『べらぼう』差別に挑む蔦重の覚悟!「本」への想いが魂でつながった蔦重とていの心情を考察【後編】

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『べらぼう』差別に挑む蔦重の覚悟!「本」への想いが魂でつながった蔦重とていの心情を考察【後編】

「どうです、女将さん、この際一緒に本屋をやりませんか?」……自分が買いたいと願う日本橋の本屋の一人娘てい(橋下愛)に対して、いきなり大胆な提案を切り出す蔦重(横浜流星)。

「べらぼう」の24回「げにつれなきは日本橋」での話です。いくら店舗を売って欲しいと願っていても「吉原者には売らない」と頑なな姿勢を貫く相手に、なぜプロポーズ?と思った人は多いでしょう。

※前編の記事はこちら↓

『べらぼう』差別に挑む蔦重の覚悟!「本」で結ばれたソウルメイト・ていとの出会いを考察【前編】

蔦重らしい、この「大切なプロセスを吹っ飛ばした」感の強いこの言葉。皆さん、覚えていますか?

NHK大河ドラマ「べらぼう」公式サイト

以前、鳥山検校(市原隼人)からの見受け話が来た瀬川花魁(小芝風花)に、彼女の想いにも気が付かずに、「この本さえあればどこに行っても通用する」と、女性の日常生活に必要な知識や作法などを書いた『女重宝記(おんなちょうほうき)』という本を贈った時のことを思い出しました。

『女重寳記/新板増補』(ポーラ文化研究所所蔵)出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100314404

「女心」に対する鈍感さや「恋愛下手」は相変わらず。

けれども、今回のていに対するプロポーズは、「ただ女心に鈍感」なだけではありません。ましてや「丸屋をどうしても手に入れたくて焦った」だけでもありません。

まったく、生まれも育ちも異なる何の接点もないようにみえた、ていですが、実は「魂の深い部分」でまったく「本」に対する同じ考えを持っている「ソウルメイト」だということに、蔦重が気が付いたからなのです。

【後編】では、この蔦重とていの心情などについて考察してみました。

「本に対する熱い想い」は蔦重もていも同じ

一流の絵師や戯作者というたくさんの「宝」を抱え、協力してくれる吉原の妓楼主たちなど「チーム蔦重」もでき、プロデューサー兼本屋としてビジネスを成長させてきた蔦重。

自分が日本橋のど真ん中で本屋を開いて大成功して「吉原者」に対する差別を無くすため、あと足りないのは「日本橋だけ」

平賀源内(安田顕)の想い、愛する瀬川の想いも背負っています。

「夢」を現実にするには、まずは日本橋で空き店舗となる丸屋を手に入れたいと思うのは当然でしょう。

NHK大河ドラマ「べらぼう」公式サイト

けれども、「吉原の蔦屋耕書堂だけは1万両積まれようとも、お避けいただきたく」。と吉原を嫌うていは手強い。「何かていが欲しいものはないか?」と、北尾重政(橋本 淳)に相談したところ「寺で漢籍を読んでいる」という話を聞き早速寺に出向きます。

そこで、偶然、店を閉店するにあたり、大量の本を住職(マキタスポーツ)に委ねにきたていに遭遇し、二人の会話を耳にします。

「本は処分してしまえば、ただの紙屑。けれども、本の立場になって考えればそれは不本意なこと。

本を子供達にあげれば、子らに文字や知恵を与え、その一生が豊かで喜びに満ちたものとなれば本も本望。本屋も本懐というものにございます」

と、ていは本音を語ります。(ただの駄洒落と違って、とてもインテリジェンスのあるエレガントな「地口」でしたね)

語り口調は違えども、以前蔦重が迷っていたとき、平賀源内がビジネスに挑戦するときに言ってくれた

「本ってなぁ、人を笑わせたり、泣かせたりできるじゃねぇか。んな本に出会えたら人は思うさ『あぁ、今日はついてた』って」

「本屋ってなぁ、ずいぶんと人につきを与えられる商いだと俺ゃ思うけどね」

という、セリフと同じ……と、誰もが思ったのではないでしょうか。「同じじゃねえかよ」と呟く蔦重。ていの口から、源内と蔦重と同じ考えが紡ぎ出されるシーンは感動的でした。

