吉田豪インタビュー企画:爆笑問題・太田光「20年前から世の中で起こることは変わってない」(3)

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吉田豪インタビュー企画:爆笑問題・太田光「20年前から世の中で起こることは変わってない」(3)

 日本最強のプロインタビュアー吉田豪が注目の人物にじっくり話を聞くロングインタビュー。爆笑問題の太田光さん登場の第3回目は、小説執筆、明石家さんま論、自身の時事ネタ漫才、そして浅草キッドとの漫才対決について語る![前回はこちら]

小説や映画への欲求は隠せない

──ちなみにボクは、芸人さんで一番好きなのがさんまさんなんですよ。あの、お笑い以外はやらないっていうスタンスが。

太田 ああ、カッコいいですよね。

──たけしさんも好きだし、たけし映画も嫌いじゃないんですけど、多少のモヤモヤはあって。太田さんも大好きなんですけど、本とか書くとちょっとモヤモヤする部分があるんですよ。

太田 それはしょうがない。俺が隠せないところだから。要するにカッコよくなれないところであって。俺も芸人として考えたとき、さんまさんが一番カッコいいと思う。そことの闘いだけど、自分に負けるんだよね。

──小説を書きたいって昔から言っていたのになかなか書かなかったのには、そういう葛藤も関係してたんですか?

太田 いや、ただ書けなかっただけ。それは俺のなかでは過程だと思ってるの。俺はチャップリンにはなれないけれど、俺のなかにいつもあるのはチャップリンかバスター・キートンかで。キートンのほうが芸人として、コメディアンとしてカッコいいけど、チャップリンはコメディアンとしての枠を超えた人ってう意味でいうと、そっちにもあこがれるんですよ。植木等もカッコいいけど、森繁(久彌)もカッコいいなと思うから。

──森繁はコメディアン枠じゃないですもんね。

太田 うん。だから俺は、枠を超えた活動をして、なおかつコメディアンならいいんでしょって思ってるけど、そこまで到達できてないっていうだけですよ。要は小説を書いても、それがコメディアンに見える小説なら成立するんじゃないかってどっかで思ってて、それをやれてないっていうところでしょうね。

──そのハードルは高すぎますからね。

太田 たとえば談志師匠が、ホントはあの人は『芝浜』なんて好きな話じゃないはずなのにあれをやるでしょ。ホントは『粗忽長屋』とかああいうものが立川談志だって思ってるけど、人情噺もほかの落語家より俺のほうがうまいぞっていう、そこが隠せないんでしょうね。俺はそこまで才能があるって言いたいわけじゃないけど、やっぱり……そりゃ村上春樹の小説よりはもうちょっといいの書けるよってどっかで思ってるけど(笑)。それが自分に負けるんだろうね。コメディアンとしてはみっともないっちゃみっともないけど。

──やっぱり小説とか映画への欲っていうのが基本的にあるわけですよね。

太田 大元はチャップリンだから、最終的にはコメディ映画のいいのが撮れればいいんだけど、なかなかできてないってことですよね。さんまさんも意外と最初の出発点は人情派だったんだよね。『オールナイトニッポン』の2部をやってた頃なんかは。

──初期のラジオはそんな感じだったらしいですね。兄貴キャラで。

太田 兄貴キャラだったね、いまは封印してるけど。

──その時代のことをイジろうとすると表情が変わりますからね。

太田 変わる変わる! 俺も何度か突っつこうとしたことあるけど、ちょっと却下みたいな感じになるよ。

──ボクが『さんまのまんま』に出たとき(関西テレビでは2013年5月11日、フジテレビでは2013年5月18日放送)、当時の本を持参して朗読しようと思ったら、いきなり本を奪われてクッションの裏に隠されて、そのまま何もなかったように進行しました(笑)。

明石家さんまのすごさとは何なのか?

太田 ハハハハハ! 今度の『さんまのお笑い向上委員会』はおもしろいですよ、メッチャクチャだったから。この前、収録したんだけど2時間ちょい回して3本分ぐらい一気に撮って。全員汗だくで、俺とか今田(耕司)とか最初の10分で声が飛んで。ただ、これを視聴者がどこまでおもしろがれるのかわかんない。

──とりあえず闘いみたいなものにはなってるわけですね。

太田 完全な潰し合い(笑)。

──ボクは『27時間テレビ』の深夜とかで、さんまさんが後輩と潰し合いするのが大好きなんですよ(笑)。

太田 あれはたぶんおもしろい。玄人受けはするかもしれないね。一般は置き去りかもしれないけど。

──太田さんとも何度か一緒にテレビの仕事もさせていただいたから、オンエアされないような部分のおもしろさも体感してきました。

太田 ああ。俺、オンエア見ないからね、ショックが大きすぎちゃって。だからそこなんですよ。

──松本人志さんも同じこと言ってましたよ。どうせカットされるから見なくなったって。

太田 そうなんだ(笑)。さんまさんがすごいのはオンエアを見ることだよね。全部事実を受け止めてるんですよ、あの人は。俺が昔さんまさんに言われたのが、「オンエアを見るようになってから俺はよくなったんだ」って。やっぱり最初は見なかったんだけど、そこを超えたんでしょうね。見るようになって逆に楽しめるようなところまでいったんじゃないかな。

