【豊臣兄弟!】武器を“筆”に持ち替え戦に挑む!「プロジェクトX」ばり胸熱展開の第38話を史実と共に考察
「これで皆、万事円満じゃ!」
秀長(仲野太賀)の口癖が登場。
大河ドラマ「豊臣兄弟!」第38回『和を以(もっ)て、大和をなす』では、皆が潤い幸せになるため、郡山の城下町活性化計画に乗り出す秀長たちの奮闘が描かれました。
今回の主役は、秀長・家族・家臣・職人・絵師すべてが関わった『筆』。
人が集まる町作りの起爆剤となりました。
匠の技を持つ職人、商いを独占する商人たちと戦う領主、「筆」の販路探しに奔走する家臣……一丸となって奮闘するも、トライ&エラーを何度も繰り返し挫折しそうになります。
突破口となったのは、秀長の娘・末(池端杏慈)。そして、時のインフルエンサー・狩野永徳(片岡鶴太郎)。
SNSでは「まるでプロジェクト『X』!」と話題になりました。
剣や槍を持たず人を殺さない『新しい戦い』に挑み勝利したチーム秀長。
いつもとはちょっと違ったテイストだった第38回の主役、『筆』と『商売』を中心に、史実とともに考察してみました。
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末(池端杏慈)が持っていた小物の「ヤク」の毛を使ってみる才蔵(間宮祥太朗)。(NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より)
武器ではなく『筆』を持つ「新しい戦い」「閑古鳥の鳴く場所を活性化するには何をすべきか」。いつの時代も地域活性化プランには頭を悩ませるものです。
ドラマでは、奈良の商人による古くからの「座」(同業者組合)を廃止し、自由競争の商売を広めるために交渉する秀長でしたが、商人たちに鼻でせせら笑われ、「1ヶ月で郡山を活性化し栄える街にする!」と宣言してしまいます。
とはいうものの、まさかのノープラン。
そこで、才能ある筆屋の才蔵(間宮祥太朗)にすべてを賭けます。
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【豊臣兄弟!】秀長が頼るキーマン・才蔵(間宮祥太郎)の実在モデルは?郡山繁栄を起こす『起爆剤』さらに、財政困難なのに“新規の商人の家賃を免除” “必要経費は貸す”と大胆な政策を宣言しました。
「銭を産むものに銭を貸すのじゃ」。
「乗数効果」作戦にでた秀長は、武器を手に殺し合う「戦」ではなく、「筆」を手に販路を求めて駆け回る「戦」を決意。
「これは新しき戦じゃ!」と、勝ちどきをあげる秀長と家臣たちでした。
余談ですが、SNSでは昨年の大河『べらぼう』の主人公「蔦重」の名前をかなり見かけました。
「古い商売の慣習をぶち破る」「新しい商品で街を活性化」という話題になると、「蔦重だったら」「ここに蔦重がいたら!」という声をたくさん見かけたのが面白いですね。
「万事円満じゃ」な秀長の政策の実際実際に行われた秀長の政策はどのようなものだったのでしょうか。
・奈良での商売禁止
「昨日ヨリ ナラ中ハ 一切ノ万ノ商賣被止之、於郡山可有賣買ト 云々」「ミソ・サケ・柴木・菜(草冠に釆)・ノリ・ユワウ以下 一切の物一種モ無賣買サテ…」『多聞院日記』
現代語にすると、「昨日より、奈良における商売は一切禁じる。必ず郡山で行うこと」「味噌・酒・柴木・菜・海苔など、すべてのものを郡山で行う」ことなどが記されています。
(下の写真、右から5行目「昨日より…」からの部分)
『多聞院日記』第3巻 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1207471 (参照 2026-10-05
・商人・職人の誘致と特権(地子免除など)
郡山城下に同業者を集住させ、魚塩町・紺屋町・材木町など業種別の町(後の「箱本十三町)に、営業独占権(特許状)を与え、地租(地子・宅地税)を免除。
