大河『べらぼう』がギャラクシー賞を受賞!“べらぼうロス”が今だに絶えず人々の記憶に残り続ける理由
新しい戦国大河「豊臣兄弟!」は、テンポのよさ、俳優陣の豪華さや演技力ほか、魅力がいっぱい。誰もが知る有名な歴史を、どのような展開で表現するのか……視聴者をワクワクさせています。
ですが、今回は、2025年大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』を取り上げてみたいと思います。
『べらぼう』総集編、1年間の“夢噺”をありがた山!高い志と行動力で出版界の風雲児へ【蔦屋重三郎・前編】SNSを覗くと、今でも『べらぼうロス』の大河ファンは絶えません。名セリフや名シーンが現代生活にぴったり当てはまることが多かったため、繰り返し思い出しては反芻することができるからでしょう。
そんななか、先日1月20日に『べらぼう』がギャラクシー賞を受賞したことが話題になっています。
さらに、ようやく予定よりも一ヶ月ほど遅れて、来週1月30日にNHKから永久保存版の『べらぼうメモリアルブック』が待望の発売!
そんな話題も重なり、ふたたびトレンドに「べらぼう」が浮上したのです。
放送終了から一ヶ月。なぜ『べらぼう』は、今、人々の記憶に残り続けるのか……今のこのタイミングに、紐解いてみたいと思います。
また会いたいという「べらぼうロス」の人は多いもの。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
「放送文化の向上に貢献」ギャラクシー賞・受賞SNSを覗くと、今なお「べらぼう」の残した名シーンやセリフ、イラストなどを投稿している人はよくみ見かけます。
先日再び #大河べらぼうがトレンドに浮上したのは、“放送文化の向上に貢献した番組や個人・団体を表彰するギャラクシー賞”の、2025年12月度月間賞を受賞したことがニュースになったからです。
そして、受賞の理由に共感が集まっていました。
〜エンタメ王として蔦重を描ききった森下佳子の脚本が素晴らしかった。
吉原を「なかったこと」にせず、そこからいかに江戸の文化が花開いていったかを正面から描いたところに、製作陣の決意と覚悟を見た。
終盤のフィクションならではの奇想天外な展開も、史実を踏まえていなさそうできっちり回収していった手際も、見事というほかない。〜
※引用:NPO法人放送批評懇談会 プレスリリース「2025年12月度ギャラクシー賞月刊賞」より
初回の衝撃的な女郎の全裸シーンで、「女性差別だ」「花魁を美化している」と批判する声もありましたが、筆者も “吉原をなかったことにせず、美化もせず「苦界吉原」を正面から描いていた”と思います。
この評価に共感し、「俳優陣はもとより製作陣も喜びを噛み締めただろう」と、喜びの声を「X」に投稿している人は多かったようです。
そして、この受賞のタイミングに合わせたかのように、遅れていた『べらぼうメモリアルブック』が1月30日に発売。これらの話題が重なって、ずっとロスだったファンの間で再注目されているのです。
耕書堂の主人蔦重と、「神々の神々の集う社」と崇める松平定信。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
現代でも使える短いセンテンスが魅力の「地口」ドラマが終わっても、「江戸の文化」への興味は今だに色濃く残っています。ドラマで江戸カルチャーを知り、興味を持った人は少なくありません。
“刀”ではなく“本”
“戦”ではなく“文化”
“斬り合い”ではなく“知恵比べ”
……商売の争いはあれども、人を殺しあう合戦はなかったべらぼうの時代。
大衆文化が大きく華開いた江戸中期界隈の、本、浮世絵、芝居、着物や髪型などの服装、文化やエンターテイメントの持つパワーや魅力に惹かれた人は多いようです。
いろいろな角度から捉えた浮世絵展、能面展、書籍や絵画の販売ほか、さまざまな商品などが注目を集めています。
また、ドラマでも注目された「地口」(江戸時代のダジャレのようなもの)も、今だによく使われている様子。
蔦重がよく使う「ありがたやま」(ありがたい)を筆頭に、「しかた中橋」(しかたない)、「かたじけ茄子(なすび)」(かたじけない)、「しめこのうさぎ」(しめたもの、うまくいった)など、意味が伝わりやすいのが「地口」です。
特に「ありがたやま」は、SNSで使っている人をいまだによく見かけます。
2025年流行語大賞の発表時、「働いて働いて…」より、「絶対この1年間聞き続けた、『ありがたやま』が優勝」と盛り上がっている、べらぼうファンもいました。
また、この地口を、「NHKの公式で、LINEのスタンプにして欲しい」という声も。確かに公式であったらいいですよね。
さらに、これは「地口」ではありませんが、狂歌師・太田南畝(桐谷健太)が生み出した「そうきたか!」も人気のあるフレーズ。
意外な脚本の展開やアイデアをみせられたとき、驚きつつ使われる「そうきたか!」は、賞賛する意味合いがあります。
「豊臣兄弟!」で、“秀吉が織田信長の草履を懐で温めた”逸話が、今回の大河ドラマでは “雨が降りそうなので濡れないよう懐に入れていた”という展開に。
その脚本に、「そうきたか!」と呟いている人もいました。
(筆者も、これは思わず「そうきたか!」と。現代でもすごく使えるワードですね。)
前述の、べらぼう地口を「LINEのスタンプにしてほしい」が共感できるのは、地口は、リズム感があり軽妙洒脱で、短いセンテンスで伝わりやすいところが、現代のSNSやスマホ文化にフィットするからではないでしょうか。
「そういきたか!」の生みの親。太田南畝。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
余裕がなければ文化は買えない。現代の社会問題とリンクまた、べらぼうの余韻が続いているのは、現代と同じ社会問題とリンクしていたことも理由でしょう。
あまりにも内容がタイムリー過ぎていて、脚本家の森下さんは「タイムワープで現代を見てそれを話に取り込んだようだ」とか「まるで現代社会のようで怖い」などとも言われていました。
筆者が一番リアルに感じたのは、天明の大飢饉、米相場の暴騰のとき。
「米がない」「米の値段が去年の倍だよ」など、まるで、令和の現代そのままの状況で、江戸では、お上の指示通りの価格で米を売る米屋に長蛇の列ができ、買えなかった人々に責められる騒ぎが起こります。
そんな状況を見ていた蔦重の「俺らに何かできることはねえですかね。米に困っちゃ本なんて買ってもらえねぇだろうし」というセリフは、まさに「数百年後の現代もまったく同じなんだよ、蔦重!」と言いたくなってしまいました。
物価高で生活苦の状態では、娯楽やエンタメにお金も時間もかけられない。
心や感性を育てる文化的に豊かな社会は、まずは衣食住が満たされてのこと……この問題は時代が変わっても、これは変わりません。
最近、東京の老舗書店が「本の値段をあげてください。書店としての切実な願いです」と言っている記事が話題になりました。
確かに、紙代、印刷代、人件費、もろもろ値上がりしている中で値上げをしたいのはごもっともでしょう。
けれど、年々、高価になっていく紙の書籍は、食費などの生活費、保険料、税金などを支払わなければならない庶民としては、どうしても買い控えせざるおえないことも。
文化を売る側も買う側も、不景気な社会で悩むのは蔦重の時代と同じです。
そんな江戸時代の市井に生きる人々と、現代に生きる我々との状況がリンクしているため、“刺さる場面やセリフ”がずっと心の中に残り続けているのでしょう。
米騒動と暗殺されそうになった蔦重。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
「米ひとつぶ作れねえ、この世の役立たず」蔦重は「俺たちは米ひとつぶ作れねえ、この世の役立たずじゃねえか。俺たちができることってなぁ、天に向かって言霊投げつけることだけだろ?」と、仕事仲間に頼み、言霊の力で皆が“おめでたい気分になれる狂歌集”を出すのですが。
この蔦重のセリフ、先日の「豊臣兄弟!」で、小一郎(仲野大河)が、野盗に惨殺された友人の亡骸を抱きしめ
「信長も信長じゃ…偉そうなこと言うて、わしらのことを守ってはくれんじゃないか!わしらが米を作らなにゃ生きていけんくせに…」と慟哭した場面を見て、思い出しました。
命と体を支える主食・米を作る百姓、米を食うからこそ剣をふるい戦うことができる侍、そんな命のスムーズなサイクルを守るのはお上の役目。
大河ドラマは、前作を彷彿させるニュアンスのバトンタッチがあるのが面白いところだと思います。
今や生成AIが作った映像や文章が溢れている時代。蔦重の時代より、手軽にエンタメが作れる時代になりました。
けれども、AIに丸投げした言葉や文章は、はたして「言霊」力は持てるのだろうか……今の現状を見せ、プロデューサーの蔦重に「どう思う?」と問うてみたい気もします。
お上に「書を持って抗う」決意をする。NHK大河「べらぼう」公式サイトより
最後に江戸文化の魅力。テンポのいい短文の言葉遊びが現代に通じる面白さ。
そして、文化やエンタメは日常の衣食住が安定してこそ初めて存在するもの……など、現代人に通じる教え。
そんな魅力が重なって、「べらぼう」は視聴者の心に残り続けているのかもしれません。
「あぁ面白かった!」だけで終わらず、視聴者の心に残る“教え”や“気づき”があったのも、今回のギャラクシー賞・受賞の理由でもあるではないでしょうか。
最後に、余談ですが、「豊臣兄弟!」で柴田勝家を演じている山口馬木也さんは「時空を超えて本人登場」と思うほどそっくりと言われていますが。
べらぼうで話題になった、あの喜多川歌麿が、柴田勝家の浮世絵を描いているのですが、やはりそっくりなのが興味深いです。
今、私たちが見ている戦国時代の武将の話を、蔦重たちがわいわい言いながら「秀吉と秀長兄弟をおもしろおかしく描く黄表紙本出しましょう!」とかいいつつ、歌麿が勝家の浮世絵に描いている姿をつい、想像してしまうのでした。
山口馬木也さんの柴田勝家(NHK公式サイト)と、歌麿が描いた柴田勝家(浮世絵)
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