は?
♪やすみしし~我が大君の~こもります~
天(あめ)の八十蔭(やそかげ)出で立たす~
御空を見れば~万代(よろづよ)に~かくしもがも~
千代(ちよ)にも~かくしもがも~♪※NHK大河ドラマ「光る君へ」第46回放送「刀伊の入寇」より
眼病治療のために大宰府へ赴任した藤原隆家(竜星涼)が、在地の武者たちと舞いながら唄っていたこの歌。
元ネタはあるのでしょうか?
蘇我馬子が推古天皇に詠んだ歌この唄の元ネタは、推古天皇20年(612年)正月、蘇我馬子(そがの うまこ)が推古天皇(すいこてんのう。第33代)の御代を寿(ことほ)ぐ歌です。
【原文】
夜酒瀰志斯(やすみしし)
和餓於朋耆瀰能(わがおほきみの)
訶句理摩須(かくります)
阿摩能椰蘇河礙(あまのやそかげ)
異泥多々須(いでたたす)
瀰蘇羅烏瀰禮麼(みそらをみれば)
豫呂豆余珥(よろづよに)
訶句志茂餓茂(かくしもがも)
知余珥茂(ちよにも)
訶句志茂餓茂(かくしもがも)
訶之胡瀰弖(かしこみて)
菟伽陪摩都羅武(つかへまつらむ)
烏呂餓瀰弖(をろがみて)
菟伽陪摩都羅武(つかへまつらむ)
宇多豆紀摩都流(うたつきまつる)
【意訳】
この日本国を隅々まで治(しろ)しめ給う
我が大君=天皇陛下が、いらっしゃる
天の八十蔭=宮殿からおいでになり
美しい空を見上げられ
いつまでも、かくあれかし(このようにあればよいのに)と願われた
いついつまでも、かくあるように
お仕えしよう
心を込めて篤く敬い
お仕えしよう
そんな思いを歌に詠みました
【注釈】
やすみしし:→八隅(やすみ)治(し。知)し:八方の隅まで知り治められる。
→八州(やす。大八洲、日本)を見治(みしら)される。 天の八十蔭:
→天を覆う多くの影、転じて宮殿・皇居のこと。 万代、千代:
→一万の時代と、千の時代。転じて「いつまでも」。 かくしもがも:
→斯く(このように)あって欲しい。 かしこみて:
→畏まって、心を込めて。 おろがみて:
→拝(おろが)みて、篤く敬って。 うたつきまつる:
→お歌い奉る。
まったく、口に出して読むだけで、馬子の清々しい真心が伝わってくるようです。
晴れやかな席でこのような歌を奉れたことは、彼にとって最上の栄誉だったのではないでしょうか。
この歌が選ばれた理由は?唄の元ネタが判ったところで、これを劇中で舞い唄った意図は何なのかが気になります。
もしかしたら、刀伊の入寇という国難に際して
「天皇陛下の治(しろ)しめられる日本がいつまでも続くように願って、歌の代わりに命を奉る(命がけで賭けて戦う)」
展開を暗示していたのかも知れませんね。
♪……豫呂豆余珥(よろづよに) 訶句志茂餓茂(かくしもがも)
知余珥茂(ちよにも) 訶句志茂餓茂(かくしもがも)
訶之胡瀰弖(かしこみて) 菟伽陪摩都羅武(つかへまつらむ)
烏呂餓瀰弖(をろがみて) 菟伽陪摩都羅武(つかへまつらむ)……♪
【意訳】
万世の先まで、日本がこのように(平和で)あったらいいのにと。
千代の末まで、日本がこのように(平和で)あるようにと。
心して、ご奉公しよう。
皇室の権威を守り抜くため、死をも厭わずご奉公しよう。
……舞っていた時、彼らはそこまで思っていなかったことでしょう。しかしいざ国難に臨んで、彼らは覚悟を決めて戦いました。
そんな英雄たちの姿は、千年の歳月を越えて私たちの胸を打ちます。
終わりに今回はNHK大河ドラマ「光る君へ」第46回放送「刀伊の入寇」で武者たちが唄っていた歌について調べてみました。
祖国や故郷の平和を願い、いざ事あらば身命を賭して戦う武人たちの姿に、心惹かれた方も多いのではないでしょうか。
こういう劇中歌にも興味をもって調べてみると、もっといろいろ発見がありそうですね。
※参考文献:
平林章仁『蘇我氏と馬飼集団の謎』祥伝社新書、2017年8月日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan