自分で決めた道を、歩み続ける。舞妓・芸妓として活躍する彼女たちの「働き方と生き方」

取材・文:ミクニシオリ 撮影:洞澤佐智子 編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部
みなさんは、自分が将来やりたいことは学生の頃から決まっていましたか? 大学進学や就職活動のタイミングで決める方も多いと思いますが、やりたいことを10代で見つけた女性たちは、どんな20代を過ごすのでしょう。
そんな疑問に答えてくれたのは、京都で活躍する「芸妓・舞妓」たち。江戸時代から続く職業ですが、その存在を身近に感じることは少ないかもしれません。そこで今回は、「働くわたしの選択肢」特別版として、彼女たちの「働き方」に注目。お話を聞いていくと、彼女たちならではの努力や人生が見えてきました。
■はんなり見えて、実は努力家の彼女たち
<プロフィール>
・櫻千鶴(はるちづ)芸妓(げいこ) 出身:東京都 年齢:21歳
・華奈子(はなこ)舞妓(まいこ) 出身:千葉県 年齢:20歳
・君真奈(きみまな)地方(じかた) 出身:神奈川県 年齢:27歳
ーー本物の芸妓さん・舞妓さんとお話しさせていただくのは初めてです! どうぞよろしくお願いします。
櫻千鶴 どうぞ、よろしゅうおたの申します。うちはもう芸妓(げいこ)なんどす。芸妓になる前の修行中の子のことを、舞妓いうのどすよ。
ーーなるほど〜。そしてこれが噂に聞く京ことば! はんなりしていますねえ。早速ですが、みなさん自己紹介と舞妓さん、芸妓さんを目指したきっかけをお願いします。
櫻千鶴 はるちづ、と申します。うちは高校にはいかんと、中学を卒業してすぐに置屋(舞妓たちが所属して生活をする場所)にお世話になったんどす。
華奈子 はなこどす。うちも小さい頃から舞妓に憧れてたんで、迷うことなく京都に来ました。
君真奈 きみまなどす。うちは姉さん2人と違って、地方(じかた)いうてお唄と三味線をさせてもろうてます。
ーー櫻千鶴さんは立方(たちかた)さんなので舞担当、君真奈さんは地方さんということで、音楽担当ということですよね。みなさん、どちらの道に進むかはもともと決めていたのでしょうか。
櫻千鶴 うちは舞に憧れてたんで、立方を目指したいと決めてましたねえ。それで、小さい頃にも少し日本舞踊をやらせてもろて。
君真奈 姉さんたちは15から京都に来てはるけど、うちは社会人を経験してからなんどす。もともと音楽をやっていたんで、地方になりたいと思ってこの世界に入りました。
ーー立方と地方、ある程度どちらの道に進みたいか決めている人が多いのでしょうか。
櫻千鶴 舞妓のうちは舞もお唄も三味線も、全部習わせていただくんどす。舞妓は基本、立ち方(舞手)になるんどす。そやけど途中で唄や三味線のほうが向いてるゆうことで、地方さんにかわらはったお姉さんもおいやす。
ーーし、知らなかった。そもそも舞妓さんってどうやってなるのかも、よく知らない人も多そうですが……。
櫻千鶴 京の花街にある置屋さんを頼って、住み込みで修行させてもらうんどす。最初は仕込みいうて、芸事の稽古を受けながら、行儀作法なんかも教えていただくんどす。
ーーそういえば、みなさんは関東出身なんですよね。もしかして、京ことばも仕込みで覚えるんですか?
櫻千鶴 ええ、そうどすよ。
華奈子 京ことばもそうどすけど、慣れんうちは色々間違えて……たくさん叱ってもろて育てていただくんどす。
■厳しいお稽古の先にある大舞台をモチベーションに
ーー置屋さんに住み込みで修行からスタートするなんて、キャリアのスタートも一般の社会人とはかなり異なりますよね。働き方も、独特な部分があるのでしょうか。
櫻千鶴 うちは今もう芸妓としてやらせてもろてますけど、舞妓のうちからお稽古時間は長いかもしれへんどすねえ。基本的には毎日、午前中はお稽古があるんどす。地方さんはもう少し長いんどすかねえ?
