朝ドラ【風、薫る】“観察する看護”でりんが見抜いた千佳子のSOS…「明治のナイチンゲール」誕生の兆し

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朝ドラ【風、薫る】“観察する看護”でりんが見抜いた千佳子のSOS…「明治のナイチンゲール」誕生の兆し

NHK朝の連続ドラマ「風、薫る」。第8週のテーマは『夕映』でした。

帝都医大病院に入院してきた、和泉公爵家の奥方・和泉千佳子(仲間由紀恵)の担当を任された、看護婦実習生の一ノ瀬りん(見上愛)。

気難しい千佳子の対応に困った医師らは「怒らせても実習生に責任をかぶせればいい」と押し付けたのですが、りんは、回避せずに引き受けます。

舞台が病院になり患者との触れ合いが描かれ、ドラマの中の“ヒロインのモデルの実像”が感じられるようになりました。

一ノ瀬りんのモデル・大関和は、ナイチンゲールの奉仕の精神で「心に触れる看護」をして患者のために奔走した人。

大家直美(上坂樹里)のモデル・鈴木雅は、「看護は職業。看護婦の生活も担保すべき」と近代的な職業観を持っていた人。

といわれています。そんな実在の彼女たちの性格や人柄がドラマの中でも垣間見えはじめましたね。

今週は、「患者との接し方」に悩む場面が数多く登場。りんは千佳子をどう扱うかに悩みます。けれど、バーンズ先生(エマ・ハワード)から「看護の基本は患者を『observe=観察する』こと」を学んでいたりんは、千佳子が無意識に発するSOSに気がついたようです。

いよいよ、『明治のナイチンゲール』と呼ばれた日本初の看護婦誕生の兆しが。

史実でも教育されてきた、トレインド・ナースの基本『observe=観察する』の大切さが描かれた場面を考察してみました。

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厳しいけれども的確なことを教えるバーンズ先生。(NHK「風、薫る」公式サイトより)

患者にとって「叱咤」の言葉は辛いもの…

最初に入院してきた時、医師が「それでは診察を…」と言ったときに、「今ですか?」と躊躇した千佳子に、夫は「前向きに診察していこう」と言います。

優しく付き添ってはいるけれど、千佳子の心を何もわかっちゃいない、和泉元彦侯爵(谷田歩)。

千佳子は診察そのものを拒否しているのではありません。医師たちや夫など男性にずらりと囲まれた中で「え?ここで上半身を脱げと?」と思ったのでしょう。

そして「この病院は嫌。退院したい」という千佳子に夫と息子は怒ります。

息子の和泉行彦(荒井啓志)は、「手術を受けるしか、もう道はない。それくらいわかるでしょ!わがままを言っている場合じゃない!」と理詰めで千佳子に説教。

息子の剣幕に、まあまあと割って入った夫は、「千佳子の好きなカステラを買ってきた。機嫌を治しなさい。」と。

違う!夫も息子も何もわかっちゃいない。千佳子は、わがままを言っているわけではありません。乳房切除手術を控えて、恐怖・心配・不安など、さまざまなものを胸に秘めているものの気を遣って泣きもせず、伯爵夫人らしく背筋を伸ばし毅然と振る舞うよう頑張っています。

そんな千佳子に「わがまま」「機嫌を直して」は禁句。

それに、「自分のため」だけに頑張るのは難しいものです。子のため夫のため「愛する誰かのため」なら、それが心の支えになって「頑張って治療しよう!」と思えるもの。夫や息子に「これからも一緒に生きたい。自分達のために治療して」と言って欲しい…と思いました。

りんは、そこへと導いてくれるでしょうか。

夫と息子の「わがまま」「機嫌を直せ」は千佳子にとっては辛い言葉。(NHK「風、薫る」公式サイトより)

「気持ちはわかります」で感情を逆撫で

直美いわく「心に触れる看護」ができるりんは、千佳子が胸に秘めている辛さや悩みを察知した様子。

担当看護婦となり千佳子に挨拶をしに行きますが「お引き取りください」と“けんもほろろ”な態度で扱われます。けれどもめげることなく、堂々と「看護婦は女中ではない」ことを説明し、衛生的かつ快適に眠ってもらうために、シーツをきれいに敷くことも仕事の一環であると実践して見せます。

そして、トレインド・ナースとして当然の仕事、食事の内容の確認、バイタルチェック、「お通じ」の様子を聞きますが、「無礼者!恥を知りなさい」と言われてしまいます。

帝都医大病院ともあろうものが、看護婦見習いが体調などの「問診」をすることを患者に伝えていない。いかに、大病院でもこの時代「看護」という認識がないのがわかります。部屋を追い出されたりんを見て、先輩の看病婦のおばさんは「見習いが追い出されていたよ!イヒヒヒヒヒ」と喜ぶようなレベルです。

患者さんと同じ気持ちになってみようと、「奥様のお辛い気持ちはよくわかります」と言うりん。けれども、「気持ちは分かるとか、たやすく言わないで。思い上がらないで」と激怒させてしまいました。

患者からすると、健康でこれからも未来が続くように見える人から、「気持ちが分かる」とは言われたくないもの。

患者を怒らせて悩むりんは、「私たちは、友人でも家族でもない。仕事だったら、患者さんと同じ気持ちではだめなんじゃない?看護婦としてわかるように務める。」と直美に言われ、何かが見えてきたようです。

直美のこの「近代的な職業観」、モデルとなった井上雅を想像させます。

なかなか千佳子に歩み寄れない、りん(NHK「風、薫る」公式サイトより)

露のように消える儚き命「御法 源氏物語」

患者さんが読んでいる本も、ときとして「『observe=観察する』こと」が大切。

千佳子が読んでいたのは『御法(みのり) 源氏物語』。りんは「素敵なものをお読みですね」と声をかけますが。実は、これは死を悟った女性が残された時間を慈しむような儚い内容です。

