4時間飲んでも1人1600円…究極の激安居酒屋に行ってみた

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おばあちゃん家で飲んでいるような気分に(写真/架神恭介)
おばあちゃん家で飲んでいるような気分に(写真/架神恭介)

 居酒屋での宴会は大人の楽しみの一つだ。しかし、この楽しみは安いものではない。最近は全品280円均一の居酒屋チェーン「鳥貴族」が勢いを伸ばしており、また、千円以下でベロベロに酔える酒場が「せんべろ」と呼ばれて話題になったりしているが、一品一品が安くとも、場が盛り上がり滞在時間が延びていくと、結構なお値段になってしまうのもしばしばである。

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 だが、今日ご紹介する居酒屋は圧倒的なコストパフォーマンスを誇る良店である。筆者の場合であれば4時間で一人1600円だった。それが東京都・高円寺に存在する、限りなく民家に近い居酒屋……「ふるさと」だ。無論、この安さには理由がある。今回、われわれはこの「ふるさと」での宴会にチャレンジした。

おばちゃんと湯豆腐を囲む…限りなく民家に近い居酒屋

 上掲の写真をご覧頂きたい。看板にこそしっかり居酒屋と銘打たれているものの、こちらの記事(【杉並区高円寺】家庭料理 ふるさと | ハイエナズクラブ)によれば、店内に灯りが付いていなかったり、中でおばちゃんが寝ていたりして、訪れた者は「これはただの民家だ」と思って去っていくという。まず、この時点からしてハードルが高い。われわれは予め店を訪れることで、予約(のようなもの)をしておいたから安心である。

 われわれが訪れると、女店主(以下おばちゃん)が現れた。今まで奥で寝ていたという。おばちゃんはわれわれの来店を歓迎し、今日は特別に湯豆腐を作ってくれるという。何が特別かは後述するとして、われわれはスーパーへと買い出しに出かけた。

 なぜ居酒屋に来て買い出しに行くのか疑問だろうが、それはこの店の特殊なシステムゆえだ。一人千円で、時間無制限にて店内を使えるのだ。割り箸、コップ、氷、麦茶などは提供される。なので、他の食材や酒などを持ち込むわけだ。今回、湯豆腐を作ってくれたのは完全におばちゃんの善意であって、ゆえに「特別」なのだ。

 これがおばちゃんの作ってくれた湯豆腐だ。ゆ、湯豆腐……? そしてわれわれが箸を握ると、おばちゃんも当たり前のように席に付いて一緒に湯豆腐を食べ始めた。う、うん。善意には違いないだろうけど、これ、おばちゃんの夕食でもあったのね……。「父方の実家に行ったらおばあちゃんがお鍋を作ってくれていた」感が凄くて、なるほど店名の「ふるさと」は伊達ではない。

 店内には昔懐かしのハエ取り紙が。今年34歳になる筆者であるが、これを見たのは子供の頃、父方の実家(山奥)に行った時以来だ。「ふるさと」の店名はやはり伊達ではない。

 なお、奥に見える色紙は山口百恵のもので「1980」という数字が見える。おばちゃんは「百恵ちゃんがまだ売れてなかった頃のもの」と言っていたが、1980年だと丁度引退した年ではないだろうか。

 店内に二つある時計は、一つは大きく狂っており、一つは小さく狂っている。「時間を忘れて楽しんで欲しい」というおばちゃんの気持ちが伝わってくる……。なお、われわれは十九時に入店したが、入店早々おばちゃんはしきりにわれわれの終電を心配してくれた。

 店内にはおばちゃんが普段飲んでいる薬袋なども置かれている。筆者の父方の実家にもおばあちゃんの薬がこんな感じで置いてあった……。やはり「ふるさと」の店名は伊達ではない。お達者に長生きして欲しいものである。

 しかし、この「限りなく民家に近い」感じは一体何なのだろうか。時間無制限で一人1000円は場所代としても安いし、普通に儲けようという気が微塵も感じられない。民家と勘違いされるような居酒屋でよくやっていけているものだ。

 それをおばちゃんに聞いてみたところ、この居酒屋経営は「道楽」なのだそうだ。なんでも若い頃は、昼は会社の社員食堂で働き、夜は居酒屋経営でガリガリ稼いだらしく、既に一財産を築き引退した身なのだという。この店も賃貸ではなく自前のものなので、格安価格でやっていける、とのことだ。

 ちなみに当店の利用法(?)に関してだが……、

筆者「宴会として使いたい時は予約した方がいいですかね? それともいきなり来ちゃって大丈夫?」

おばちゃん「そんな遠慮しなくていいよ! でもねえ、こっちにも準備ってもんがあるからさあ! 前日にちょっと言ってくれればいいからね!」

筆者「(つまり予約した方がいいってことか……)えっと、電話番号を教えてもらえますか?」

おばちゃん「うん、電話はここにあるけどね! 私、いないからさ! 大体奥で寝てるから! 鳴っても分からないんだよね! アハハハ!!」

筆者「(ど、どうしろと……!?)」

 やはりハードルが高い……! どうも正解は「娘さんがやっているカラオケスナックの方に連絡する」らしい。電話番号は「03-3316-2352」。こちらに電話して「ふるさとで宴会をしたい」と伝えれば話がスムーズに進むはずだ。……たぶん。

 おばちゃんは1時間ほど一緒に湯豆腐を食べていたが、その後、われわれを残して奥に行ってしまった。寝ながらテレビを見るのだという。

 だが、ふるさとの魅力はこれだけではない。正確なシステムはイマイチ不明なのだが、併設店であるカラオケスナックの方も利用可能なのだ。我々はスナックへと移動した。

 民家感丸出しの「ふるさと」の内装からは一変し、こちらはごく普通の立派な内装……。おばちゃん、やればできるじゃん! というか、今は引退したからああなのであって、「ふるさと」も以前は普通に普通の居酒屋っぽい内装だったのであろう。たぶん。

 われわれの持参したスナック菓子をおばちゃんが皿に盛りつけてくれる。ごく自然に自分用の皿にも菓子を盛りつけて、われわれと一緒につまみ始めるおばちゃん。大丈夫だよ、おばちゃん。僕らその展開、既に想定してたから……。「持ち込みOK」の店は数あれど、店主が客の持ち込み品をナチュラルに食べ始めるのは流石にここだけであろう。それが許される雰囲気が「ふるさと」にはある。

 カラオケもJOYSOUNDが入っていて、最近の曲なども普通に歌える。普通に楽しい。繰り返すが別料金ではない。「一人1000円」に含まれているサービスなのだ。しかし、こんな立派なスナックバーである。われわれの他にも客が来るんじゃなかろうか。思いっきり内輪で盛り上がってる最中なので知らない客が来たら気まずいなあ、などと思っていたら……

おばちゃん「大丈夫だよ! 今日は客来ないから! 来るなって言っといた!」

 えっ……!?

 ど、どういうことなのだろうか。「来るな」と個別に伝えて間に合うくらいしか固定客がいないのだろうか。飛び込みで来る客は端から想定していないのだろうか。分からない……何もかも、分からない……。

 会話の端々から察するところでは、この日が日曜日であり、客足が少ないからこその実質貸し切り状態だったと思われる。ハッキリしたことは分からないが、われわれと同じサービスを受けたければ日曜が狙い目かもしれない。しかし、良く分からない。こんなあやふやな記事を書いてニュース記事としてどうかとは思うが、状況が状況なので筆者を責めないで欲しい。良く、分からないのだ……。

 お会計は一次会(ふるさと)+二次会(カラオケスナック)で4時間いて一人1600円。1000円がお店側に払ったお金で、600円は持ち込み分を割り勘したものである。安い。安すぎる……。なんだこれは。

 なお、今回は「一人1000円の持ち込み制」だったが、「2000円で食事と酒付き」のコースもあるらしく、「次回はそちらを」と強く勧められた。2000円でも安いと思う。色々と特殊な居酒屋(?)であるが、各種ハードルをクリアできる人にはお得に楽しめる良店といえるだろう。

居酒屋「ふるさと」
住所:東京都杉並区高円寺南4-42-10
電話番号:03-3316-2352
※住所は併設されたカラオケスナックのもの。「ふるさと」の住所が正確に分からないので……。電話番号は自宅の番号かもしれない。良く分からない

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『仁義なきキリスト教史』(筑摩書房)

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