【盲導犬刺傷】不自然なオスカーの傷に急性湿疹、腫瘍説も

2014年8月1日。朝日新聞の「声」欄に「忠実な盲導犬を虐待するとは」と題した一通の投書が掲載された。埼玉県に住む50歳の会社員からだった。概略を紹介すると以下のようになる。
〈うちの娘と一緒に働いている全盲の方の愛犬が、お尻をフォークのようなもので刺された。ご主人とともに職場に入ってきた時、何かお尻に赤いものがついていると周りの人が気づいた。盲導犬の服をめくると……腰からお尻が血だらけだった〉
盲導犬オスカー騒動の幕が切って落とされた瞬間だ。
この事件に「犯人」はいない
投書記事はまたたく間に拡散され、被害に遭ったとされる盲導犬の名前、全盲の飼い主、診察をした獣医師の身元までが特定されテレビ、新聞、雑誌の取材が殺到した。あれから2ヶ月、犯人はまだ捕まっていない。有力な手がかりすらない状況だ。あまりにも不可解である。
結論から記す。この事件に犯人はいない。オスカーはフォークで刺されたわけではないのだ。都内在住の獣医師が語る。
「あれは明らかにフォークなどによる傷ではない。考えられるのは2つ。急性湿疹か、膿瘍でしょう」
つまり盲導犬オスカーの傷は皮膚疾患だというのだ。
そもそもこの事件は不可解なことが多すぎる。オスカーの飼い主は午前11時ごろにさいたま市の自宅を出てJR浦和駅から電車に乗り、JR東川口駅で下車。そこからまた歩いて職場に到着している。JR 浦和駅といえば埼玉県庁最寄りの駅だ。それこそ無数の監視カメラが乗降客を狙っている。しかしこれまで有力な不審者情報は上がってない。
またオスカーは外出時には犬用のベストを着せられている。このベストは無傷で体に傷がある。誰かが何かで刺すとなれば、ベストをめくっての犯行だ。そんな目立つことをやっていて目撃証言がゼロというのも解せない。
前出の獣医師によると、
「そもそもフォークで刺された犬が無反応であるはずがない。利用者と盲導犬を結ぶハーネスはお互いのちょっとした動きでも伝わるものだ、フォークで刺された犬が利用者に分からないほど無反応でいるのは不可能です」
監視カメラの網をかいくぐり、衆人環視の中で犬のベストをめくって刺し、誰にも気付かれずにその場を去る……そんな幽霊みたいな犯人が実在するわけがないのだ。
ネットでは「オスカー皮膚病説」が流布し始めている。これに反論する「いいや絶対に刺し傷だ説」もある。そのことを踏まえて再び前出の獣医師に聞いてみると、彼は笑いながら語った。
「アレを刺傷と診断するのはあまりにも稚拙です。日本の獣医師のレベルが疑われるから海外には知られたくないですね。動物には体内に異物が入ってくるとそれをやっつけようとする働きがあります。その機能が引き起こしてしまう皮膚病も多い。犬の皮膚は薄いから皮膚の下にしこりとか何らかの塊ができて、やがてそれがパチンと割れて膿とか汁が出てくる。悪化すると皮膚に小さな穴が開いてしまうこともままある。今回はこれが怪しいでしょう」
事件以来、毎日のように取材され、飼い主は疲労困憊しているらしい。しかし、騒動が大きくなり、一番困っているのは当のオスカーくんなのかもしれない。
(取材・文/江波旬)