黒子に徹し人生を学んだ『人間力』入来祐作(福岡ソフトバンクホークス3軍投手コーチ) (2/2ページ)
もちろん念願が叶ったわけですから、嬉しかったんですが、正直、打撃投手といわれても何をすればいいのか、わからなくて不安でした。
キャンプ初日。キャンプでは投げる時間が長いんです。35分とか40分位投げるんです。キツかったです。しかも、もうボールを投げることで評価をされない。現役時代なら、パシーン、パシーンと投げることで、"入来、今年も使えるな"と、首脳陣に思ってもらう場じゃないですか。だけど、僕らがやる打撃投手は、そういった存在意義はないんです。その時間は、バッターが監督やコーチに認めてもらうための時間です。僕は黒子。それを、受け入れたつもりだったんですが、受け入れてなかったんですね。
春季キャンプ後、イップスになりました。ボールが視界から消える大暴投になるかと思えば、ベースの遥か手前でワンバウンドしちゃう。先輩から「俺の視界から消えろ」と叱責されました。僕は、本気で消えたかったですね。何がきついって誰の役にも立ててないんですよ。
その後、打撃投手失格の烙印を押されて、用具係になったんですが、とにかく、なんでもいいから人のために役に立とうと毎日を過ごしてきました。
あの会見で、そんな裏方の6年間の口に出せない悔しい思いとか、やるせない思いとか、そういうことが思い浮かんできたんです。工藤公康さん(ソフトバンク新監督)から、華やかな場を設けてもらった嬉しさもあって、涙が出たんです。
工藤さんに、3軍の投手コーチに抜擢して頂いた恩に報いなければなりません。野球選手でいられる時間なんて、ほんのわずかなんです。その限られた時間ということを噛みしめて一生懸命プレーすることを選手たちには伝えていきたいです。
撮影/弦巻 勝
入来祐作 いりき・ゆうさく1972年8月13日、宮崎県生まれ。PL学園、亜細亜大学、本田技研工業を経て、1996年ドラフト1位で読売ジャンアンツに入団。その後日ハム、メジャーのメッツ、横浜(現横浜DeNA)ベイスターズでプレーし現役引退。12年間の通算成績は35勝35敗3セーブ、防御率3・77。翌年からバッティング投手、用具係を6年間こなす。今年、現場を離れて長い極めて稀なケースとして、ピッチングコーチとして現場復帰を果たす。裏方で培った人間力を活かし、優秀な指導者になると期待されている。