『豊臣兄弟!』人質は万丸だけではなかった…光秀・お市・義景まで縛った第16話の残酷な構図を考察
『信長様の目は欺けぬ。こうするしかないのじゃ。こうするしか』
震え声でつぶやいた明智光秀(要潤)。今にも崩れ落ちそうな自分を、必死に支えているようでした。
「豊臣兄弟!」第16話『覚悟の比叡山』。魂が抜け落ちたような光秀の背後には、女性や幼い子供たちの亡骸が。戦闘の意思はなく武器も持たない民が殺された比叡山延暦寺の虐殺。
人々は、死の瞬間まで、だたひたすら命乞いを(せめて幼い我が子だけでもと)願ったことでしょう。
藤吉郎(池松壮亮)は、光秀にかける言葉も失い、涙を浮かべて立ち尽くしていました。
最近、信長を演じる小栗旬さんが、インタビューで「15話ぐらいまでは、週刊少年ジャンプのような物語になっていると思うので、ワクワクしながら見ていただける」と答えていましたが、16話は辛い展開になってきました。
「人の命」を手駒として利用する時代。今回は、それぞれの立場の『人質』がいました。
▪️避難する民を「盾」にする朝倉義景(鶴見辰吾)
▪️「手柄」の褒美で織田家に縛られる明智光秀
▪️養子とは名ばかりの人質にされた万丸(小時田咲空)
▪️人質だったのに浅井長政(中島歩)を支える存在となったお市(宮﨑あおい)
無念、怒り、悲しみ、絶望……それぞれの思いと決意を考察してみました。
宮部継潤の調略のために万丸は人質にされた。(NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより
手柄に城を貰い大名になり「織田の人質」状態となる光秀信長(小栗旬)に怪しまれないよう「女子供も皆殺し」の命令に従った光秀。けれど、足利義昭(尾上右近)には「いつからそんな外道に成り下がった!」と責められます。
苦悶の表情で頭を下げ、畳に突っ伏した光秀からは、耐えかねたようなうめき声が。
そこで、カメラがす〜っと“引き”になり、広間の大きな空間の中に、たった独りポツンと置き去りにされたように小さくなった光秀の姿が映し出されます。
取り返しのつかない絶望・後悔・孤独を表すような場面でした。
信長からは正直もう逃げたいのに、虐殺の手柄で「城」を貰い大名になってしまった光秀。まるで、織田家に釘付けにされた『人質』のようです。
要さんによると、この件が「本能寺への第一歩になり、信長に対する怒りのボルテージが高まっていく」そう。
どん詰まり状態の光秀と、切腹も覚悟で民を逃すも調略に成功し辛くも生き延びた藤吉郎。二人の明と暗のコントラストが浮き彫りになりました。
光秀を「ねめつける」ように見る信長。NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより
無辜の民を我が身のために「人質」とする朝倉義景浅井の家臣・宮部継潤(ドンペイ)曰く「戦さにも出ず一乗谷でふんぞり返っているばかり(で、好かない)」な朝倉義景。
延暦寺に逃げ込んできた民たちを「せめて女子供だけでも逃すわけにはいきませぬか」という浅井長政に、「いや、このままでいい。織田もむやみに手を出せまい」と言う義景。
「あの者たちを『盾』にするおつもりか」と長政に思わず返されていました。
無辜の民を我が身のために『人質』とする義景。相変わらず超絶卑怯な小者に描かれています。
「人聞きの悪いことをもうされるな」と長政を諭す、延暦寺の天台座主・覚恕(黒田大輔)が座っている御簾の向こうには、複数の遊び女のような姿が。
なかなかの生臭坊主ですね。(「信長め。ふふ、成り上がり者が」と笑いながら呟く覚恕が実に不気味。さすが怪優の名高い役者さんです)
実子を「人質に差し出せ」といわれ差し出す母はいない
そして、予想通り、前回の「幼い万丸と遊ぶ微笑ましい場面」の伏線が現実に。
お市を織田側に戻そうと悩む小一郎に、姉・とも(宮澤エマ)が「お市様が織田に戻るということはお子と別れるということでしょう。無理よ。男にはわからんかもしれんけど。」と言った言葉がその通り現実になってしまいました。
