江戸時代の武士にとって「天下の悪事3ヶ条」とは?武士道バイブル『葉隠』より現代にも通じる教訓を紹介

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江戸時代の武士にとって「天下の悪事3ヶ条」とは?武士道バイブル『葉隠』より現代にも通じる教訓を紹介

世の中を見回してみると、悪いニュースが耳目に障らぬ日はありません。

犯罪・不祥事・天変地異……天災ならば人間には防げませんが、その多くは人間が引き起こしたものです。

なぜ人間は悪事を働いてしまうのか……それぞれ動機や事情は異なるものの、いずれにも共通する性質がありました。

今回は江戸時代の武士道バイブル『葉隠(葉隠聞書)』が説いた、悪事の3ヶ条を紹介。江戸時代の武士たちも、世の悪事に義憤を燃やしていたようです。

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『葉隠』原文と現代語訳

九○ 貪・瞋・癡と、よく撰り分けたるものなり。世上の悪事出来る時、引き合ひて見るに、この三箇絛に迦るゝ事なし。吉事を引き合ひて見るに、智・仁・勇に洩れずとあり。

※『葉隠聞書』巻第二

【意訳】貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)とは、よく分類したものである。世の中で起こった悪事について、犯人の動機などを分析してみると、この3ヶ条のいずれかが必ず当てはまっている。

一方でよい出来事もある。こちらは動機について分析してみると、智(ち)・仁(じん)・勇(ゆう)のいずれかが当てはまらないことはない。

……これだけの短い教訓ですが、悪事と好事に必ず当てはまる3要素について、それぞれ見てみましょう。

悪事の3ヶ条とは?

道理を忘れ、欲望を貪る者たち(イメージ)

貪・瞋・癡とは仏教で戒めるべき煩悩として挙げられるものです。

貪(とん):むさぼること。広義にはあらゆる意味での欲望を指しますが、ここでは特に過剰な様子を言います。

瞋(じん):いかること。特に我を忘れるほど怒り狂い、衝動に駆られる様子です。

癡(ち):おろかなること。物事の道理や因果を考えずに行動する様子が問題視されました。

およそ世の中で起こる悪事は、このいずれかあるいは全てが絡んでいると言います。

確かによく吟味すれば、過剰な欲望が戦争を起こし、ついカッとなってやってしまうこともあるでしょう。

そして「こんなことをしたら、どんなひどい結果になるか」を理解出来ていれば、防げた悪事も多いはずです。

吉事の3ヶ条とは?

天に替わって道を行う(イメージ)

続く智・仁・勇とは、人が備えるべき徳目を集約したものを指します。

智(ち):物事の道理をよくわきまえていること。愚かな選択をしないために必要です。

仁(じん):人を愛すること。恋愛的な意味よりも、広く人類愛や社会愛を重視します。

勇(ゆう):自分の利益よりも、みんなの利益を求めて行動を起こすこと。ボランティア精神と言えるでしょう。

人類有史以来、天下の好事はこれらのいずれかあるいはすべてが絡み合った結果として行われました。

人を愛するが故に、私欲をおさえて公益を求める行動を起こし、それがひいては自分を含む人々の幸せにつながったのです。

そうした高い視点や広い視野を持つことが、為政者には求められたことでしょう。

終わりに

今回は江戸時代の武士道バイブル『葉隠』より、悪事と好事の3ヶ条について紹介してきました。

戒めるべき欲望と、実践すべき徳目。こうした精神を折に触れて肝に銘じ、武士たちは己を律したのだと思います。

令和の現代に生きる私たちも、先人たちの高い精神性き恥じぬよう、少しずつでも努力していきたいですね。

※参考文献:

古川哲史ら校訂『葉隠 上』岩波文庫、2011年1月

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