代わりに治安・防火・訴訟処理などを町ごとに請け負わせる自治的な仕組みを整え、堺・今井・奈良などから商人を呼び込み、短期間で城下町を発展させました。
・金の貸し付け
奈良町に対する「奈良借(ならかし)」が有名。
天正17年(1589)に約1万石相当を貸し付け、翌春に利子を金子で回収するなど高利の貸し付けを行いました。
利子徴収が主目的だった一方、「町への融資という側面もあり、郡山では経済振興策の一環だったのかもしれない」との見方も。ただし、奈良側では強制的・過酷な取り立てで苦しんだ記録もあり、純粋な「町おこしのための優遇融資」とは言い切れなかったとも伝わります。
プロジェクト「X」から生まれた「えいとくふで」
さて、チーム秀長は高品質な才蔵の筆を持ってセールスに励みます。
けれども、品質の良さは皆が認めるのですが、「奈良の商人とのつながりは断ち切れない」「お金がない」など次々と断られて八方塞がり状態に。
そこで、千宗易(利休/吉岡秀隆)が、当時の日本画のスーパースター・狩野永徳を紹介してくれました。
早速、筆を持ち込みセールスする藤堂高虎(佳久創)ですが、「この筆はだめじゃ!」と投げられてしまいます。
万事休すと思いきや、「屏風いっぱいにかすれない線をひけるほど、たっぷり墨を含む筆を作ってまいれ。そのような筆ならいくらでも買おう」。
なんと、特注のオーダーが入ったのでした。ここから、永徳が納得する筆を作るプロジェクトがスタートしました。
「えいとくふで」を成功に導いた筆ヤクの毛実際、伝統ある奈良筆は「練り混ぜ」という技法が特徴で、羊(ヤギ)、馬、鹿、タヌキ、イタチほか十数種類の獣毛を性質に応じて組み合わせて作ります。
ドラマ内でも、家臣たちが駆け回って様々な種類の「毛」を集めていました。
けれども、筆が完成し長い紙に試し書きをするも、途中で墨はかすれてしまいます。何度も何度も作り直すも、永徳の望む筆にはならず。
もはやこれまで……という空気漂う中、皆に差し入れを届けに来た慶と末。
慶は、落ち込む才蔵に「手習所で才蔵の筆を使った子供たちの書」をみせます。
「ふでの心地よし」の書に思わず笑みを浮かべる才蔵。職人としては実に嬉しい言葉でしょう。
そして突破口となったのが、秀長の娘・末がポシェットの横にぶら下げている「毛」の飾りものでした。
天竺由来の「ヤク」の毛で作った飾りでした。「これじゃ!」と叫ぶ才蔵。
「頼む、それを譲ってくれ」というようなチーム秀長の“圧“に負け、末は飾りを差し出しました。
ヤクの毛を使用した筆は、たっぷりと墨を吸い、試し書きでは最後までかすれることなく黒々とした太い線を書き切ることに成功。
才蔵の「やった!」という声が聞こえるような、最後の筆捌きがよかったですね。
「行け!」「行け!」と皆が声を出して願うチーム秀長。(NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより)
家康や信玄が格を誇り愛用した「ヤク」の毛「白熊」と呼ばれる白いヤク毛は、チベット・ヒマラヤ地方産で、南蛮貿易や中国経由で輸入されました。入手自体が難しく、当時の日本では極めて高価な舶来品で、主な用途は以下の通り。
・武将の兜の飾り(「唐の頭」「白熊毛」「熊毛」などと呼ばれ武田信玄の諏訪法性兜、徳川家康の愛用品などが有名。)
・槍や旗の飾り、陣羽織の一部装飾。
戦国期は、ほぼ武士階級のステータスシンボルだったと伝わります。
たとえば、「家康に過ぎたるものが二つあり 唐の頭に本多平八」という本多忠勝の武功を称える狂歌の「唐の頭」は「ヤクの毛で作られた兜」のことです。
井伊美術館では、「唐の頭(彦根伊池家伝来)」の展示物が。
