「エボラ不況」で経済損失3兆円…世界同時株安の現実度

デイリーニュースオンライン

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2015年の西アフリカの経済損失は3兆円を越える!?

 西アフリカを中心にエボラ出血熱が猛威を振るっている。WHO(世界保健機関)の発表(10月17日)によると、エボラ出血熱の感染者(疑い例を含む)は全世界で9216人、死者は4555人に上る。感染は西アフリカにとどまらず、欧米諸国にまで拡大している。

 今後、さらなる感染者・死者の増加が見込まれており、WHOは2か月以内に感染者が週1万人のペースで増加するようになると予測している。こうした状況下、エボラ出血熱の広がりが世界経済にもマイナスの影響を及ぼすことが懸念される。

 では、具体的に、エボラ出血熱の流行によって、経済面にはどのような悪影響が出るのだろうか。世界銀行の試算によると、エボラ出血熱の感染者が多い西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネの3かカ国では、2014年中にそれぞれ1億3000万ドル(GDP成長率を2.1ポイント下押し)、6600万ドル(同3.4ポイント下押し)、1億6300万ドル(同3.3ポイント下押し)の経済損失が発生するという。

 3か国合計の損失額は3億5900万ドルに上るのだ。エボラ出血熱の封じ込めが遅れた場合、2015年中に8億900万ドルもの経済損失が発生する可能性があるという(2014年9月17日時点)。この試算を発表した後、さらに状況が深刻化してきたため、10月9日には世銀のジム・ヨン・キム総裁が2015年の経済損失が最大326億ドルに達する可能性があると言及した。

 巨額の経済損失の大半は、エボラ出血熱に罹患したことによる労働日数の喪失など「直接的な影響」によるものではなく、恐怖や不安に基づく周囲の人々の行動によって発生する「間接的」な影響であるという。

 例えばエボラ出血熱が流行している地域では、人々が他人との接触を恐れるあまり、家に閉じこもって外出しなくなる。それによって、消費活動が抑制され、交通や輸送にもマイナスの影響が出てくるようになる。

「予言の自己現実」の法則で世界同時不況に?

 恐怖や不安に基づく人々の行動の抑制がどれだけ経済活動にマイナスの影響を及ぼすかは「13日の金曜日」の例を見れば明らかだ。米国では「13日の金曜日」を本気で恐れる人たちが当日に飛行機や自動車で出かけるのを控えたり、日課にしていることをしなかったりするため、たった1日で約8億ドルから約9億ドルもの経済損失が発生するという。そして、人々の恐怖心や不安感の強まりは、「予言の自己実現(self-fulfilling prophecy)」によって増幅され、さらに経済に深刻なダメージを与える。

「予言の自己実現」はロバート.K.マートンという社会学者が最初に提唱したもの。平たく言えば個人がある状況を予想し、その予想に基づいて行動していると、結果として当初予想された状況が現実のものになってしまう可能性が高まるというものだ。悲観的な予想に基づいて行動する人が増えれば、それによって本当に悲観的な状況が生まれてしまう。

「予言の自己実現」の具体例として、よく引き合いに出されるのが銀行の取り付け騒ぎの話だ。たとえば、ある銀行の経営が健全であるにもかかわらず、誰かが「あの銀行は潰れそうだ」という根拠のないデマ情報を流したとする。その噂が広がれば、自分の貯金がなくなるのではないかという不安に駆られた顧客が、預金を解約するために銀行の窓口に長蛇の列を作るだろう。それまで健全であった銀行がたちまち倒産してしまうことになる。銀行側がいくら顧客の不安を鎮めようとしても、もはや倒産を阻止することはできない。

 今回のエボラ出血熱の流行に伴い、ギニア、リベリア、シエラレオネの西アフリカ3か国では、物価の急激な上昇に見舞われているが、こうした急激なインフレーションは「予言の自己実現」によって発生していると考えられる。

 当初、これら3か国では食料・飲料の不足は発生しておらず、物価も安定していたのだが、物資が不足するという予想に基づく不安から多くの人たちが買い占め行動へと走った。結果、予言どおりにこれら3か国で食料・飲料が不足して、値段が高騰するという事態に陥ってしまった。農家の人たちがエボラ出血熱の感染を恐れて農場から離れてしまったことも農産物価格の高騰につながった。リベリアの首都モンロビアでは、主食のキャッサバの価格が2週間で1.5倍に上昇している。

 早期の封じ込めに失敗するなどしてエボラ出血熱の感染が各国へと広がり、世界レベルで人々の恐怖や不安が強まった場合には、直接的な影響よりはむしろ間接的な影響によって世界経済に強い下方圧力が生じ、場合によってはそれが世界同時不況の引き金になる可能性すらあるだろう。

著者プロフィール

門倉貴史

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

(Photo by Global Panorama via Flickr)

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