『豊臣兄弟!』わずか10歳、あまりに残酷な結末…浅井長政(中島歩)の長男・万福丸の凄惨な最期
大河ドラマ「豊臣兄弟」第14話『絶対絶命』で印象的だったのが、不穏な空気を察知して泣き止まない茶々をあやしつつ、不安げな表情を浮かべるお市(宮﨑あおい)。
いつも強気で凛然としているのにどこか“はかなげ”にみえるのは、これからの悲劇を感じ取っているからでしょうか。
茶々が誕生したのは永禄12年(1569)頃、「金ヶ崎の退き口」は元亀元年(1570)頃なので、この子は1歳くらいかもしれません。
以前、「豊臣家を終わらせた者」と、ナレーションでパンチのある紹介をされた茶々。
赤ん坊から「小さな女の子」へと成長していましたが、その黒い瞳に涙がいっぱい溜まって、ポロポロとこぼれ落ちていくのは切なかったですね。
史実では、長政とお市の間には、秀吉の側室となる長女の茶々、京極高次の正室となる次女の初・徳川秀忠の継室となる江の三姉妹がいます。
茶々以外の夫婦の子どもといえば気になるのが、以前登場した万福丸(近江晃成)です。
今は朝倉家の人質となっている設定ですが、第15話『姉川大合戦』では、織田・徳川軍の側面攻撃により、浅井・朝倉軍が敗北。今後、浅井家と朝倉家は滅亡の道をたどる事となるのです……
万福丸の運命はどうなってしまうのでしょうか。
城に帰り、お市に織田の元に戻るよう伝える浅井長政。(NHK『豊臣兄弟!』公式サイトより)
「長政に似た優しい男の子」なのに……万福丸は、浅井長政の嫡男です。
ドラマの中では、「母上ぇ〜!」といいながら、満面の笑みを浮かべてお市に駆け寄ってきていた愛らしさ全開の万福丸。
お客さまにご挨拶をと促され、「万福丸にございますぅ。お初に御意を得まするぅ!」と立派な挨拶をして、「えらいのぉ」と豊臣兄弟に褒められ嬉しそうでしたね。
お市に、「茶々のことをみていておくれ。起こさないように、そおっとね」と頼まれて、笑顔のまま走っていき、寝っている茶々の枕元に静かに座り、その顔を覗き込みました。
短い場面でしたが、長政に似て荒々しさのない優しい男の子だなというのがわかります。
ドラマでは、長政に対して「お市が可愛がっている万福丸の命は必ず守る」とし「(長政が)動かなければ、朝倉も万福丸を手にかけたりしないだろう」と配慮の言葉をかけた織田信長(小栗旬)。
豊臣兄弟には「万福丸を救い出せ」と命じ、「長政と約束したのじゃ…」と呟いていましたね。
それが、「長政謀反」展開となった今回。「万福丸はどうなってしまうの!?」と懸念する声がSNSでも散見しました。
万福丸を守ると決めた浅井長政。(NHK『豊臣兄弟!』公式サイトより)
今までの大河で少しだけ登場した万福丸ドラマでは、この先どう描かれるのかは分かりませんが、残された史料などによると、あの万福丸は、わずか10歳で「処刑」されるという凄惨な最期を迎えたと伝えられています。
そもそも万福丸に関しては史料がかなり少ないそう。ほかにも長政の男児として万寿丸、万菊丸という存在も伝わるのですが、ここでは「豊臣兄弟!」でフューチャーされた万福丸に絞ります。
母親が誰かということも分かっていないのですが、『浅井三代記』によると、長政は六角氏重臣の平井定武の娘と結婚していて、万福丸のほかに二人の男の子がいたという説もあるそうですが、定かではありません。
また、平井定武の娘との縁談が決まっていたものの、お市との縁談が持ち上がり破談となったという説や、お市との間の子だという説も。
今回のドラマでは、そこには触れず、お市の実子ではないもののお互い慕っているという様子が描かれていましたね。
実は、大河ドラマで万福丸が登場したのは、1981年『おんな太閤記(※1)』、1996年『秀吉(※2)』、2006年『功名が辻(※3)』。
いずれもほぼ1〜2回程度の出演で、浅井家滅亡のワンポイント的な存在だったようです。
※1「おんな太閤記」:信長の命で捉えられ、蜂須賀小六が串刺しにして処刑、以来お市は徹底的に小六の主人秀吉を嫌う。
※2「秀吉」:長政が自刃したあと、信長の命令で柴田勝家に殺される。
※3「功名が辻」:長政の自刃後、処刑された。山内一豊が殺す。
(Wikipediaより)
ドラマによって、万福丸の処刑執行人も方法も異なります。今回の大河のように、「長政によく似ている優しい男の子」と人間性まで描くのは珍しいそう。
けれども「好感度高く描かれるとその後、悲劇に見舞われる」というケースも多いので、もしかしたら、今までの大河と同様に「処刑」もあるのでしょうか。誰が手を下すのでしょうか。
