聖徳太子の誕生エピソード、実は『聖書』を模倣?一見トンデモに見える学説を紹介!

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聖徳太子の誕生エピソード、実は『聖書』を模倣?一見トンデモに見える学説を紹介!

聖徳太子とイエス・キリスト

トンデモ説と呼ばれる歴史の学説も、冷静に見つめてみると、その学説が生まれたもっともな根拠や歴史的背景などがあるものです。

今回は「聖徳太子誕生話=キリスト誕生話」説について掘り下げてみましょう。かの聖徳太子が誕生した時のエピソードが、実はイエス・キリスト誕生時のエピソードを模倣したものではないかという説があるのです。

『日本書紀』では、聖徳太子が宮中の厩(うまや)で誕生し、それにちなんで「厩戸皇子(うまやどのおうじ)」と名づけられたと記されています。

その話がキリスト誕生の説話とよく似ているところから、それを模倣したものではないか、ということですね。

西国第三十二番札所・観音正寺の聖徳太子像

もう少し詳しく見ていきましょう。『日本書紀』における聖徳太子誕生のストーリーは、推古天皇によって厩戸皇子が摂政に取り立てられたという箇所に出てきます。

それによると、母親の穴穂部間人皇女は懐妊中に禁中を巡回し、諸役人を視察しながら監督していたとされています。そして馬官のところに着いたとき、厩戸で聖徳太子を産んだというのです。

意外とありうる話

しかし、この話には無理があるとされています。

聖徳太子は敏達天皇時代の574年に誕生しましたが、父親は敏達天皇の異母弟で、のちの用明天皇です。

用明天皇(Wikipediaより)

ただ聖徳太子は、誕生した当時は皇位継承の候補に挙がることもなく、傍系の立場にありました。

そこから考えると、一皇族の妻にすぎない穴穂部間人皇女が禁中を巡回して諸役人を監督するとは考えられません。

そんなこともあって、『日本書紀』の厩戸皇子誕生をめぐる話は創作ではないかと考えられるようになり、さらに聖書を模倣したのではないかという説が語られるようになったのです。

しかし、そうなると当時の日本には聖書の内容が伝わっていたことになります。そんなことがありうるのでしょうか? にわかには信じがたく、多くの人はトンデモ説のように感じるのではないでしょうか。

しかし実は、『日本書紀』が書かれた頃、唐の長安で学んだ留学生が現地でキリスト教(ネストリウス派)に接する機会がありました。

そして彼らの中には、帰国後に政界の中枢を担った者が少なくなかったのです。

よって、聖徳太子誕生の逸話は、キリスト教のエピソードを知っていた者が厩戸皇子という名にちなんで模倣した創作なのではないかと考える研究者もいます。意外と「ありうる」話なのです。

イエスは馬小屋で生まれていない?

聖徳太子誕生時のエピソードが聖書を模倣したものだという考えも一理あることが分かりましたが、実はこの説も一筋縄ではいかないので注意が必要です。

イエスは「馬小屋」で生まれたという認識が日本では定着していますが、実は西欧ではイエスが生まれたのは「家畜小屋」や「洞窟」だとされていることが多く、「馬小屋」とはほとんど認識されていません。

キリスト誕生のシーンを示したクリスマスモニュメント

ではなぜ、日本では「イエスは馬小屋で生まれた」と理解されているのかというと、これは逆に、聖徳太子が「厩」で生まれたとする伝承が影響して、日本人に強烈なイメージを与えたのではないかとも考えられるのです。

日本では、かつては牛小屋なども「厩」と呼んでいました。また、聖書によると、生まれた直後のイエスは「飼い葉桶」に寝かされたことになっていますが、日本には飼い葉桶にあたる訳語がなかったため「馬船(うまふね)」といった訳語が与えられたという経緯があります。

さらに言えば、聖書では、飼い葉桶で寝ているイエスに牛とロバが礼拝したという記述もあります。ロバは馬と似ていますね。

つまり、もともと聖書の内容や訳語は日本人にとって「馬」「馬小屋」を連想しやすいものだったということです。

世界的にも特殊な刷り込み?

そこへきて、さらに聖徳太子が馬小屋で生まれたという伝承が加わって、「イエスは馬小屋で生まれた」という理解が広まった可能性もあるのです。

これはあくまでも「そういう説がある」ことのご紹介なので真偽のほどは分かりませんが、掘り下げてみると面白そうですね。

まとめると、「馬小屋で生まれた聖徳太子」のイメージは「馬小屋で生まれたキリスト」のイメージに由来する可能性があります。

しかし、そもそも「馬小屋」で生まれたキリストのイメージは、後に訳語などが原因で創作された聖徳太子誕生時のエピソードによって反対に日本人の頭に刷り込まれてしまった、世界的には特殊なものなのかも知れないのです。

参考資料
平塚徹『日本ではイエスが馬小屋で生まれたとされているのはなぜか』
画像:photoAC,Wikipedia

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