スー・ブラックウェル「Dwelling-すみか-」展

デイリーニュースオンライン

04.29[水]~06.14[日] / 東京都 / ポーラ ミュージアム アネックス
04.29[水]~06.14[日] / 東京都 / ポーラ ミュージアム アネックス

 小さい頃大切にしていた、キラキラ光るガラス玉、海で拾った貝殻、小さな化石……。自分だけの宝物を眺める時、きっとそのまなざしも輝いていたことでしょう。同じくらい大切だけどかたちに残らない宝物、おとぎ話や物語の世界。何度も読んでは想像し、夢中になるあまり内容をいつしか暗記してしまった事があるかと思います。

 しかし、大人になるにつれ、見えない宝物はいつしか思い出の深いところにしまわれてしまったようです。

 おや、物語があなたに会いに来てくれたみたいですよ。

ブック・スカルプチャー?

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 エントランスを入ると出迎えてくれる作品『蘭の花冠』。スケールの大きさと細部の繊細さの対比がスゴイ!

 今にもケースからあふれ出さんばかりの蘭の花。幾重にも重なり咲き乱れる様子は、まさに圧巻の一言。まるでこれから始まる物語への旅を歓迎してくれているかのようです。

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 この作品を手掛けるのはスー・ブラックウェルさん。ロンドンのロイヤルカレッジ・オブアート、テキスタイル学科を卒業後、ロンドンを拠点にイギリスやアメリカで活躍するアーティストです。その活躍は制作活動や個展だけにとどまらず、ブリッティッシュ・エアウェイズやヴォーグなどにも作品を提供するほどなのです。

 今回は彼女にとってアジアで初めての展覧会となるそうで、会場にある作品はすべて新作とのこと。実は今回の企画をオファーした時、作品はすべて売れてしまっていたため手元に展示出来るものがなかったそうです。

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 今回の展覧会のために初来日した、 スー・ブラックウェルさん。彼女の作品は、ブック・スカルプチャー=本の彫刻という独自の方法で生み出されています。一冊の本を読みこんで物語からインスピレーションを十分に受け止めた後、本そのものを素材にして作品の世界観を作り上げていきます。

 ひとつの物語を読んでから、作品を仕上げるのにかかる時間は4~5週間。切る・貼る・組み立てる等の工程を経た古本は、新しい命を吹き込まれたかのようです。

 今回のテーマ「Dwelling‐すみか‐」はフランスの哲学者・科学哲学者のガストン・バシュラールの著書『空間の詩学』からインスピレーションを受けたもので、会場には11点のインスタレーションが展示されています。なお今回の作品には日本の昔話『鶴の恩返し』から題材にしたインスタレーションも含まれています。

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実際の会場はもう少し照明が控えめ。一般の方も写真撮影可能でした。
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古本の1ページをイメージして作られたキャプション。うーん、いい味出してる……。

ところで、“Dwelling”ってどういう意味? どこか懐かしい空間がそこに。

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「The Darkness is Rising」 2014年

 作品はメルヘンチックでもあり、どこか幻想的な雰囲気をたたえています。

 今回のテーマの“Dwelling”は、日本語にすると“すみか”。“House”の方が馴染みのある言葉なので、最初は意味が解らず『?』となってしまいました。

 ですが、作品を観て納得。会場内に設置された物語の“すみか”のなかに広がるのは、どこか懐かしく気持ちをほっとさせてくれる空間でした。大きな樫の木の上に建てられたツリーハウスやブランコ、世界中の深海を旅する潜水艦。暗闇を照らし出す灯台の輝き。夜なべ作業をするためにともされているあかり。

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 あらすじを読んでいた時にはぼんやりとしかイメージできなかった世界観が今にも動きだし、物語の登場人物たちの息遣いが今にも聞こえてきそうです。

 それにしても細工のとても細かいこと。ジオラマのように立体感をもっている作品なので、少し立ち位置を変えて目線に変化をつけてみると細かい発見がたくさんあります。正面から見えないところに細工がしてあったり、物語のキーワードとなるような単語も作品のあちこちに登場していたり、見るたびに新しい発見がありそうです。

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会場内にある映像ブース。こちらはちょっと大きいおうち。

 スーさんがイギリスで受けたインタビューの様子や、過去の作品を使って撮影した映像を見ることが出来ます。ちょうどこの時はシンデレラを流していたのですが、おとぎ話のキラキラとした空気感を損なわず、キャラクターが本を飛び出して動き回る姿、本とアニメと映画の良いトコどり。画面に吸い込まれるように見入ってしまいました。これは必見です。

 スマホや電子書籍、果ては街中のプロジェクターなど、私たちの生活にはあらゆるところにデジタルな文字があふれています。そこからもたらされる情報はとても刺激的ではありますが、いつも時間に急かされていて考える前にどんどん画面が変わってしまうせっかちな存在でもあります。

 ひとつの物語を細部まで読み込み、切る、破くといった行為を経て、読むための本から見るための本へと生まれ変わった古本。長い時間を生きてきた古本は、目まぐるしい今だからこそゆっくりと時間を楽しむことや空想することの楽しさを伝えたいと願っているのかもれません。

Su Blackwell(http://www.sublackwell.co.uk/)
※英語のページです。過去の作品や写真集などを見ることができます。

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(文・写真/青木美佳・Yeshen Venema)

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