あまり想像したくないのですが。
「自分に逆らった家の者は、見せしめや将来的な報復防止のため、赤ん坊でも殺すのが戦国」とはいえども……今登場している「織田側の家臣」の誰かが、あの愛らしい万福丸を処刑などしたら、ものすごく嫌いになってしまいます。
「生きる」が根底にながれているこのドラマ。今回も「生き延びるために無茶をする!」と言ったり、刀で敵にとどめを刺さなかったりした小一郎。
もしかしたら、処刑を命じられても殺すのではなく「生かす」ことに、小一郎がお得意の知恵と行動を発揮してくれるといいなと個人的に願ってます。
さまざまな史料に書かれている万福丸
史料で、万福丸についての記述には以下があります。
▪️『当代記』
「備前守嫡子 萬福と 云有之……」で始まる部分に、
浅井備前守(浅井長政)の嫡子・萬福(万福)という者がいたが、越前(朝倉氏)に人質として差し出された。その後、越前平定後に加賀国に逃げて身を隠していたがその間に盲人となった。
そして母または祖母(信長の母)を頼ってでてきたところ近江国木本で信長の命により処刑された。
なぜ、盲人となったのか、誰に捕まったのかなどの詳細は不明です。
▪️『浅井三代記』
万福丸は浅井の小姓あがりの木村喜内之介という家臣に預けられたが、落城前夜に脱出。越前国敦賀郡のある人のもとで匿われていた。
信長は、長政のもとから無事に送り返された妹・市を呼び、「長政には男子が一人いたというが何処に行ったのか?近い親類のことで心配だ」と言いくるめて居場所を聞き出し、木村に「男子を戻すように」と手紙を出す。
けれどもそれを信用しなかった木村は「万福丸は殺した」と返信した。
さらに、信長は重ねて「良きにいたわる」という手紙を送ってきたので、木村はすでに存在がばれていることだしと万福丸を伴い、近江国木之本に出向き秀吉に渡した。
ところが、信長は「その子を串刺しにして晒せ」と秀吉に命じた。万福丸が犠牲になったおかげで、もうひとりいた男児は難を逃れることができた。
▪️『国史大辞典』
小谷城落城後「嫡男万福丸は刑死し男系は絶える」と記されているそうです。
▪️『信長公記』
万福丸という名前はでてこないものの、浅井親子(久政と長政)の首を京都に送って獄門にした後、「浅井備前が十歳の嫡男」がいると聞いた信長。同じ男児を探し出させ、関ヶ原で磔にした。万福丸は享年10歳。
「浅井長政の謀反に激怒した信長によって、万福丸は磔にされて串刺しにされた」という説はよく見かけますが、さすがに今の時代、そんな場面を「豊臣兄弟!」でリアルに描くとは思えないのですが……
ただ、以前「もしかしたらフラグ?」と思えるシーンがありました。
豊臣家の茶の間で、寧々(浜辺美波)とまつ(菅井友香)と、妊娠中のとも(宮澤エマ)がおしゃべりしていたとき、ともが「もし藤吉郎が浮気したら串刺しにしてやる!」と言いつつ、串に刺した団子を食べていたシーンを、覚えていますか。これに戦慄した人もいるようです。
何度も映される串刺しの団子が、あの天真爛漫でいい子な万福丸処刑のフラグにならなければいいのですが。
「浅井長政最期之事」(左) 『浅井三代記』(宮内庁書陵部所蔵) 出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/300085038
最期に二度も信頼する弟に裏切られた信長。今回は、藤吉郎の「信頼できる人間はここにおりますぞ」という度肝を抜く行為に感銘し、涙を流すという人間味あふれる場面が描かれました。
もしドラマが、『浅井三代記』パターンだとしたら。
長政と別れて織田家に戻ったお市は、兄に「万福丸が心配だから呼び寄せよ」と言われても、「殺すのか?」と察する気もします。愛する夫・長政の男児で、自分に懐いていたら絶対に庇おうとするのではないかと思います。
それとも、「兄弟の絆」がいつも丁寧に描かれるので、もしかしたら豊臣兄弟が、長政とお市のために万福丸を助けることに尽力するのかも?
……歴史上の出来事は、現代に生きる誰一人として、真実を見聞きした人はいません。史実が曖昧な部分は、その作品によって脚色され世界が作られていくもの。
万福丸に関しては、とても「素直でいい子」に描かれただけに、残酷な展開にならなければいいなと思います。
参考:
浅井三代記
浅井氏三代(宮島敬一)
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan