2024年紅麹事案 研究解説「我々紅麹業界に何が起こったか」 行政は本当にプベルル酸を同定できているのか その1——小林製薬提出資料より——(科学編) (2/4ページ)
抽出 → 精製(高純度単離) → 構造解析 → 標準品または合成品との照合
ところが小林製薬は提出資料P15において、「調査した限り紅麹から精製した報告はなし」と自ら記載している。これは以下の二重の問題を意味する。
第一に、文献値との数値比較による「同定」は、同一の天然物から精製された標準品または化学合成品との照合を前提とする。先行精製報告が存在しない以上、照合の基準自体が存在せず、文献値との「数値の矛盾なし」は「同定」ではなく「否定できない」にとどまる。
第二に、仮に世界で初めて紅麹からプベルル酸の精製に成功したのであれば、それ自体が重大な科学的成果であり、精製方法・収量・確認手順を明記するのが科学的記述の最低要件である。その記載が存在しないことは、精製の確立を意味しない。
遠藤章先生によるコンパクチンの単離(1976年)、アフラトキシンの構造確定(1963年)、ペニシリンの純粋精製(1940年代)はいずれも「世界初の精製・単離」を明確に主張し、方法・純度・収量を詳細に記載している。小林製薬の資料にはそれがない。
「精製した報告なし」という自己記載は、同定プロセスの入口が存在しないことの自白に等しい。
2 論点② HPLC純度95.4%——毒性試験の前提条件を満たさない
小林製薬提出資料P17には、成分XのHPLC純度として95.4%が記載されている。これは4.6%の不純物が存在することを意味する。
天然物同定および毒性評価において要求される純度基準は以下の通りである。
・NMR構造参考: 90%程度でも参照可
・毒性試験用標準品: 99.0%以上(日本薬局方準拠)
・完全同定の証明: 99%以上が通例
・医薬品標準物質(JP/USP): 99.5%以上
4.6%の不純物について、その化学的正体は明らかにされていない。この不純物が腎毒性を有する別の化合物である可能性を、95.4%純度の試料を用いた動物実験では排除できない。すなわち「成分Xが腎毒性を示した」という結論は「試験物質が純粋にプベルル酸であること」を前提とするが、その前提が成立していない。