岩井志麻子【歌舞伎町の怪談】 3/4話
私と同じく歌舞伎町に住むタレント、冬美の話だ。ある夜、マンションの部屋に一人で いたら呼び鈴が鳴った。モニターには、エントランスに立つ見知らぬ若い女が映った。
誰かの部屋と間違っている、そうわかったけれど。それよりも冬美は、デリヘル嬢っぽいその女の漂わせる雰囲気に寒気がした。雰囲気というより、殺気。こちら側の画像はあちらには見えないはずなのに、目が合った。尋常でない黒い意識が 伝わって来た。冬美はあわてて、受話器を置いてインターフォンを切った。
オートロック 式なので、簡単に部外者はマンション内には入って来られない。
どうかすぐ間違いに気づいて、本来訪ねるべき部屋に行ってよ。
そう願ったのに。しば らくすると今度は直接、自宅玄関のドアのベルが鳴らされた。
誰かここの住人の後にくっついて入り込んできたらしい。何度も玄関のベルが鳴らされたが、出なかった。
しばらくしてベルの音は途絶え、冬美は無理矢理に眠った。
昼前に起きておそるおそる ドアスコープ越しにのぞいたら、誰もいなかった。しかしほっとしたのも、つかの間。 警察が来て管理人が来て、騒ぎになった。
仮に冬美の部屋を1001号室とすれば、1010号室の住人が殺されていたのだという。
被害者はホストで、加害者は恋人のつもり の風俗嬢だった。ソープに売られそうになってやっと、彼の本心に気づいたのだそうだ。
私も殺されかけた、と冬美は警察に訴えた。ドアを開けて人違いだとわかっても、殺されたに違いないといった。
それほどの殺意だったと。あの殺意は男にだけでなく、自分に も向けられていた、寿命が何年かは縮まったと力説した。
捕まった若い女は、部屋をいったん間違えたことは覚えていなかったそうだ。
しかし冬美は、あんな強い殺意を人違いや部屋を間違った、で済ませないでほしいという。
岩井志麻子(いわい しまこ) プロフィール
1964年12月5日生まれ
A型
高校在学中の1982年、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入選。少女小説家を経て、1999年『ぼっけえ、きょうてえ』が選考委員の絶賛を受けて、日本ホラー小説大賞 を受賞。 半生を赤裸々に語るトークや「エロくて変なオバチャン」を自称する強烈なキャラクターが注目を集める。