調略を持ちかけた宮部継潤に、「藤吉郎の子を『人質』に」が条件だといわれた豊臣兄弟ですが、二人とも子供がいないため、ともの長男・万丸に白羽の矢が立てられたのでした。
「戦のため、子を差し出せ」と言われても、実の母親が「はい、わかりました」とあっさり即答するわけもありません。「人質ではない養子じゃ」と言葉をすり替えてもそれは欺瞞。「いざというときはその子を犠牲にする」ことには変わりないでしょう。
説得する夫・弥助(上川周作)にカマを振りかぶり「万丸を捨てるくらいならあんたを捨てる!」と、とも。
「万丸を人質にすれば、浅井との戦いが終わるかも。多くの者が助かるかも」という小一郎に、「それがなんじゃ!!万丸に辛い思いをさせてまで多くの者のことなど考えられん!」と言います。
ほんと、同感。
「宮部殿は立派なお方、万丸も大事にしてくれるはずじゃ」と小一郎は重ねますが、「かもしれん」「かもしれん」「○○はずじゃ」と、根拠のない言葉でだけで「我が子を人質に出すわけなかろうが」と思いました。
「わしらはもう百姓ではない。侍なんじゃ。」「一人でも多くの者が助かる道を選ばねば、なりませぬ。人質などいなくても、皆が笑って生きられる世の中を、いつか作ってみまする。わしらはそういう侍にならねばなりませぬ!」と、語る小一郎。
直(白石聖)が見たがっていた「戦いのない世界」は、小一郎の中に息づいていました。けれど、小一郎のその理想論は、「(その世界を作るために犠牲になるのが)なぜ、私の万丸なんだ!」という、ともの問いの答えにはなっていません。
小一郎と夫の説得に絶対に頷かないとも。ずっと無言で涙を流しながら首を横に振り続け、ただの一度も、首を縦に振ることはありませんでした。
「小一郎兄さんは間違っとる。藤吉郎兄様は、ずっと家にいなかったじゃないの」という、あさひ(倉沢杏菜)。
「貧しくとも笑って過ごした家族の輪の中に藤吉郎はいなかった。そんな兄の手柄のために、姉の子を人質に差し出せっていうのか」という気持ちだったのでしょうか。
それにしても……「わしらは侍なんじゃ!守る側になった。」とキリッとした顔で「侍の覚悟」を迫る小一郎の場面に続き、その「侍」が守るべき無辜の民を虐殺する場面に切り替ったのは、なんとも痛烈な皮肉です。
これから、万丸どころか、あさひも母・なか(坂井真紀)も秀吉のため『人質』にされる、そんな未来が待っています。
こんなに仲良しで楽しそうな家族だったのに。NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより
人質になっても「母との約束を守らねば」と耐える万丸万丸が『人質』となって三ヶ月。豊臣兄弟とともに、弥助・とも夫妻が継潤に会いに来ます。
ともは万丸のため「お腹が弱い子なのでこれを」と手縫いの腹巻を渡します。そこには屋敷の庭に咲いていて、親子が愛でていた撫子の刺繍が。「承知いたした」と言いしばし見つめる継潤。
これを渡したら、今まで張り詰めて頑張っていた万丸は一人で泣いちゃうかも。けれど、母の手作りの腹巻はきっと心を慰めてくれるはずでしょう。
「それから…寝れんときは花摘みの歌を」「それから…そそっかしい子なので転ばんように目を離さんで」「それから…」と、万丸にしてほしい要望を遠慮ながら、次々と口に出すとも。もう止まりません。
もし、弥助が止めなければ、百も二百も「万丸にして欲しいこと」をずっと話していたでしょう。私なら、「万丸にはこうしてあげてください」と1日でも喋り続けます。
「ご案じなさいますな。我が家に来てから三月。万丸は一度も泣いてはおりません。時折、さみしそうな顔はみせますが、懸命に耐えておりまする。一人でも泣かぬと、強うならねばならぬと。おっかさまからそう教わったのだと。万丸は、あなたさまの教えをちゃんと守っておりまするぞ」と語る継潤。
「弱虫がそんなことを」「宮部様、万丸をよろしくお願いいたしまする」と頭を下げる二人に、「しかとお引き受けします」と答えてくれました。
