『べらぼう』 ”エンタメの奇跡”で暴動が収束も…新之助の死に苦しむ蔦重を救い出した歌麿【後編】

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『べらぼう』 ”エンタメの奇跡”で暴動が収束も…新之助の死に苦しむ蔦重を救い出した歌麿【後編】

今まで、一橋治済(生田斗真)の傀儡として、アジテート(煽動活動)とアサシネート(暗殺活動)に徹し、手際よく仕事をやりとげていた「丈右衛門だった男」(矢野聖人)。

ところが、自分の仕事を蔦重(横浜流星)の「エンタメ」で壊され、陰に徹することも忘れ、大衆の面前で蔦重を「刺す」という犯行に及びました。けれど、あわやという瞬間に新之助(井之脇海)が間に割り込み、かけつけた長谷川平蔵(中村隼人)の矢で射られて死んでしまいます。

【前編】の記事はこちら:

『べらぼう』蔦重による「エンタメの奇跡」に”煽りのプロ”がつい見せてしまった怒りの爆発【前編】

蔦重のエンタメ軍団パワーは、市中の暴動を収束できたものの“新之助の死”という悲劇を招くことに。いつもは困難や悲しみをポジティブパワーで乗り切ってきた蔦重ですが、今回ばかりはそうはいかなかったようです。自責の念に苦しみ、魂が抜け死相さえ浮かんでいるように見えた蔦重を、現実に引き上げたのは、やはり、歌丸(染谷将太)しかいませんでした。

NHK大河「べらぼう」公式HPより

「俺は世を明るくする男を守るために生まれてきた」新之助の最期の言葉

匕首で刺されただけなら、新之助の命は助かったはず。けれども匕首には毒が塗られていました。医者に連れてくために、蔦重が肩を貸して歩いていましたが、しだいに歩けなくなっていきます。

以前、駆け落ちが失敗したときに切腹しようと腹に刃を当てるも「痛っ!」となっていた、ちょっと情けない新之助が、なんの躊躇もなく蔦重をかばうために匕首の前に身を投げ出すとは。なんとしても「蔦重を守りたい」の一心の行動でしょう。

「俺は何のために生まれてきたのか分からぬ男だった」と息も絶え絶えに話す新之助。
「貧乏侍の三男に生まれ、大した才能もなく、妻子も守れなかった」と。
けれども「そんな自分が最後にできたこと。蔦重を守れて良かった…俺は世を明るくする男を守るために生まれてきた…」という最後の言葉は、本当に心の底からの言葉でしょう。息を引き取る間際、微笑みが浮かんでいました。

NHK大河「べらぼう」公式HPより

長い友人で、自分を見捨てずに住まいや仕事を世話してくれていたことに恩を感じていたとは思いますが、やはり荒れた世の中だからこそ必要な「世を明るくする男、蔦屋重三郎」という男の命を自分は守れたのだ、そのために生まれてきたのだ……という思いが切なかったですね。新之助には幸せになって欲しかった。

自分のせいで友人を死なせてしまった蔦重の慟哭

新之助の行動と死は、蔦重にとっては大きな痛手でした。平賀源内(安田顕)も、瀬川(小柴風花)も救うことができなかった……その思いを忘れずに胸に残している蔦重。だからこそ、源内の「書を持って世を耕す」「思いを文字にして伝える」や、瀬川の「めぐる因果は恨みじゃなくて、恩がいい」が、いつも息づいているのを感じる場面は多かったですよね。

けれど、今回は、人を唸らせる名プロデューサーらしい発想で「エンタメの力」で暴動を収めることに成功したものの、一方では、大切な人を死に追いやってしまうことに。新之助の最後、蔦重の慟哭は身と心の置き所を失ってしまった人間の叫びでした。

立ち直れない蔦重。こればかりは、てい(橋本愛)の「才」ある言葉では救えません。ひさしぶりに「蔦重に絵を見せたい」と耕書堂を訪れた歌麿(染谷翔太)は、ていの暗い顔を見て「何かあったの?」と聞きます。

余談ですが、歌麿が耕書堂ののれんを上げて入ってきたとき、手代たちが皆「お帰りなさい」「お帰りなさい」と言ったのが、とても暖かくていい場面でしたね。

歌麿が、鳥山石燕(片岡鶴太郎)の家で一緒に暮らすことで本来の自分を見つけることができましたが、耕書堂も「お帰りなさい」と出迎えてくれる歌麿の「家」であり「家族」であることが、感じられてさりげないけれど、素敵な場面でした。

