朝ドラ【風、薫る】史実ではりんの妹と結婚…槇村宗一(上杉柊平)のモデルとされる川原健二郎の実像
NHK朝の連続ドラマ「風、薫る」。
ヒロインの一ノ瀬りん(見上愛)は、「帝都医大病院」で見習い看護婦として侯爵夫人・和泉千佳子(仲間由紀恵)の「看護」に苦戦するも、学んできた「観察する看護」で心に触れ、二人の間に優しい風が吹き始めました。
そして、アナザーストーリーの舞台、りんの母・一ノ瀬美津(水野美紀)、妹・安(早坂美海)、娘・環(英茉)が身を寄せている、舶来品店「瑞穂屋」にも“新しい風”が吹き込んだ様子です。
突然、シマケンこと島田健次郎(佐野昌哉)と、親友・槇村太一(林裕太)が、兄・槇村宗一(上杉柊平)を伴って登場しました。宗一は、シュッとした長身のイケメンでお堅そうな人物。どうやら、安は一目惚れしたようです。
この、槇村宗一のモデルではないか?と考えられているのは、史実では大関和(りんのモデルになった実在の人物で日本初の看護婦)の妹・大関釛(こく)の夫となった、川原健二郎です。どのような人物だったのでしょうか。
槇村太一の兄で役所勤めの槇村宗一。(NHK「風、薫る」公式「X」より)
※現在では「看護師」という名称ですが、この記事では当時の名称に合わせ「看護婦」と表記しています。
※本記事では登場人物のモデルとされる実在人物を紹介していますが、ドラマ上の人物設定や物語展開は創作を含むため、実在人物の生涯・経歴とは異なる場合があります。
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宗一はスリーピーススーツ、ウィングカラーの白シャツ、ネクタイでビシッと決めたスタイルです。(このスタイルは、帝都大学病院の医師たちも同じでしたね。最初は政府高官や軍人の間で流行、徐々に地位のある職業の人や経済的に余裕のある職業の人の間、そして一般人というように流行っていったそうです)
物おじしない娘の環は宗一に人懐っこく話しかけます。それに対して、しゃがんで子供と同じ目線の高さで受け答えする宗一は優しそう。でも安のことを環の子と勘違いして「お嬢さんが」と言ってしまうあたり、女性慣れはしていないのかも。
けれど、その後、「ご無礼しました」と謝ってから「可愛いし、よく似てらっしゃるので」とフォローしているあたりは……真面目ゆえか実は女性慣れしているのか、なんともまだ読めません。
そんな宗一を好しそうに見守る安の目がハートになっているのに気が付いた美津は、早速シマケンに質問攻め。
シマケン情報によると、「東京府の役人で会計科」「家は根津」「結婚はまだ」とのこと。美津は「シマケンさま。仲立ちお願いします」と、まるで「介錯お願いします」くらいの「圧」で頼み(命令?)ます。
「美津の頼みは誰も断れない」のが面白いですね。さすが、お姫様育ちです。
槇村宗一に一目惚れした様子の安。(NHK「風、薫る」公式サイトより)
槇村宗一は安定した職業で高収入?川原健二郎が、実際にはどのような職業に就いていたのかは定かではありませんが、ドラマの中では「東京府の役人で会計課務め」という設定です。
東京府とは、明治4年(1871)から昭和18年(1943)まで実在した役所で、現在の東京都にあたります。つまり、宗一は「東京都庁に勤務する公務員」に該当するでしょう。
明治時代、県の役人の平均月棒例は役職によりますが、吏員・雇・書記など下級役人で16.5円〜、技師・技手・工師・工手などの技術系役人で29.2円ほどだったそうです。(明治40年の高知県の役人の月俸)
明治時代の「1円」は庶民にとって現在の3万円とも言われているので、仮に宗一が下級役人だとしたら、月収49.5万円ほど(あくまでも推測ですが)。しかも安定している職業です。
身なりも上質なスリーピーススーツで、「舶来の筆(万年筆か?)を購入したい」というほど金銭的に余裕のある生活をしていると思える宗一。安は、宗一のルックスに一目惚れしたようですが、母の美津にとっては、「娘が嫁いだら安定した生活が送れそう」という計算が即座に頭の中で成立したのでしょう。
美津は、姉のりんがDVマザコン夫と結婚しハラスメントの日々に我慢した上に離婚。シングルマザーとして苦労しつつ、トレインド・ナースという職業で自立しようと頑張っている姿をずっと見守っています。せめて、妹の安には苦労させたくないのが親心。
この、登場したばかりなのに一ノ瀬家の期待を一心に背負った槇村宗一(本人は全然気が付いてませんが)、今後の安との展開が楽しみです。
上質なファッションに身を包んだ宗一と安。(NHK「風、薫る」公式「X」より)
釛の結婚は和の「看護の理念」を後世に伝えた川原健次郎は、明治17年(1884)に、大関和の妹・釛と結婚しました。
