ハローワークの「ブラック企業」対策に効果はあるのか
近年、いわゆる「ブラック企業」の被害に遭う若者が増加している。ブラック企業とは、一見まともな会社に見えるが、その正体は正社員を徹底的に低賃金・長時間労働でこき使い、最後は身も心もボロボロになった社員をポイ捨てしてしまう恐ろしい会社のことだ。2008年に『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』という書籍が出版されて、この言葉が広がったと言われる。
ブラック企業では、社員が厳しい営業のノルマを課されたり、上司からパワハラを受けたり、あるいはサービス残業を強要されるなど、各種の労働法令に触れるような被害が日常茶飯事で発生する。ブラック企業では、社員の残業時間が月80時間を越えることはザラで、休日や休憩もない。「こいつは使えない!」と思われたら最後、上司や同僚が無視するようになり、しばらくして解雇が言い渡される。
では、ブラック企業はどれぐらい蔓延しているのだろうか。厚生労働省が2013年9月に若者の使い捨てが疑われる事業所5111カ所を重点監督した結果、82%に相当する4189カ所で法令違反が見つかったという。新卒者が3年以内に会社を辞める割合は、大卒で約3割と高水準となっているが、3年以内離職率の高さにはブラック企業の存在も少なからず影響していると考えられる。
「貧困ビジネス」と化したブラック企業の正社員採用
今の日本でブラック企業が蔓延する理由は次のとおりだ。まず、世の中の大きな流れとして人件費削減を図る日本の企業が従業員の非正社員化を進めており、全体的に正社員の門戸が狭くなってきていることがある。
一方、これから就職活動を始める若い人たちは「低賃金で雇用が不安定な非正社員にはなりたくない。どのような企業でもいいからとにかく正社員になりたい」という気持ちが強くなっている。正社員の就職戦線が買い手市場になっているので、正社員採用にこだわって実態のよくわからない企業に就職したらそれがブラック企業であったという若者が次から次に出てくるようになっているのだ。
ブラック企業は正社員の地位という甘い誘惑で若者を誘ってくる。世の中全体で非正社員の数が増えているため、正社員という地位がいっそう魅力的に見える構図になっている。
自分が入社した会社がブラック企業だとわかっても「せっかく正社員になれたのに解雇されるのは嫌だ」「会社を辞めてもいまから転職するのは無理だ」という気持ちから、過酷な労働状況を我慢して受け入れてしまう若者も少なくない。ブラック企業は正社員をターゲットにした「貧困ビジネス」ととらえることもできる。
「ブラック企業」に対する不安や危機意識が強まる中、厚生労働省の審議会は今年1月に「若者雇用対策法案」をまとめた。この法案の柱となるのは、ブラック企業対策である。法案に盛り込まれた対策は、残業代の不払いや最低賃金を下回る低い給与、休暇不足などの違法行為で1年間に2回以上の是正指導を受けた企業を対象に、ハローワークで新卒求人の受理を断るというものだ。拒否する期間は少なくとも6カ月間になるという。現行の法制度では、ハローワークは求人の申し込みはすべて受理しなければならない。受理しないのは、求人内容に最低賃金を下回る給与や違法な労働条件などが書かれているケースに限られる。
ハローワークを通じた就職は2割以下
こうした対策は一定の効果を発揮するとみられるが、ハローワークによる求人拒否だけではブラック企業対策としては力不足だろう。
というのも、今回の「若者雇用対策法案」では民間の就職紹介会社などは規制の対象外とされているからだ。厚生労働省のデータによると、2013年度の新規学卒者のうちハローワークを通じて就職をしたのは17.3%にとどまり、ほとんどは民間の職業紹介や広告などハローワーク以外のルートで就職している。ハローワークを通じて就職した新卒者が全体の2割弱という現状を踏まえると、ハローワークに対する規制だけではブラック企業はほとんど排除できない。
求人の受理を拒否するという規制を民間の就職紹介会社にまで広げたり、ハローワークの不受理を民間の就職紹介会社にも連絡する仕組みをつくるなど、もう一歩踏み込んだ対策をとらなければ、ブラック企業の罠にかかってしまう若者の数は減らないだろう。
ブラック企業の蔓延をなくすには、やはり根本的なところで、日本全体でみた従業員の非正社員化の波に歯止めをかける必要があるのではないか。
著者プロフィール

エコノミスト
門倉貴史
1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)
公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所