【民主化デモ】香港人の中国本土への鬱積した不安は10年前から始まった

デイリーニュースオンライン

学生を中心としたデモも徐々に支持されなくなっていった
学生を中心としたデモも徐々に支持されなくなっていった

 11月25日、香港の民主化デモで設置されたバリケードの一部が撤去され始めた。ここにきてこの香港の民主化は一定の落ち着きを取り戻しつつある。

 結局、この民主化デモは何を残したのだろうか。そもそも、この香港の民主化デモは国内ではいきなり降って湧いたかのように報道をされていたが、その伏線はかなり前から張られていた。それは、一昨年前、友人の結婚式で香港に赴いたとき、すでに「あと数年もすれば東條さんが知っていた頃の香港はなくなるだろう」という不安にも近い声を耳にした時点で明らかだった。今回は、その溜まりに溜まった不安が爆発した結果とも言える。

 そもそもの始まりは私が香港にいた最後の年、2004年と言える。当時は、SARSが世界を席巻し、その震源地の一つとして不安視された香港には世界各国から渡航注意令が敷かれた。観光と貿易を生業とする香港にとってこれは死活問題。それ以前からも上海などの経済特区が台頭する中で、香港は既に本土との窓口としての機能を失い、経済誌「フォーブス」でも香港不要論が囁かれていた時期だけに、このSARSはもはや致命的とも言えるものであった。

 挙げ句、そんな香港行政府がとった対策は本土マネーによる打開であった。SARS以前の香港は、旧イギリス領のもとで開花した先進国としての自負が残っていた。1997年の返還以降も中国人ではなく、香港人を自認する人が多かった。しかし、SARS問題以降、その立場は弱まり、いつしか自らを「中国人」と自称する人が増えていった。そう、結果、本土の力なくして再興は成し得ないという状況を自らの手で作ってしまった時点で、もはやその存在意義は破綻していたのかもしれない。

 結局、大量の本土人は香港経済を潤し、その恩恵を確実に受ける反面、その社会的価値観の違いからその素行に対して、香港の人たちは苛立ちを強めて行った。かつて、香港ディズニーランドが開園した当時でも、本土人たちが園内で唾を吐き寝転ぶ姿に大きな反感を呼び、私が仕事で通っていたデューティーフリーでも、高価な化粧品コーナーで本土旅行者の子供が店内で小便をするなどその文化的な違いは明らかだった。このため、いつしか香港人を自認するが増え始め、かつての香港アイデンティティは日に日に増していった。

 しかし、「覆水盆に返らず」である。一旦、流入した本土マネーはその留まるところを知らず、最終的には、本土マネーによる香港メディアの買収が報じられると、買収されたメディアはその内容を中央政府よりに改変していきました。世界の報道の自由度ランキングで2002年の18位から2014年の61位に一気に後退したという数字を見るだけでもおおよその理解は出来るでしょう。実際、私が現地の友人で聞いた声でも、このメディア統制の魔の手に何よりの危機感を覚えたと聞きました。

 ただし、今回のデモに関して言えば、現地の金融関係者によると終息はもはや時間の問題だろうと指摘する。何故なら、当初は学生たちを中心としたこの活動は、こうした背景もあって一定の共感を得ていたが、学生たちはその引き際を間違えたからだという。実際、デモにさらされた地域の小売店は、その売り上げを三分の一にまで落とし、生活への支障を高めていった。そもそも商いの都市であった香港にとって、商売に勝るイデオロギーはなし得ないというのも事実。そのため、一部の指摘の中には、中央政府はそうした動勢を見据えた上で、一切の手出しをしないと決めていたのではないかとの声も聞く。やはり、役者が一枚上手だったということだ。

 以前、台湾でも同じく学生たちによるデモ行為が見られたが、決して他山の石と思うなかれである。結局、日々の意識や行動の積み重ねがあらゆる禍福を招く。私たちも来月には衆議院選挙を控えているが、無関心を盾に何もしないということはそれ以上の結果を生むことはない。もし、私たちが今の状況に多少なりとも不安を覚えるのであれば、そこには少なくともそれなりの覚悟と行動を伴わなければならないことを意味する。世界は劇的に変化をし、なおも私たちの都合を待ってくれないのである。後からぼやいても何も始まらないのだ。

著者プロフィール

toujyou

一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、一般社団法人国際教養振興協会を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

公式サイト/東條英利 公式サイト

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