唐の頭というのは、南アジアに生息するヤクの尾の毛です。いわゆる南蛮渡来の珍品で、当時大変高価なものでした。その頃、まだ三河の一大名にすぎなかった家康が贅沢にすぎるこの珍品を兜の装飾品に使わせていたこと……(中略)その頃家康の軍中七人の将が唐の頭を兜になびかせていたとのことです。(井伊美術館)
また、下諏訪町立諏訪湖博物館に伝わる兜。武田信玄の『諏訪法性兜』の白い長い毛は現代の材質鑑定で「ヤクの尾毛」とされているそう。
史実では、ヤクの毛は武将の格を誇る兜に使用した素材として有名ですが、ドラマでは若い娘のお守り兼おしゃれアイテムになり、それが狩野永徳の筆になるというストーリー。
困難に遭遇しても意外と身近なところに助けがある……そんなことを思わされました。
狩野永徳のオーダーのわけ
才蔵はドラマオリジナルのキャラクターなので、実際に狩野永徳が「襖の端から端まで墨がかすれない筆を」と別注オーダーをしたことも創作かと思われます。
実際、狩野永徳は、織田信長、豊臣秀吉など数々の権力者たちの御用絵師として多くの障壁画を描きあげました。
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【豊臣兄弟!】狩野永徳(片岡鶴太郎)、実は秀長より年下!信長・秀吉を魅了し絵に命を捧げた生涯モチーフを大画面いっぱいに描く「大胆な構図」「力強い筆致」が特徴です。
(反面、細かな人物や町の情景を描き込む「細画」にも優れていました)
有名な『唐獅子図屏風』は、通常の屏風と比べ約1.5倍ほどあり、「豪壮」と評される桃山絵画の中でも型破りの大きさを誇るそう。
そのためドラマでは、才蔵の筆の品質の良さを認めた永徳が、大きな屏風絵を描くための「墨がかすれない筆」を求めた……という流れになったのかもしれませんね。
屏風は、その前に座る権力者を「主役に引き立たせる舞台」を演出する大切なアイテムです。
実際、秀吉が永徳に『唐獅子図屏風』を依頼したという確かな一次史料はないようですが、ドラマでは、秀吉の威光を演出できる迫力ある絵を描く永徳に頼んだという展開でした。
獅子の屏風図に大満足の秀吉。(NHK「豊臣兄弟!」公式サイトより)
お互いに「兄弟」を想う二人ドラマでは、永徳の屏風絵を見た秀吉が出来栄えを絶賛しつつも、「この獅子は、つがいか。それとも親子か」と尋ねます。
「それは、見る者の心次第でいかようにも変わりますれば」と答える永徳。
まるで兄を見守りつつ追いかける弟のような構図(大河の美術スタッフによる力作でしょうか)になっている獅子に、「弟・秀長は元気か」と思いを馳せる秀吉。
「えいとくふで」が売れ城下町は賑わい「新しい戦に勝った」秀長も、空を仰いで「兄・秀吉は元気か」と思いを馳せる。
このドラマの根底に流れる『兄弟の絆』を、改めて思い出させる締めくくりでした。
兄に寄り添うような、追いかけるような、仲睦まじい獅子を描いたドラマ内の永徳の屏風図。(NHK「豊臣兄弟!」公式「X」より)
最後に武器を持たず「筆」を持つ「新しい戦い」を、胸熱なプロジェクト「X」展開で描くという意外なストーリーとなっていた「豊臣兄弟!」第38回。
また、慶役の吉岡里帆さんが、書道「八段」の腕前を披露したり、高校時代に弓道部に所属し弐段の腕前を持つ、茶々役の井上和さんがしっかりとした“引き”の美しいポーズを披露したり。
俳優さんの特技が生かされた脚本だったのも面白かったところ。
こういうコンテンツを自在にストーリーに取り入れるのも大河ドラマの魅力でしょう。
今後、待ち受ける様々な悲劇はどこまで描かれるのでしょうか。
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・秀長さんプロジェクト推進協議会事務局「大和郡山 秀長の輪」
・井伊美術館「唐の頭」
・『多聞院日記』
・『図説 豊臣秀長 秀吉政権を支えた天下の柱石』河内将芳
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