※大関和の妹・釛について
朝ドラ「風、薫る」槇村宗一の実在モデルと結婚…りんの妹・安(早坂美海)のモデル大関釛の生涯ごく普通の結婚のように思えますが、実はこの二人の結婚は、和が切り開いた「女性が自立する職業・看護婦の道」と、和の信条「看護婦の理念」という職業的遺産を後世に引き継ぐ、大きな役割を果たしたのでした。
川原健次郎の出身地である栃木県烏山町(現在の栃木県那須烏山市)は、江戸時代中期から幕末期にかけて譜代大名の大久保家が治める那須烏山藩があった町です。
その藩主・大久保家はいわゆる「三河以来の譜代大名」の家系。釛の母・哲(美津のモデル)の実家でした。もしかすると、川原健次郎の家系は大久保家と何らかのつながりがあったのかもしれませんね。
ドラマが始まった頃、りんと安の姉妹は、いつも『娘双六』で遊んでいました。その双六の「上がり」は「奥様」でした。姉妹ともに良家に嫁いで妻となり子供を産む「奥様」になること=「結婚」が人生の最終目的だと思っていました。
けれどもりんは、間違った結婚をして大変な目にあったので、自立の道を選びます。そして、自分の手で病人の支えになるプロの看護婦の道と邁進していきます。
一方、安は、母や姉を支え、りんの娘の面倒も見つつ、一ノ瀬家の家事全般を一手に引き受けています。(母、美津は「お武家さんのお嬢様」かと思いきや、意外と商売上手で接客上手。職業婦人として働くほうが性に合っていたようです)
安は、母や姉とは対照的に「家庭を守る側」の人生を歩んでいくような感じ。史実でも、ドラマのりんと同様、姉の大関和はわりと感情的なタイプで気持ちが昂ぶるとすぐに涙を流す性格で、妹の釛は、物静かな性格であったそうです。
「上がり」は「奥様。『娘一代成人雙六』(ポーラ文化研究所所蔵) 出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100314091
釛は実子以外にも甥も育てる史実では、川原健次郎と大関釛が結婚した明治17年(1884)は、まだ、和が看護婦養成所に入学する前。結婚前の釛は姉と一緒に東京に住んでいたため、結婚に際して生まれ故郷の栃木県に戻ることになりました。
2人が結婚したのち、夫婦には諭と博巳という2人の男の子が誕生しました。実は、釛が育てたのは長男・諭と次男・博巳だけではありません。
兄・大関復彦の遺児で甥にあたる、大関増博の養育にあたり、旧制中学だった烏山中学(のちの栃木県立烏山高等学校)に進学させたのです。
復彦は、父が家老職を辞めた後に家出をして行方不明になり、結核を患って貧民街の長屋に住んでいたところ偶然見つかり、姉や母たちと再会後に病院で亡くなり、ました。
釛が兄の子を養育した背景には、和の「一族の人間は誰も見捨てない」という名族意識から来る強い意向があったといわれています。
川原健次郎は、1909(明治42)年に死去。死因やどのような結婚生活だったのかなどの資料は残っていないようです。3年後の大正2年(1912)に釛は、次男の博巳を東京専門学校(現在の早稲田大学)英文科に入学させるため上京して、再び和と同居生活を始めました。
その頃、和は、鈴木雅(大関直美(上坂樹里)のモデル)が設立した東京看護婦会を引き継いでいましたが、それに代わってキリスト教主義の『大関看護婦会』を設立しています。
そして、釛の次男・博巳は和の弟子・鹿内貞と結ばれました。川原貞は昭和4年(1929)に大関看護婦会を継承します。つまり、川原健次郎と大関釛の結婚によって生まれた息子が、和の後継者と結ばれ、和が育ててきた「看護理念を次世代へ橋渡しする」ことになったというドラマがあるのです。
もし釛が別の人のもとに嫁いでいれば、この継承はなかったかも知れません。
「大関看護婦会」は、少数精鋭の優秀な看護婦を揃えました。その半数が和が理事を務めた女性の自立施設「慈愛館」の出身者だったそう。かつて遊郭の娼妓や女郎だった女性たちが「慈愛館」を経由して看護婦となったのです。
釛は、そんな偉業を次々と成し遂げていく姉の和を支え続けました。
最後に…ドラマでは、妹と母と娘が住む「瑞穂屋」は、りんの故郷であり、激務の中唯一「味方ばかり」がいる心の拠り所。そんな場所を常に居心地のいい状態に整えてくれている妹の安。今後、槇村宗一と一ノ瀬安の恋愛と結婚は、どのように進展し描かれていくのでしょうか。
一見、アナザーストーリーの主人公のように見えて、実は「日本のナイチンゲール」として偉大な功績を残した姉を支え続けた安の人生も見守りたいですね。
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