幕末の日本が”植民地化”されなかった本当の理由──列強にとっての日本の意外な存在価値とは?
そもそも「植民地化」とは
幕末期の日本を描いたストーリーでは、幕末の志士たちが「鎖国を続けていたら日本は諸外国の植民地になる」と息巻くシーンが描かれることがあります。
また今でも、当時の日本は列強諸国によって植民地化されようとしていた、それを「開国」「明治維新」によって阻止したのだというストーリーで幕末期の歴史をイメージしている人が多いかも知れません。
しかし、実際にはそうではありませんでした。列強諸国は、当時の日本を「植民地化」しようとはしていなかったのです。今回はそれについて説明します。
※合わせて読みたい記事:
”幕末”はペリー来航以前から始まっていた!泰平の世を揺るがした「内憂外患」とは? 悪名高い「不平等条約」はまだマシな方だった?実はアメリカも手を焼いた徳川幕府の粘り強い交渉まず「植民地」という言葉の定義ですが、これは「民」を「植える」、つまり人々をその地に移住させる場所という意味です。
A国がB地域を植民地にする、と言ったらB地域にAの人々を移住させる地とする、ということを意味します。
さて、そうやって植民地化されたB地域とは、Aの人々によって「改造」されるのが常です。なぜならAの人々は、自分たちが暮らしていたA国と同じ生活水準を求めるからです。
そのため、道路や上下水道などのインフラを整備し、鉄道を通し、病院を建て、自分たちの食べる農作物を植えたりするわけです。
そのために、原住民から土地を奪ったり、原住民を安価な労働力として使用する場合もあります(それの良し悪しの話ではありません)。
すると今度は、そのために原住民を教育して識字率を高め、自分たちの言葉を教育するために学校を建てたりするのです。
自由貿易という名の押し売りさて、まず世界史のおさらいですが、植民地確保の歴史はスペイン・ポルトガルに始まります。
次いでイギリス・オランダ・フランスなどが海外に進出して各地に植民地を確保するようになり、さらにそれを再編・再分割していくようになりました。
このうち、例えばイギリスは18世紀以降に産業革命を成功させています。そして多くの植民地から原材料を集積し、それを使って製品を作っては輸出していきます。
するとイギリスにとって、世界は原材料供給地と製品を売りつける市場に分類されます。原材料供給地については、モノカルチュアやプランテーションなどによって原材料がより効率的に生み出されるようにしていきました。
で、原材料を使って生産した製品を、今度は市場で売りさばきます。
となると、市場にふさわしい地域の条件として必要なのは、一定の購買力と消費力ですね。そうした二つの力を持つ国として、当時代表的だったのが中国です。
そこでイギリスは中国を自分たちにとって都合のいい市場にしてやろうと、当時中国がやっていた貿易制限や関税の撤廃を要求しました。しかし聞き入れられずアヘン戦争に至ります。
当時のイギリスのやり方はまるきり押し売りであり、これがイギリスにとっての自由貿易帝国主義でした。
日本は良い商売相手結論を言えば、欧米諸国は日本を「植民地」ではなく「市場」化しようとしていたのです。
江戸時代の日本はとても高いポテンシャルを持っていました。鎖国のおかげで自国の産業が発達し、人々の生活水準は高く、購買力もあったのです。
そんな日本を原料供給地としての植民地にするという選択肢はありませんでした。
しかも面白いのが、そのわりにアメリカは貿易赤字になってしまったという点です。
もともとアメリカは日本との通商で利益をあげようと輸出品の増加を期待していましたが、生糸や茶など日本の良質な製品の買い入れが多く、なんと貿易赤字になります。
また、本格的な交易活動の前に南北戦争となってしまい、最大貿易相手国になるタイミングを逃します。
最大貿易相手国となったのは、やはりイギリスでした。明確な統計が資料として残っているのは横浜での対イギリス貿易の記録だけです。
それによると、日本からは生糸・茶・蚕卵紙・海産物などの農水産物とその加工品が多く輸出され、イギリスからは毛織物・綿織物などの繊維製品や鉄砲、艦船などの軍需品が輸入されました。
イギリスとの貿易では日本は大幅な輸出超過で、国内の品不足から物価高となりました。
イギリスとしては、こんな良い商売相手を軍事力で破壊したりはしませんし、植民地にしようとする相手に武器を売るはずもありません。
こうして見ていくと、日本は欧米諸国にとってとても良い商売相手だったのであり、幕末の志士たちが「このままでは植民地にされてしまう」と息巻くような描写は勘違いだったと言えるでしょう。
参考資料:浮世博史『くつがえされた幕末維新史』2024年、さくら舎
画像:photoAC,Wikipedia
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

