お笑い界の松岡修造か…ノンスタ井上の「嫌われ力」に学べ

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超ポジティブ思考の思惑とは……
超ポジティブ思考の思惑とは……

 3月10日、NON STYLE・井上裕介の日めくりカレンダー『まいにち、ポジティヴ!』(ヨシモトブックス)が発売された。「嫌いは好きへのワンステップ」「ココロもカラダもハダカがイチバン」など、井上流のポジティブになるための言葉が日替わりでつづられている。ベストセラーになっている松岡修造の『まいにち、修造!』(PHP研究所)に対抗して、「お笑い界の松岡修造」が立ち上がったということになる。

 井上というと、少し前までは「ナルシスト芸人」として嫌われがちな存在だった。どんなに先輩芸人からツッコまれても、どんなに客席から悲鳴があがっても、彼は自己陶酔的な振る舞いをやめようとせず、「皆さんは僕の美しさに嫉妬しているだけです」などと言ってケロッとしていた。そんな彼は、最終的には世間に「嫌われる」というよりも「あきれられている」という感じの方が強かったかもしれない。

 だが最近になって、そんな井上が再評価されている。きっかけは、ツイッターで一般人に悪口を言われて、それをどんどんポジティブに返していったことだ。「井上おもしろくない」と書かれたら「おれは、つっこみだから、石田を面白いって思ってくれたら、それでいいよ!!」と返す。「地球から去れよ」と書かれたら「宇宙レベルの存在ってことですね」と返す。こうしたことを繰り返していくうちに、ここまで徹底してポジティブな発言を貫く井上はすごい、と世間の評価が変わり始めた。

 なぜ井上がここまでポジティブを貫けるのか。それは、彼の中に明確な「ポジティブ哲学」があるからだ。彼の著書『スーパー・ポジティヴ・シンキング 日本一嫌われている芸能人が毎日笑顔でいる理由』(ヨシモトブックス)の中に詳しく書かれている。まず、彼は嫌われることを恐れない。なぜなら、嫌いと好きは簡単に裏返るからだ。嫌われるくらい関心を持たれているのであれば、ちょっとしたことでその評価はひっくり返り、好きになってもらえる可能性もある。嫌われるより無関心の方がはるかに厳しい。彼はそう考える。

功を奏した井上の“逆張り”

 また、彼がナルシストキャラを打ち出したのも、最初は人気取りのための戦略的なものだった。NON STYLEが下積み時代に出ていた劇場では、観客の大半は若い女性。入れ替え戦と呼ばれるライブでは彼女たちの投票で順位が決まり、上位に入った者が劇場のレギュラー枠を勝ち取れるという仕組みだった。勝つためにはなりふり構ってはいられない。

 若い女性客が中心の劇場では、男性芸人をアイドルのように見て応援する風潮が少なからずある。これを利用して人気を得るために、わざと過剰なほどに格好付けて、キャーキャー言われるようなキャラを編み出したのだ。その作戦は功を奏して、ファンは一気に増えて、NON STYLEは見事レギュラー枠を勝ち取った。

 このように、井上のナルシストキャラの裏には、緻密な戦略が潜んでいる。2008年に「M-1グランプリ」で優勝した後、井上は髪型を左右非対称のアシンメトリーにした。ナルシストキャラをよりはっきりさせるための作戦だった。すると、彼の狙い通り、番組で共演する先輩芸人たちが、その髪型を面白おかしくイジり始めた。こうして彼は、イジられキャラとしての地位をどんどん固めていったのだ。

 井上は、バラエティ番組などでどんなに批判的なことを言われても、いつもニコニコしている。強く言い返したり怒ったりすることはない。セオリーとしては、悪口を言われたらキレてみせる方が一般的なのだが、井上はあえてその逆を行った。それを貫いているうちに、独特のキャラだと認知されるようになり、評価も上昇。逆張りが功を奏したのだ。

 井上は、根っからの前向きな性格に加え、それをキャラクターとして売り出してしまうしたたかな一面も持っていた。お笑い芸人は、世の中を斜めから見るものだというイメージがあるが、井上だけはどこまでもまっすぐに前向きだ。決してへこたれない彼のスーパー・ポジティヴ・シンキングは、悩める現代人への処方箋にもなるはずである。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
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