君真奈 うちは少し、朝が早めかもしれまへんねえ。置屋さんやお師匠さんによっても、お稽古の長さは変わるんどす。
華奈子 でも、お昼は少し自由時間があるんどす。うちは地毛なんで、髪は結ったまま出なあかんのですけど、鬘(かつら)をつけている芸妓のお姉さんなんかはお洋服でランチに行ったりもしたはりますねえ。
櫻千鶴 そやけどお茶屋さんのお座敷前にはお支度もありますからねえ。化粧して着付けてもろて……だいたい1時間くらいで準備して、夜はお座敷。ほんで、夜はみなさん置屋の門限がありますから、急いで帰って寝る支度をするんどす。
ーーお稽古にお支度に門限……かなり忙しそうですね。
君真奈 うちは三味線もお唄も大好きなんで、稽古もつらいとは思わへんのどす。毎日お座敷に立たせてもろて、ありがたさの方が大きおす。
華奈子 舞妓になる前の修行の時から忙しおすから。慣れてしまえばなんてことはないんどす。
櫻千鶴 舞妓、芸妓になれる子も一握りどすさかい。その前にホームシックになってしまったり、お稽古がつらくて辞めてしもたりする子もいるのどす。
ーーみなさんの働くモチベーションはどこにあるのでしょうか。
櫻千鶴 お座敷にいらしてくださるお客様に喜んでもらうこともそうどすけど、貴重な経験をさせていただけますから。うちも最近初めてパリへ海外出張(レセプションパーティー)によせてもろて、嬉しおしたねえ。
華奈子 うちはやっぱり、舞妓、芸妓の姿が好きなんどす。着られるお着物もかんざしも、年数が増えるほどにきれいにしてもらえるんどす。お稽古は大変どすけど、決めたことをやり切りたいって思いもありますから。
君真奈 毎年春に行われる都をどりも、一つのモチベーションになりますね。
華奈子 普段は親兄弟にも、この姿で会うことはできまへん。そやけど、都をどりは誰でも見に来られるんで、家族に晴れ姿を見せられるのは嬉しおす。
ーー舞妓さんたちには、普段はお茶屋さんでしか会えないんですよね。お茶屋さんは一見では出入りできないということですから、ご贔屓でなくても観覧できる都をどりは貴重ですよね。
華奈子 2月3月の時期には普段のお稽古に加えて、都をどりの演目のお稽古や全体練習も入ってきますから、私たちにとっては頑張りどきなんどす。
君真奈 舞妓さんや芸妓さんが一同に会す機会は都をどりくらい。人によってもらえる役や舞台に立てる時間も違うんで、ご贔屓の子を応援に行くもよし、たくさんの舞妓・芸妓の中から、気になる子を見つけてみるのもいいかと思います。
櫻千鶴 今年の演目は『都風情四季彩(みやこのふぜいしきのいろどり)』。1時間の舞台で四季の彩を表現するんで、日本情緒の豊かさを感じてもらえると思います。
華奈子 京都の街を盛り上げるためにと始まって、150年もの歴史があるイベントですから、普段以上に気合いが入るんどす。演目だけでなく、衣裳も毎年新調されますから、何度見ても楽しめるんどすよ。
■決めた道を歩み続ける心意気
ーー春の都をどり、楽しみですね。それにしてもみなさん、お若いのにすごくしっかりされてますよね。やはり、お座敷での行儀作法が生きているのでしょうか。
櫻千鶴 お座敷にいらしてくださるお客様も優しいので、自分のコミュニケーション力がすごいと思ったことはあらしまへんが……話す時に目を合わせたり、落ち着いて話したりなんかは、仕込みの時から言われますんで、身に着きますねえ。
ーー奥ゆかしいお返しにもまた、コミュニケーション力の高さが垣間見えますね。休日にリラックスする瞬間には、京ことばを使わないこともあるのでしょうか?
櫻千鶴 1人で過ごす時間はスマホを見てぼーっとしてるだけ、なんてこともありますよ。頭の中では標準語に戻っていることもあります(笑)。
君真奈 うちはまだ修行の身なので、お姉さんたちと過ごすことが多いですから、京ことばで話すことが多いどすねえ。行事ごとを大切にするお家なので、クリスマスにはみんなでパーティーをすることもあり、等身大の自分で過ごさせていただく瞬間もあります。
ーーみなさんはこれからも、舞妓・芸妓としてキャリアを極めていきたいというお気持ちなのでしょうか。
櫻千鶴 芸妓をしてない自分は、あんまり想像がつかしまへんねえ。大変なこともありますが、今はまだ続けたい気持ちが大きおす。
華奈子 もう、舞妓をしてる自分が当たり前になっているんどす。舞妓やない自分は、自分やないような気がしますねえ。
君真奈 せっかくここまで続けてきたことを、嫌やからなんて気持ちだけで辞めるのは勿体ないし、情けないどす。前のお仕事と比べても楽しくやらせてもろてますから、できるだけ長く続けたいですねえ。
ーー厳しいお稽古を乗り越えて、夢をつかんで活動する舞妓さんたちの熱意、存分に感じさせていただきました……!
■花街文化という無形財産を肌で感じて
舞妓さんや芸妓さんといった存在に、実際に触れたことがある人は多くないかもしれません。しかし、彼女たちの立ち姿や話し方、舞や唄を肌で感じてみると、私たちが生まれた日本という国の趣深さ、文化の面白さを感じざるを得ないでしょう。
都をどりは、そんな彼女たちの醸し出す日本情緒や風情、洗練された芸を実際に目にすることができる貴重な機会。京都では春の風物詩とも呼ばれる都をどりで、ぜひ今一度日本の文化に触れてみませんか?
■「都をどり」概要
公演名:都をどり
会期:2025年4月1日(火)~4月30日(水) ※4月15日は休演日となります 1日3回公演(各公演約1時間) 1回目12:30~ 2回目14:30~ 3回目16:30~ 観覧料:茶券付一等観覧席:7,000 円、一等観覧席 6,000 円、二等観覧席 4,000 円
会場:祇園甲部歌舞練場(〒605-0074 京都府京都市東山区祇󠄀園町南側570-2) 主催:学校法人八坂女紅場学園・祇園甲部歌舞会 協力:公益社団法人京都市観光協会 電話番号:075-541-3391
公式HP:https://miyako-odori.jp/miyako/ ※チケットは2025年1月6日から公式HPで発売中