ちょっと母の姿が見えないだけで泣いていた万丸。「しっかりしなさい、泣いたらだめ」と母に抱きしめられていった言葉を覚えているのでしょう。ほんとに過去一泣ける場面でした。
救いは、継潤が偉そうな感じではないこと。ともの言葉を受け止めて丁寧に接する人柄であること。
史実では、秀吉の臣下になり、内政・外交・軍事能力を持って活躍したことから、「日本無双」と称えられたとか。隠居後も信任は厚く相談相手を務め重臣として政務にも関わり続けたそうです。
刺繍を施した腹巻を託す母。NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより
人質から夫・長政を支える大切な妻となったお市かたや、お市も浅井家の『人質』でした。
けれど、「人質とは思っておらぬ」という長政の誠実な愛情を知り、兄よりも夫が大切な人となりました。
静かな夜のひと時。
姉川大合戦で討死した浅井家の家臣たちの名前を一人一人挙げ、「みな、かけがえのない武者たちであった」と静かに語る浅井長政(中島歩)。相変わらず、声がいい。
「わしが死なせたようなものじゃ。」という長政に、「それほどの者たちであれば浅井のために散ったことを悔いてはおりますまい。なのに殿が悔いていては、その者たちが浮かばれません。」というお市。
お市らしい。叱責してお尻を叩いているように聞こえますが、長政をとても気遣った優しい言葉です。
「そのものたちの死を無駄にしてはなりません。」
頷きながら「織田殿がなぜこれほど強くなったのか今わかった。そなたが側で支えておったんじゃな」と涙声になる長政。
「ただ、今はもう、そなたは織田殿のそばにはおらん。」と悲しそうに微笑み、涙をすすりあげ上を向きつつ、泣きそうな顔で「いい気味じゃ!」と心に思ってもいない言葉をいいます。
ずっと、とてもいい人な長政。そんな長政に寄り添い手を添えるお市の頬を伝う涙。人質から最愛の妻となったお市。
「そなたは、もう、わしのものじゃ!」という表現ではなく、「そなたはもう、織田殿の側におらん。」という言い方をする長政。この時代にありがちな「妻=所有物」とは考えていない長政。推せます。
その直後。夜景を見つめていた信長が、まるで長政の声が聞こえたかのように、急に孤独の表情を浮かべて外に背を向けたのが印象的でした。
長政の心の拠り所となったお市。NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより
最期に甘えん坊で泣き虫の子を思うともの気持ちが辛過ぎた回でした。そして、光秀もあまりにも辛い、長政も辛い回。
比叡山延暦寺はいろいろな解釈の創作物があります。
このドラマでは、姉川の合戦で「あらゆる戦いに、本質的な勝者などいない」と悟り、「こんなことをするために侍になったのではない」と信長の命令に反抗して人々を逃した藤吉郎が描かれました。
無辜の者たちを斬るという傲慢な行為は、意に反したのでしょう。
けれど、今はそんな藤吉郎も、のちに万丸が豊臣秀次になったとき、一族郎党を河原で処刑するという残酷な天下人になってしまうのは皮肉です。(ドラマではそこまで描かれるかどうかわかりませんが)
次回、17回『小谷落城』、予告では、涙・涙・涙に濡れた長政とお市。「守るために滅びる」の言葉とともに映し出されたお守り袋と、浅井家の家紋「三つ盛亀甲」の石のようなものが。長政は別れのとき、このお守りをお市と娘に託すのでしょうか。
もう少し『小谷落城』は先に伸ばしてほしい…と、思ってしまうのでした。
※大河ドラマ「豊臣兄弟!」関連記事
『豊臣兄弟!』万丸を人質に取り最期まで秀吉に仕えた男…史実での宮部継潤(ドンペイ)の生涯を辿る 『豊臣兄弟!』史実で万丸と宮部継潤の関係は?比叡山焼討ちに対する実際の評価ほか第16話を考察 『豊臣兄弟!』なぜ足利義昭(尾上右近)は信長を見殺しにしたのか?姉川で動けなかった“将軍”の限界[前編]日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan


