『豊臣兄弟!』なぜ慶(吉岡里帆)や寧々(浜辺美波)は男に媚びない?実は史実に近い戦国女性の姿
『豊臣兄弟!』第13話「疑惑の花嫁」では、羽柴小一郎(後の豊臣秀長/演:仲野太賀)は、信長の命により安藤守就(演:田中哲司)の娘・慶(ちか/演:吉岡里帆)との縁談を受け入れます。
しかしこの婚姻は、最初から波乱含みでした。
「私はあなたのような殿方、少しも好みではありません」「この身は差し出します。でも、心は織田の者には指一本たりとも触れさせぬ!」
さらには、城下での“密会”を問われると、「男と女が会うてすることは決まっておろう。私はお前一人のものにはならぬ」と言い放ちます。
それでも小一郎は、「そなたがわしを許してくれるまで、私は何も求めん」と応じるのです。
【豊臣兄弟!】謎多き慶(吉岡里帆)の正体。背中の刀傷、密会の男は誰か…史料を交え13話『疑惑の花嫁』を考察このやり取りを見て、多くの視聴者は次のように感じたのではないでしょうか。
なぜ『豊臣兄弟!』に登場する女性たちは、慶はもちろん、寧々(演:浜辺美波)、直(演:白石聖)、まつ(演:菅井友香)、とも(演:宮澤エマ)らすべてが、これほどまでに、はっきり物を言い、男に媚びずに、自由に振る舞うのか。
『豊臣兄弟!』のスタンスは、戦国を舞台にしたホームドラマであると言われます。だから、脚本に現代的な要素を取り入れていると考えがちですが、実はそうでもなさそうなのです。
制作側が意識しているかどうかは分かりません。しかし、『豊臣兄弟!』で描かれる女性像は、戦国時代に生きた女性たちの実像に近いと考えられるのです。
小一郎に対し、まったく媚びない慶。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」公式サイトより。🄫NHK
戦国時代の女性は「不自由」だったのか慶が小一郎に対し、あふれ出る感情を露わにするシーンについて、ネット上では「慶の立場が痛ましい」「小一郎の優しさが胸に刺さる」「慶の密会には何か裏がありそう」といった声が飛び交いました。
なかでも注目されたのは、慶の小一郎に対する「媚びない態度」と、密会と思しき城下での「行動の自由さ」です。
私たちは、戦国時代の女性に対して、「男性社会における地位の低さ」や「政略結婚の犠牲者」というイメージを抱きがちです。しかし実際にはこの時代は、まだ女性の地位が保障されていた中世の延長線上にありました。
中世の幕開けとされる鎌倉時代の女性は財産の継承権を持ち、武士の世界では女性の地頭すら存在しています。その慣習は、室町・戦国期にも引き継がれ、有力な後継者がいない場合、女性が城主となる例もありました。
そして、なによりも驚かされるのは、当時の女性たちが自由に振舞っていたことです。これに対し、日本に35年間滞在し、織田信長(演:小栗旬)と会見した宣教師ルイス・フロイス(演:フェルナンデス直行)は、その著書『日欧文化比較』の中で、日本女性について驚くべき記録を残しています。
※参考記事:
フランシスコ・ザビエルとルイス・フロイス、日本でキリスト教を布教した後どんな最期を迎えたのか?そこに記された赤裸々な女性像は、現代の私たちが抱く「戦国女性」のイメージとは大きく異なるものでした。
フロイスの視点から見た「自由すぎる日本女性」『日欧文化比較』の第二章「女性とその風貌、風習について」には、次のような戦国時代の女性像が記されています。
その行動については、「日本では若い娘たちは両親に断りをいれずに、数日でも一人で好きなところへ出かける」。また、「日本の女性は、夫がいても知らせずに、好きなところに行く自由をもっている」。
親に断りを入れずに小一郎と村を出る直。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」公式サイトより。🄫NHK
またその貞操観念については、「日本の女性は、処女の純潔を少しも重んじない」「処女でなくても名誉を失わなければ、結婚にも差し支えがない」と記します。
そして性交渉の末、妊娠したとき、「日本では堕胎はきわめて普通のことで、二十回も降ろした女性がいる」。さらにショッキングなのが「日本の女性は、産んだ子を育てていくことができない場合、のどの上に足を乗せて殺してしまう」とまで書かれています。
また結婚観についても、「妻が夫を離別するなどの離婚がしばしばあり、離婚されても妻の名誉は失われず、女性にとって離婚歴は再婚の妨げにならない」とします。
さらに夫婦間の金銭観にも触れ、「日本では財産は夫と妻、それぞれが自分の分を所有している。場合によっては、妻が夫に銭を高利で貸し付ける」とまで記されていました。
藤吉郎の姉ともを中心に、言いたいことをスバズバ話す寧々とまつ。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」公式サイトより。🄫NHK
つまりフロイスによれば、戦国時代の女性たちは、夫と同じような権利を有し、男に媚びることもない独立した地位をもっていたということになるのです。
このようなルイス・フロイスの記述は、キリスト教的価値観との対比や異文化への驚きが含まれており、そのまま史実とは断定できないのではないかといわれてきました。
また、キリスト教的な道徳観からすれば、『日欧文化比較』に記された日本女性のあり方は、とんでもないことで、多分に批判的な感情をフロイス自身がもっていたとも思われます。
しかし一方で、「ヨーロッパでは女性は文字を書かないが、日本の高貴な女性はそれを知らなければ価値が下がると考えている」など、日本女性の優れた点もしっかり認めているのです。
そのようなことから、フロイスが書き残したことは全てとは言わなくても、本当のことが相当数あったと思われるのです。
『豊臣兄弟!』で描かれる女性の姿は史実に近いのかそれでは最後に、『日欧文化比較』の日本女性に対する記述をまとめてみましょう。
●女性が単独で行動する。
●処女性が重視されない。
●公衆の面前で男女が会うことが珍しくない。
●結婚・離婚に女性の意思が介在する。
●財産を個人で持つ。
このようなことから、慶の密会に何か理由があるにせよ、彼女が外で男と会うことは何ら咎められることではなかった。
慶の密会現場に出くわす豊臣兄弟。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」公式サイトより。🄫NHK
また、直が父に断りもなく小一郎と村を出ていくことも不思議なことではなく、寧々が藤吉郎のプロポーズをみんなの前で受け入れることも、屋敷の外で抱き合うことも、当時の女性たちにとっては当たり前の行動であったわけです。
つまり、『豊臣兄弟!』に描かれる女性たちの姿は、決して現代的に脚色されたものではなく、中世から続く戦国女性の在り方を、極めて忠実に映し出している可能性があります。
そのように考えると、『豊臣兄弟!』は、私たちが抱いてきた「戦国女性=不自由」という先入観を覆らしてくれるドラマであるとも言えるでしょう。
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網野善彦著 『日本の歴史をよみなおす』ちくま文芸文庫
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan



