「キングオブコント」でシソンヌが優勝できた理由

デイリーニュースオンライン

 10月13日、東京・赤坂のTBSにてコント日本一を決める「キングオブコント2014」の決勝戦が行われた。大会に参加した2810組の芸人の頂点に立ったのは、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のシソンヌ。せりふの一言一言まで考え抜かれた緻密な構成力と、隙のない演技力を生かして、2本のコントで大きな笑いを起こし、見事に栄光をつかんだ。

 シソンヌがこの日の1本目に演じたのは「ラーメン屋」のコント。ラーメン屋に入ってきたギャンブル中毒の薄汚い中年男性が、パチンコで負けた憂さ晴らしをしようと店員にしつこく絡み続ける。店員はウンザリしながらもそれに付き合い、最終的には男性の一方的な要求を受け入れて、ラーメンをタダで食べさせることにする。

 2本目に演じたのは「タクシー」のコント。女性の乗客が失恋して落ち込む姿を見て、タクシードライバーの男性が優しく声をかける。彼女の言う通りに暴走して、励まそうとする。

シンクロする栄光を掴んだ2本のコント

 この2つのコントに共通するテーマは「人の優しさ」だ。ギャンブルで勝てない、恋人にふられた。そんなときこそ、ちょっとした人の優しさが身にしみる。不器用すぎて道に迷い、傷ついた人が、思いがけない他人の優しさに救われるのだ。この2本のコントは、心温まる「ちょっといい話」でありながら、笑える要素もふんだんに盛り込まれている。

 ただ、彼らのコントはそれだけでは終わらない。実は、この2つのコントは結末がとてもよく似ている。ラーメン屋のコントでは、ラーメンを食べた中年男性が、気分一新して意気揚々と店を出た瞬間、車にはねられてしまう。一方、タクシーのコントでは、女性を降ろしたドライバーが、女性のほうによそ見をしていたせいで何かをはねてしまう。

 2つのコントの世界がつながっていることを暗示している。はっきりとそう断言できるわけではないが、そう考えるのが妥当だろう。そして、そう解釈したときにこそ、シソンヌのコントの本当の奥深さが分かる。

日常に存在する「一寸先は闇」を笑いに

 そもそも、冷静に考えてみてほしい。この世の中に、こんな親切な店員やこんな気の利いたタクシードライバーが実在するだろうか? 厄介な客を前にして、なぜか無料でラーメンを提供するラーメン屋。失意の底にある女性客を気遣い、危険な暴走行為に身を投じるタクシードライバー。こんなに型破りで優しい人たちは、私たちの実生活にはまず存在しそうにない。

 最後に事故さえ起こらなければ、この2つのコントはいずれもただのきれいな人情話で終わる。ところが、シソンヌはこれを美談で終わらせない。ラーメン屋のコントでは、ラーメンを食べて人生に希望を見いだしたつもりになった男が、あえなく車にはねられて絶望を味わう。一方、タクシーのコントでは、女性に希望をもたらしたはずの男が、他人を車ではねて絶望を与えてしまう。これほど理不尽なことはない。

 素直に解釈するならば、これは一種の皮肉だ。改心したつもりになっても、いいことをした気になっても、現実ってそんなものだよ、ということ。つかの間のポジティブな気持ちや優しさも、いつひっくり返るか分かったものではない。そんな「一寸先は闇」の状態もまた、私たちの住む現実世界のひとつの側面でもある。

優勝をもたらしたシソンヌの洞察力

 いい話が唐突に打ち切られ、悲劇的な結末を迎える。これでギャンブルに勝てるはずだと意気込んだ男は、皮肉にも店を出た途端、走ってきた車に「大当たり」してしまう。女性を励まして最後まで完璧に格好良くきめたはずのタクシードライバーは、前方不注意で人をはねるというミスを犯す。2本のコントのオチを見ると、「まあ、そんなもんだよね」という意味の乾いた笑みが思わずこぼれてしまう。

 気まぐれにふとした優しさを見せるのも人間。格好いい自分を演じるのも人間。そして、いつまでも反省しなかったり、うっかりミスをしてしまうのも人間。それらすべてを包み隠さず表現することで、シソンヌは「人間を描くコント」を完成させた。鋭い洞察力で人間そのものに迫ったシソンヌのコントは、見る者の心を揺さぶり、お笑いの歴史にその名を刻んだ。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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