元巨人の桑田真澄氏や元西武・清原和博氏のK・Kコンビをはじめとする数多くのプロ野球選手を輩出した野球界の名門、PL学園高（大阪府富田林市）野球部が2015年から新入部員の受け入れを停止すると発表し、存続が危ぶまれている。

　PL高野球部の新入部員募集停止の背景について各種報道を要約するとこうだ。

(1)2013年2月に起きた部員間での暴力事件
(2)暴力事件の責任を取り監督が退任したが、その後継監督が決まっていない
(3)PL教団内部の争い

　概ねこの3点に集約されて報じられている。とくに内紛については、『週刊ポスト』（11月7日号）で、PL教団の3代教主・御木貴日止氏の妻が野球部の廃部を主導していると報じている。

野球部同様、花火大会に違和感を持つ信者も

　これら報道について、元プロ野球選手のPL野球部OBはどの報道も、「木を見て森を見ていない」とし、このPL野球部廃部騒動をPL教団という枠組みで捉える必要があると話す。

「PL教の路線変化でしょう。これが野球部廃止に繋がってきます。ただ野球が強ければいいという時代ではもうない。PL教という宗教を母体とする学校の野球部として、『将来、どういう社会人になるべきか』が問われる時代ですから」（PL高野球部OB）

　このOBがいう路線変化とは、「PL教という宗教の本義に帰る純化路線」（宗教問題に詳しいジャーナリスト）を指す。PL教といえば、高校野球の強豪として知られるPL高野球部ほか、教団本部があり聖地とする大阪府富田林で行なわれる夏の花火大会をイメージする向きも多かろう。

　だが、教団主催で行なわれる夏の花火大会は、そもそもの目的はPL教団にとっては「教祖祭」であり、今日多くの人が捉えているような「夏の風物詩」でもなんでもない。今ではその本来目的がどこか置き去りにされていることに教団内部でも「違和感を持っている者も少なくない」（前出のOB）という現実も横たわっている。

　PL高野球部も同様だ。いくら高校野球の強豪と世間的な名誉を得ようとも、冒頭部で紹介した上級生による下級生への暴力沙汰といった不祥事や、下級生が上級生の世話をする“付き人”制度などにみられる前時代的な上下関係は、PL教という宗教以前の、“人の道”を説く教育をすべき学校としては看過するわけにはいかないということなのだ。

　PL高教団では「おしえおや」と呼ばれる歴代教祖は、「人生は芸術である」との真理に立ち、「人が幸せになる」「進歩向上する」「真の自由に生きる」それぞれの道を説いている（PL教団ホームページより）。

　スポーツを通した人間形成を目的とし、強豪と呼ばれるまでに育ったPL野球部にしろ、大規模な花火打ち上げで大阪富田林の地元民のみならず、いまや全国からもその美しさを一目見ようと大勢の人が集う夏の花火大会にしろ、これを行なった当初の目的から、年月を経るにつれ、いつしか大きく逸れてしまった。ゆえに原点に帰る――信仰そのものを深めようというわけだ。

　このPL教団の純化路線という視点でみれば、夏の花火大会が、年々その規模が「縮小されつつある」（地元住民）、PL野球部の募集停止といった一連の動きと繋がってくる。

野球エリートから人間教育へとシフト

　PL高野球部の監督は、信仰者であることが求められるという。宗教の本義に立ち返れば、伝えられるようにその人選に難航することも頷けよう。ただ野球に詳しいだけでは「PL高野球部監督」は任せられないというわけだ。

　しかし、このPL教団の純化路線に端を発する騒動は、PL高野球部を目指してきた中学生にとっては、目指してきたものを突如奪われたような感覚に陥いるだろう。

「廃部と決まったわけではない。でも募集停止というのは、これまで築き上げてきたPL高野球部の伝統を断ち切ることになる。何とか考え直して欲しい。OBのひとりとしてはその思いもまた強い」（同）

　PL学園では野球部寮や付き人制を廃止し、部室掃除を学年順で行なうなど、学業重視などの改革が行なわれ、単なる野球エリート教育から人間教育へのシフトが進みつつある。プロ・アマ問わずOBとの接触も禁止するなど厳しいものだ。

　どのような教育でもその成果が出るのは約20年後だという。現在の野球部員たちが30代半ばの壮年となった頃、彼らの実社会での活躍がPL教の純化路線、これに端を発する野球部改革の結果が目に見えてこよう。その時、彼らは“母校・PL”に何を思うのだろうか。

（取材・文／秋山謙一郎）