そして、彼女が欲しいものはたったひとつ。「本屋」という仕事だと気が付きます。けれども、その本屋も本も手放さなければならず「私は何のために生きているのか」と呟いた言葉を蔦重が捨て置くはずはないでしょう。

黍団子をふるまう桃太郎とお供の雉・犬・猿。―山東京伝(北尾政演)著『絵本宝七種』(蔦屋重三郎刊、1804年)より。

そして、亡八らとともに、日本橋の本屋達とていとの打ち合わせの場に乗り込みます。亡八らは丸屋の借金の証文をかき集めて、「俺たちにも店の権利がある」と主張しますが、鶴屋(風間俊介)から「証文ならこちらも持っている。しかし私たちはそういうことをやらない」と反撃されてしまいまうのでした。

そこで、冒頭の「どうです、女将さん、この際一緒に本屋をやりませんか?」……のセリフがでてくるのです。

ていが丸屋を続けたいと願っていることを知り、それなら「自分と組めば貴女の願いは叶うし、俺の夢も叶う」というプロデューサーらしいwinwinな考え方です。

けれども、いきなり「ザ・ビジネス」なオファーで、しかも「女やもめに花が咲くと言われるなら、ひと花咲かせましょう」などと、悪気はないものの、まったくデリカシーのない直球を投げ、逆に怒らせ「どんなに落ちぶれようと、吉原者と一緒になる気はありません」とバッサリ拒絶されてしまいます。

地本問屋(長谷川雪旦画)

りつに、元の夫と同じ「女やもめの寂しさにつけこむ吉原者」扱いされるのも当然だと言われて、自分のミスに気が付く蔦重。

べらぼうなプロポーズ大作戦は大失敗に終わるのでした。

お互いに出会うべくして出会ったソウルメイト同士

けんもほろろに厳しい表情で、蔦重のオファーを断ったてい。けれども、「丸屋」の暖簾を畳んだりふとした瞬間に「一緒に本屋をやりませんか?」「女将さん、本当は店続けててえんじゃねえですか?」という言葉を思い出します。

それもそのはず。筆者としては、丸屋売却にあたり、鶴屋を筆頭に日本橋本屋の旦那衆誰一人として、ていの「丸屋を続けたい」という気持ちをないがしろにしていたように感じました。

本をこよなく愛するていが元夫に騙され、大切な本と本屋を手放さざるおえないという心情に、誰も寄り添っていないという感じも。

鶴屋(風間俊介)にいたっては、丸屋うんぬんよりも「絶対に吉原者に、それも蔦屋などにやらせてたまるか」という憎しみのほうが勝っているように思いました。

ていが日本橋の旦那衆に『韓非子』を引いて挨拶するのを、鶴屋は「あ〜話長引きそうだな〜」という感じで割って入り、話を終わらせ、旦那衆も「いったい何の話だ?」という表情でしたね。

何となく皆が「女のくせに学があり過ぎて、漢籍なんぞそらんじ始めてうとましい」と思っている感じが漂っていたように思えます。

話をバッサリ、さえぎられて黙り込んでしまう、てい。もしかしたら、過去にも何度もこのような場面があったのでしょう。腹立ちも悔しさも顔に浮かべず無表情のまま黙り込んでしまったていに、“孤独”を感じました。

NHK大河ドラマ「べらぼう」公式サイト

何も気が付かない日本橋の旦那衆と比べて、初めて会ったのに「本当は、店を売りたくない。本屋を続けたい」という本音を、よりによって蛇蝎の如く嫌ってる吉原者の蔦重に指摘されたてい

ひょっとしたら、初めての「父親以外の味方かも」と漠然と感じたのではないでしょうか。(お父さんは、ていが漢籍を読むことを自慢に思っていましたね)

「本」を愛する気持ちは同じ。「夢」を同じくする二人はこれからどのような「本屋」を作っていくのでしょうか。瀬川とはまた別の意味のソウルメイト同士の活躍がとても気になります。

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