編集長更迭で61人が人事異動「朝日新聞を震撼させた男」が逝く

デイリーニュースオンライン

tanakanei6

<アカイ アカイ アサヒ アサヒ>

 国民学校時代の国語教科書をパロディ化した文言を載せ、挿絵は水平線から昇る太陽を朝日新聞のロゴに。そして「朝日は赤くなければ朝日ではないのだ」というキャプションを添えて……。

「朝日ジャーナル」1971年3月19日号に掲載された上記の「櫻画報」を始め、数々の芸術活動や著作(注1)で知られる赤瀬川原平さんが、2014年10月26日亡くなった。

 この<アカイ アサヒ>事件では、かねてから「朝日ジャーナル」誌の新左翼傾倒に危惧を抱いていた朝日新聞本社が過敏に反応。「読者に誤解を与える」という理由で掲載号が自主回収され、雑誌自体も2週間にわたって休刊。さらに編集長が更迭されたのを始め、朝日新聞出版局では61人もが人事異動という出版史上に残る大騒動に発展した。

 また遡る1963年の読売アンデパンダン展(注2)では、千円札を自筆で模写して200倍に拡大した作品を発表。さらには「千円札の模型」として実際に千円札の片面を印刷したものを製作し、1965年11月に通貨及証券模造取締法違反に問われて、起訴されている。

 ……と書くと、知らない方はどんな過激で反抗的な変人かと思うだろうが、ご本人は至って物腰の柔らかい人物であった。むしろ街中に残された無用の建築物を巨人軍のダメ助っ人に喩えた『超芸術トマソン』や、そこから発展した「路上観察学会」などのブームを起こした人、と言った方が有名かもしれない。また老境に差し掛かって不便をかこつことを「老人力がついた」と言い換えてみせた『老人力』に、国語辞典のユニークな例文を紹介した『新解さんの謎』など、ユーモア溢れる観察眼と斬新な見立てを披露した著作を何度もベストセラーにした。

朝日新聞は今も<アカイ アカイ>ままに……!?

 赤瀬川芸術の真骨頂は、既成概念に凝り固まっているものの見方、とらえ方を崩してみせること。別の世界から光をあて、影に隠れていた部分を可視化する。最たるものが、1963年に発表した「宇宙の缶詰」(知らない人は画像をググってみよう!)ではないだろうか。

――現代美術には物体を布などで覆い隠すことによって、逆説的に内在する形態、意味を浮き彫りにする「梱包」という手法がある。寺院や橋、果ては海岸まで梱包してしまったクリスト(注3)が第一人者として有名だが、赤瀬川は巨大化する一方のクリストの梱包を既に凌駕してしまっていたのだーーカニ缶を空け、外側のラベルを内側に貼り直して再び封をする。これだけで内部と外部を反転させ、缶の内側の世界が外部化して我々の住む外側のはずの世界をすべて梱包してしまう。宇宙全体がカニ缶に閉じ込められている「宇宙の缶詰」の完成だ。

 筆者は初めてこのアートに触れたとき、あまりの衝撃に足元が揺らいでしまったほど。一瞬にして見るものを日常的なコンテクストから浮遊させてしまう、まさに芸術の存在意義を教えてもらった。一流の芸術家は、真の意味で人間の精神を自由にしてくれるのだ。改めて赤瀬川原平さんのご冥福を祈りたい。

 翻って朝日新聞やそのシンパは、40年以上経った今でも真実を見つめる精神の自由を持てずに、凝り固まったイデオロギーを正当化するために誤報を連発している。

 我々は1963年から赤瀬川さんのカニ缶に閉じこめられたままだが、アサヒだけは別の缶に移してあげたい。内側に<アカイ アカイ>ラベルを貼って、自分たちだけで眺めて恍惚となれるように。缶の内側を「世界だ」と思いこんだままに……。

(注1)著作……「尾辻克彦」名義で多数。第84回芥川賞受賞。
(注2)読売アンデパンダン展……前衛芸術家を多く輩出するも最後の方はメチャクチャに。
(注3)クリスト…「宇宙の缶詰」を理解できなかったらしい。

著者プロフィール

rensai_tanaka.jpg

コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。DMMニュースではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ

「編集長更迭で61人が人事異動「朝日新聞を震撼させた男」が逝く」のページです。デイリーニュースオンラインは、赤瀬川原平マスコミ朝日新聞連載などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る