貧困を恐れる「マイルドヤンキー」独自の価値観

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写真はイメージです
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 少子化や長い不況が続き、公的年金など社会保障制度の先行きも不安視されるなか、若者の貧困が顕在化している。非正規雇用の拡大や、ブラック企業の実態もクローズアップされて久しい。

 若者を取り巻く労働環境の悪化を懸念する声は、日増しに高まりつつある。若者の貧困化というテーゼを受け、メディアに登場する識者の論調はまっぷたつに割れている。一方は、世代間格差を憂い“無力な若者”を救おうと社会に向け警鐘を鳴らす論調。もう一方は、若者が貧困化しているという事実はなく、努力が足りないだけだという自己責任論だ。

 両者の見解はまったく異なるように見えるが、ふたつの点で共通している。まずひとつは、若者が“無力”であると仮定している点。そしてもうひとつは、収奪されたり、馬鹿にされ続けても“意に介さない”世代だと思い切っている点だ。ただ、現実はそうではない。貧困化している若者たちの一部は、社会の変化に合わせ自身の価値観を変化させはじめている。

昼間は会社員、夜は危険ドラッグを販売

 東京都下・八王子──20代前半のある男女のグループが話を聞かせてくれた。地元で育ち、幼いころからお互いを知る男性2人と女性2人の4人組だ。いわゆるマイルドヤンキーを絵に描いたような存在だ。彼らはともに、サラリーマンや自営業、公務員の両親のもと、平均的な中流家庭で育ったごくごく平凡な若者たちだ。

「10代の頃にオレオレ詐欺で捕まったことがある」

 まず、こう話してくれたのは仲間内でもリーダー的存在のA君だ。顔も幼く、身なりも素朴。性格も温和で明るく、犯罪に関わっていた過去があるとは、まず想像できない。現在は、都内の知人の宝石店に勤務しており、結婚して家庭も築いているという。

「貧乏だから詐欺をしたかというと、そうでもない。ただお金があれば楽しいことはほとんどやることができたし、将来、貧乏になるのも嫌だった。一時はオレオレ詐欺で小遣い稼いで、何か商売でもはじめようとも思っていた。実際、警察に捕まっても罪が軽い10代の頃に悪いことをたくさんやって、自分の店を構えた友だちもいる。当時は、自分が汗水たらして働く姿は想像できなかったし、逆に真面目に働くヤツは頭が悪いと思っていた。働き始めた今でも、真面目に働くことと、儲けることは別だなといつも感じている」

 オレオレ詐欺について罪の意識はなかったのかと問うと、A君はきっぱり「ない」と言い切る。すると、A君の旧友であるB君が、同世代の若者の現状を次のように話しはじめた。

「正直、儲かるなら犯罪ギリギリのことをやる友だちは少なくない。昼はスーツを着て仕事をしてるヤツが、副業で脱法ハーブの店を経営しているなんて話はゴマンとある。最近、流行しているのは、電子タバコ関係かな。電子タバコ用にマリファナをリキッドにして売るのが流行っているらしい。真面目に働いても給料はたかが知れているから、仕方ないとことだと思います」

 A氏やB氏にとって、オレオレ詐欺や危険ドラッグの販売はそこら辺に転がっている話だという。ふたりはまた、自分でリスクを背負って違法行為や犯罪を行う人間はまだマシで、友だちを平然と裏切る行為こそ本当の“悪”だと話す。グループの女性Cさんが口火を切った。

「私が通っていた大学では、学生の間でネズミ講が流行っていました。電化製品とか、いろいろなものを売っていましたね。私はセミナーによく誘われたけど気味が悪いから無視してた。ただ、ハマっちゃった子も多くて。幹部になった子がラスベガスで豪遊している写真をフェイスブックにアップしていたこともあったし、反対に騙された子のなかには友だちに嫌われて二度と姿を現さない子もいました。似たような話は、他の大学に行った子からもしょっちゅう聞かされていた。友だちを騙してお金を儲けするのも、当たり前で珍しくないというか。そういうことって、あんまりテレビとかでやりませんよね」

社会の善し悪しの基準は、私たちを守ってくれない

 最後に話を聞かせてくれたDさんの父親は警察官だそうだ。父親とそりが合わなかったDさんは、家を飛び出し中学校も中退。10代の頃から風俗店に勤務しながら、店の寮で暮らすようになったという。

「中学生の頃に、お父さんと同じくらいの年齢の男の人と付き合ったことがありました。未成年に手を出したことが怖かったのか、いきなりいなくなっちゃいましたけど。当時は、そのくらいの年齢の男性に惹かれることが多かった。理由はよく分かりません。大人と付き合っていたせいか性行為にも拒否感が少なかった。10代の頃はお金もなかったし、若いうちに体を使って、稼げるだけ稼ごうと思ってます」

 Dさんの両腕の外側には、バラの刺青が彫られている。そして、その刺青と皮膚の間には、無数の自傷行為の跡が。「少しだけ後悔している」とDさんはそう小さな声でつぶやくと、腕を大きく広げ、明るい笑い声でその場の雰囲気をごまかした。

 話を聞きながら気になったのは、4人がことあるごとに「自分の周りにも似たような子がたくさんいる」と洩らしていたことだ。経済的な意味で、4人が平均的な過程で育ったごくごく普通の若者だということはすでに述べた。そんな彼らが、「似たような子がたくさんいる」と実感しているということは、4人と同じような環境、同じような人生を歩んでいる若者が、他にもたくさんいるということにはならないだろうか。

 おそらくそのような若者たちは、この4人と同じように、貧困に直面する前に自分なりの価値観でアクションを起こしていくだろう。時に他人を、そして時には自分自身を傷つけたとしても、貧困から逃れるためにあがくはずだ。その時、社会の善し悪しの基準は、彼らにとって不必要になる。というのも、社会の基準は彼らを守ってくれないからだ。

 若者の貧困化とともにやってくるもの。それは、大人の世界では“モラルの崩壊”と呼ばれるであろう、若者の価値観の変化なのかもしれない。

(取材・文/中川武司 Photo by Ken OHYAMA via Flickr)

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