そして、歌麿は蔦重を探しに行きます。蔦重は新之助の亡骸を葬った土まんじゅうの前で、魂が抜けたような顔で地べたに座り込んでいました。げっそりと痩せこけて生気がない蔦重は、死相が浮かび上がっているように見えるほど。そんな蔦重に歌麿は「これ、見てもらいたくてさ」「これが俺の“ならではの絵”さ」と最近描いた絵を見せます。

「画本虫ゑらみ」歌麿 国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1288345/1/8/

「画本虫ゑらみ」歌麿 国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1288345/1/14/

これがのちに実際出版された『画本虫ゑらみ』となる狂歌絵本でした。見開き一図に二種類ずつ虫が描かれ、狂歌が二首ずつ収められています。咲き誇る花に引き寄せられて集まる、とんぼや蝶々、巣を張る蜘蛛、ケロケロと鳴き声が聞こえそうなかえるなど、一枚一枚に“命”が溢れています。世界的に有名な美人画とはまた違う、繊細さ、優しさが溢れた魅力的な絵でした。

花・虫・かえる…生命力溢れる歌麿の画で生気を取り戻した蔦重

「絵てのは、命を写しとるようなもんだなて。いつかは消えていく命を紙の上に残す。命を写すことが俺のできる償いかもしんねえって思いだして。近頃は少し心が軽くなってきたよ。」という歌麿。

その言葉と、絵から溢れ出てくる生命力で、地獄に堕ちそうだった魂が体に戻ってきたかのように、生気を取り戻す蔦重。同時に失っていた感情が蘇り、身近な友人を失った現実が刺さり大泣きする。この流れは見事でしたね。

新さんってどんな顔をして死んだ?俺はさ、いい人生だったと思うんだよ。
さらいてえほど惚れた女がいて、その女と一緒になって。苦労もあっただろうけど、きっと楽しいときも山程あって。最後は世に向かっててめえの思いをぶつけて貫いて。だからとびきりいい顔しちゃいなかったかい?

という歌麿。

確かに、初めて訪れた吉原で、うつせみ(ふく/小野花梨)に一目惚れし両思いになり、彼女が自分を犠牲にして揚げ代を稼ぐほど惚れられて。一度は駆け落ちに失敗して痛い目にあうも、二度目は俄まつりの雑踏に紛れられたことと、花魁・松の井(久保田紗友)が背中を押してくれたことで成功し。

二人で農村に逃げて、貧しいけれども幸せに暮らしていたから、きっと楽しいときもいっぱいあったろうし、噴火で村を追い出された時は大変だったけれど、江戸に戻ってきたら蔦重や耕書堂の人々が温かく歓迎し、蔦重に長屋も仕事も世話になり。決して豊かではないものの、可愛い赤ちゃんも生まれて幸せそうでした。短い幸せだっけれど。

歌麿の言うように「世の中を明るくする男を守るという、大きな役目を果たせた。これが俺が生きてきた意味だった。これで大手を振って妻子に天国で再会できる」そんなふうに穏やかな気持ちで旅立ったのだと思います。

蔦重の“心”を救い出したのは、生地獄から二度救った歌麿

「とびきりいい顔しちゃいなかったかい?」と歌麿に言われて、微笑みを浮かべた新之助の最後の表情を思い出し、号泣する蔦重。「いい顔だったよ。お前に写してもらいたかった」と泣く蔦重を抱きしめる歌麿。いつもとは立場が逆で、一回り成長した歌麿のほうが「兄」に見えたシーンでした。

今までの話の中で、蔦重が一番悲しみと自己反省の沼に落ちたのは、この新之助の死が初めてでしょう。この自責の念地獄からは、蔦重に子供の頃から寄り添ってきた歌麿しか救うことはできませんでした。ずっと支援し続けた友人の新之助に“命”を救われて、地獄のような人生から2度も救った歌麿に“心”を救ってもらったのでした。

NHK大河「べらぼう」公式HPより

新之助役の井之脇さんが、インタビューの答え、蔦重のエンタメ軍団が登場した時に、台本のト書きに「それはエンターテイメントが起こした奇跡の瞬間だ」と書いてあり、「この一行にドラマのメッセージが凝縮されている」と語っていました。

いろいろと怒涛の展開で衝撃的なこと悲しいことが起こりますが、源内の言葉、瀬川の言葉はずっと根底に流れていて、蔦重の「エンタメの力で世の中を動かす」という信念はずっと貫かれている…そんな感じがします。

これからさらなる困難が起こりそうですが、蔦重のエンタメ力は必ず困難をぶち破っていく、それを信じて今後も見守りたいと思います。

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