体が衰弱し、死期が近づいてきたことを悟った紫の上は、出家したいとかねて光君にも伝えるが、生きている間は離れたくはないと許してくれない。

ある秋の夕暮れ、少し気分がよくなり紫の上は脇息に寄りかかって風に当たり、庭で揺れる草花を眺めていた。身を起こしただけでも喜ぶ源氏。それを見て、“私が死んだら、どれほど苦しまれることか…”と悲しい気持ちになる。

「おくと見る ほどぞはかなき ともすれば 風にみだるる 萩のうわ露」

(萩の上の露が、見る間もないほどすぐに風に乱れてしまうように、今はこうして私が起きていても、もはやはかない命。すぐに消えてしまうでしょう)
と詠む紫の上。

「ややもせば 消えをあらそう 露の世に おくれ先立つ ほど経ずもがな」

(先を争って消えていく露のようにはかない世、先立って残される間をおかず、私も一緒に消えてしまいたいものです)

と返す源氏。まもなく気分が悪くなった紫の上は、源氏に退室するように願いとこに伏してしまう。そして、そのまま、露が消えてしまうように静かに息を引き取った。

紫の上に自分を投影し、残される夫や息子などとの別れを意識したのではないでしょうか。

あえてこれを病室で読んだ千佳子の心境は。(NHK「風、薫る」公式「X」より)

まったく患者の気持ちを考えないのは医師も同じ

主治医の医師たちも、まったく千佳子の心情など理解していません。

「奥様の不安な気持ちはわかります」と、千佳子が激怒する禁句を述べてから、夫や息子の前で「乳房を切除しなければならない」という話を始める外科医・今井益夫(古川雄大)。

医師・夫・息子と男性ばかりに囲まれて「乳房切除手術」の話などされたくないはずと、気が付いたりんは、わざと持っている記録ノートを落として話を遮ります。

千佳子はそれをきっかけに「疲れたので後にして」と医師に伝えました。気遣いに気がついた千佳子は、りんに目を向け、りんはかすかに頷きます。少し、心が近づいた瞬間。

「残念ながら、私は奥様の本当の気持ちはわからない。看護婦見習いの他人。ですからご家族のように気遣う必要はありません。」というりんに、「手術を受けたくありません。手術を受けて生きながらえたくない。華族といってももとは武家。武家の女らしく潔く死にます。」という千佳子。

りんは、自分も武家の娘であること、看護婦になると母親に言ったら恥を知れといわれたことを話します。けれども「この仕事は、この手は多くの人を助ける。と教わり働きたいと思うようになった。奥様の生きる助けになりたいと思っています。」

こんな風に言われたら嬉しいですよね。りんの真摯な思いは千佳子の胸にようやく届いた様子。病室で一人になった千佳子は、りんが病室の掃除をしながら歌っていた『庭の千草』を口ずさみます。この曲は、もとはアイルランド民謡『夏の名残のバラ』です。

歌詞は、“人生の晩年に愛する人に先立たれて一人残された寂しさ”が伝わってくるような歌詞です。そんな思いから口ずさんだのでしょうか。

これだけの人数に囲まれて「乳房切除」の話などされたくないはず(NHK「風、薫る」公式「X」より)

患者に寄り添い医師らに物申した大関和

ドラマの原案『明治のナイチンゲール 大関和物語』には、まだ実習中の大関和が、乳がん手術を終えたばかりの患者から痛みがひどくて不安なので、一晩付き添ってほしいと泣きながら頼まれ、病院の事務局に許可を得て一晩中付き添ったというエピソードがあります。

翌日、和は医師たちから「勝手な行動をするな」と大目玉を食うのですが、和は負けません。「勝手な行動」をせざるおえないのは、看病婦たちの患者に対する看護が手抜き過ぎること、と訴えます。

さらに、男性医師たちに、看病婦たちの看護の問題点をすべて挙げました。「女のくせに男に物申すなんて」と驚く医師もいたそうですが、外科の責任である教授、佐藤三吉今井益夫のモデル)は、この和の人格を大いに評価したのでした。そのため、乳がんで入院してきた三宮八重野和泉千佳子/仲間由紀恵のモデル)の看護に和を抜擢したのでしょう。

のちに心を通い合わせる千佳子とりん(NHK「風、薫る」公式サイトより)

和の「心に触れる看護」で次は八重野が花魁を救う

以前、この三宮八重野をご紹介する記事で、和は八重野が乳がんの手術をした日から泊まり込みの看護を行いずっと付き添ったことをご紹介しました。

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回復した八重野は、たくさんのお見舞いのお菓子や果物などを詰め込み、当時、心中事件で運び込まれた花魁に、その見舞品と日本語の新約聖書を渡すように、和に頼みます。

聖書にはしおりがはさんであり、ペンで小さな丸印が付けられた文章があったそう。「余計なことを心配せずに、目の前のことだけを考えなさい」という意味の文章で、それがきっかけで花魁は聖書を読むようになったとか。そんな行動にでたのは、和の患者の心に触れる看護があったからなのではないでしょうか。

無事退院する花魁を見送る大関和と井上雅は「女性が手に職をつけて自立できれば、遊郭に売られることもなくなる」「看護婦がもっと職業として広く必要になれば女性の自立の助けになる」と、トレインド・ナースを世に広げることを決心します。

史実でも、大関和は女性の地位向上のため娼婦廃止の訴えかけや、禁酒、婦人参政権運動などの活動実績を残すのですが。それはまた、次の機会にご紹介しましょう。

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参考:『明治のナイチンゲール 大関和物語』 田中ひかる

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