【サイコブレイクの謎】なぜZ指定でも表現規制を受けるのか?

デイリーニュースオンライン

 10月23日にゼニマックス・アジアより発売された「サイコブレイク」(海外版「The Evil Within」)。「バイオハザード」のプロデューサーである三上真司氏によるホラーゲームということで注目を浴びていた本作ですが、ネット上ではこの作品のグロテスク表現について疑問が噴出しています。

4Gamer.net:「サイコブレイク」,ゴアモードDLC適用版と海外版「The Evil Within」のグロテスク表現の差異が分かるスクリーンショットが公開

 上記の記事に詳しいのですが、「サイコブレイク」は本来CEROレーティングD(17歳以上対象)の作品。発売元はこれをCERO Z(18歳以上対象)にするDLCを用意しました。つまり、CERO Zに認定されてしまうと、売り場が限られるなど販売上の不都合が生じるので、基本的にはCERO Dの抑えめなグロテスク表現にしておき、過激な表現を望む18歳以上の人に対しては別途DLCで供給しましょう、と、そういう販売戦略なわけです。これ自体はとても納得のいくお話です。

 問題は、そうして「18歳以上対象」にした上で、なお海外版に比べてグロテスク表現が規制されているということです。これが納得できない。「おれたちは18歳以上だし、自から望んでグロテスク表現を求めている。なのに日本人だけなんで規制されたバージョンを遊ばなければならないんだ!? こんなのおかしい!」ということです。

 つまりは、CERO Z指定を受け入れてもなお「表現を規制する何らかの力」がどこかで働いているのです。果たしてそれは何なのか。CEROに電話して聞いてみました。

筆者「サイコブレイクのゴアモードはZ指定とのことですが、海外版よりも表現が抑えられています。Z指定であっても表現できないもの、というのがあるということでしょうか?」

CERO担当者「『禁止表現』というものがありまして、それに抵触するものにはCEROは審査をしない、つまりレーティングを与えないことになっております」

筆者「では、国内で家庭用ハード向けに販売するゲームはすべてCEROの審査を受ける必要があるのでしょうか?」

CERO担当者「そういうわけではありません。私どもはあくまでソフトメーカーからの依頼を受けて審査を行っているだけです。PCゲームなどでは私どものレーティングを受けていないものもたくさんあると思います」

(※後述するが、この回答はかなりお役所的であり実際的なものではなかった)

筆者「ということは、『禁止表現』という表現規制を受け入れてでも、CEROからレーティングを受けるメリット、もしくは受けないデメリットがあるということでしょうか?」

CERO担当者「いえ、あくまで私どもは依頼を受けて審査をしているだけですので……。どのような意図から私どもに審査を依頼したかはメーカーにお尋ね頂きませんと……」

 ということで、はっきりしたことは何も分かりませんでした。今度は販売元であるゼニマックス・アジアへ電話で聞いてみたのですが、こちらは「社内事情ですのでお答えし辛いかと……」とのこと。メールで質問も送りましたが、原稿執筆時の現段階では回答はありません(回答があれば追記したく思います)。

 しかし一方で、この問題の核心に迫る情報があることを教えてもらいました。それが以下の記事です。

 キーとなる部分を引用しましょう。

審査基準の許容する上限の枠を超えるものについては審査結果を与えていません。そして、レーティング未取得のものについてはゲーム機メーカーの量産許可が下りません。従って、CEROの審査基準枠を超えるソフトは自動的に発売できない仕組みになっています。

ゲーム研究データインデックス

KJ:レーティングが与えられないと市場には出せない?
渡邊:実質的には出てないですね。
KJ:実質的とは?
渡邊:我々が「発売できません」ということを決められるわけではなく、権利もありません。ただプラットフォーマーさんが承認されないのです。
KJ:つまり、任天堂やソニー、マイクロソフトが承認の基準としてCEROのレーティングを採用しているわけですね。
渡邊:そうです。

コタク・ジャパン

 上記3記事を参照し、僕が理解した範囲でまとめると以下のようになります。

 まず、一部のゲームソフトが「有害図書指定」されかねない危機の時代があった。これに対処するため、ゲーム会社側はゲーム内容を年齢別に区分することにした。「すべてのゲームが全年齢対象」という前提があるから社会もゲームの内容に目を光らせるし、作り手も全年齢対象のゲームしか作れず表現の幅が狭まってしまう。しかし、年齢区分が生まれることによって、社会からの圧力も抑えられる。その年齢区分のための審査を行うのがCEROという組織。

 一方で、ゲームの表現内容に対して、常に社会には「もっと緩くてもいいのでは?」「もっと厳しくあるべきでは?」という硬軟両方の意見があり、その落とし所として「ここだけは最低限やめときましょうね」というガイドラインが設けられた。それがCEROの「禁止表現」。この「禁止表現」に抵触してしまうと、「うちでは審査できませんよ」となって、Z指定すら付けてもらえない。

 ソニーなどのハードメーカーは、CEROのレーティングを販売条件としているので、「禁止表現」=審査してもらえない=販売できない、となり、実質的には、家庭用ハード向けのゲームで「禁止表現」は不可能となる。……電話口でははぐらかされましたが、メーカーがCERO審査を受けなければならない理由はここにあったのです。CEROもなんではぐらかすかな……。

 今回、「サイコブレイク」が抵触していた「禁止表現」はおそらく「CERO倫理規定」の「別表3」にある

【暴力表現】
2.極端に残虐な印象を与える身体分離・欠損表現

 これだと思われます。

 また、GAME Watchによる記事(「サイコブレイク」、今度は海外版とゴアモードDLCの違いをビジュアルで紹介)によれば、

具体的な違いは「人間は分離欠損しない」というCEROの規制に則っている。一見、ゴアモードDLCで、敵の四肢や頭部がバラバラになる点と矛盾しているようだが、これはゾンビだから可能なのであり、CEROの規制では、人間について生死を問わず、その分離欠損表現は認めないということになっており、ゴアモードDLCはその規制を守った表現に修正されている。

 と説明されており、おそらくはこのことを指していると思われます。

 CERO誕生の経緯を考えれば、なるほどと理解できる面もある一方で、海外では規制を受けずにみんな遊べているわけです。彼らも自分たちも同じ人間、何が違うんだと感じるのも当然でしょう。CEROの「禁止表現」は日本社会の中で「荒波を立てない」ための取り決めですが、プレイヤー側の感覚はネットの力もあり遥かにワールドワイドで、「向こうは向こう、うちはうち」というわけにはいかないのです。

 CEROのおかげで「社会に荒波を立てず」に済み、大きな視点で言えばゲーム業界全体が益を受けているのかもしれません。ですが、小さな視点で個別的に見ていけば、今回のサイコブレイクのように「日本だけ意味の分からない規制を受けている!」とユーザーが損した気持ちになるのもまた自然な反応と言えるでしょう。

 18歳以上の分別の付く大人のうち、日本人に対してだけ人体欠損表現を与えないという規制が合理的とは思えませんが、「全体をなんとなく納得させるために非合理な取り決めをする」というのはしばしばあることで、CEROの件もその一例と言えそうです。

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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