──さんまさん恐るべしだと思ったのが、最初に共演したとき(『さんま&岡村のプレミアムトークショー 笑う!大宇宙スペシャル!!』、日本テレビ2011年9月20日放送)、事前に番組側からNGだって言われたことがいくつかあったんですよ。石原真理子の話はダメだとか3つぐらいあったのが、いざ始まったら全部自分から言うんですよ。こっちもうれしくてそこに被せるから、オンエアにも残るんですよね。

太田 ハハハハハ! だからそこまで剛腕なんだろうね。

──だって石原真理子さんなんて、番組とかで名前を出したら確実に抗議の電話をかけてくる人じゃないですか。

太田 そうだよね、ホントにヤバいもんね。

──ボクのとこにもかかってきたことありますから。

太田 え! 電話番号知ってんの?

──1回取材してるんで、ボクが番組で名前を出したら何度か電話がかかってきましたよ。そして、なぜか彼女からマスコミ対策の相談を受けたこともあります(笑)。

太田 ハハハハハ! 怖いよね(笑)。

ツッコんでくれと言ってるように見える人たちがいる

──そうなるってわかった上で踏み込めるすごさ。でも、太田さんもすごいと思いますよ。

太田 えっ? なんで?

──さんまさんと太田さん一緒の特番(『さんま岡村の日本人なら選びたくなる二択ベスト50!SP!』、日本テレビ2012年5月29日放送)に出たとき、すごい人数がいたからボクが全然入れなかったんですけど。

太田 ああ、いたね。

──唯一のチャンスで、さんまさんから「吉田さんは結婚してないの?」って聞かれたとき、ここで踏み込むしかないと思って、「じつは太田光代社長からプロポーズされたことはあるんです」って言ったら太田さんが立ち上がって「聞いてねえよ、それ!」って反応したじゃないですか。あのときボクの斜め前に小島慶子さんが座って、「あー、あたしそれラジオで聴いた!」とか言ったら、太田さんが「黙れ、ノイローゼ!」って言ったんですよ。

太田 ハハハハハハハハ!

──あれには衝撃を受けました(笑)。ラジオで小島さんのことをノイローゼとか更年期とか言ってイジッたのは何度か聴いてますけど、それをテレビでもやるんだと思って。当然カットされてましたけど(笑)。

太田 そっか、あったね(笑)。

──あのときは正直ボクも「え、小島さんここで入ってくるんだ」とは思ったんですけど、太田さんはなんであそこまで踏み込めるんですか?

太田 なんも考えてない。小島慶子に関してはなんでもOKだと思っちゃってるところがあって。

──まあ、付き合いも長いし。

太田 べつに付き合いも長いっていうだけで、たいして突っ込んだ話もしたことないけど、こいつはけなしていい女だと思ってるところがあるんだろうね。

──ダハハハハ! なんですか、そのジャンル分けは(笑)。

太田 なんなんだろうね? 相手が小島なら、みんな俺の味方してくれるんじゃないかなって、勝手な思い込みだけどね(笑)。

──なるほど(笑)。

太田 『ストライクTV』っていうのをやってたときに、小島と伊集院(光)が並んでて、そこのふたりの不仲をさんざん茶化したときにはホントにふたり気まずそうだったけどね。それは伊集院も裏で言ってたんだけど。

──ラジオで何度か言ってましたね。

太田 小島は伊集院のファンだってずっと言ってたけど、伊集院が小島の悪口を言ってること知らなかったみたいで。だから胡散くさいっちゃ胡散くさいよね、伊集院のファンなら自分のこと言われてることぐらい知ってんじゃないのって思ったけど。

──ちなみに、太田さんの中でそういうことを言っていい人、悪い人の基準ってなんなんですか?

太田 なんなんですかね?

──ここは何か言っても、みんな俺の味方をしてくれるだろうし大丈夫そうって感じるわけですか?

太田 だってあきらかに……。

──一時の蓮舫しかり。

太田 そうそうそう(笑)。そういうのは、ツッコんでくださいと言わんばかりのことをやってる人に見えちゃうんだよね。セクハラ村長(宮城県の村長がセクハラで記者会見を開いた際、「殿」「姫」と呼び合っていたとか、「それはお答えできません」と言った後、弁護士に「それは答えていいんですよ」とささやかれて、「あ、そうか(笑)」と言ったりとかで話題に)みたいなのとか。

──太田さんは好きですよね、セクハラ村長とかささやき女将(船場吉兆の食品疑惑騒動の記者会見で、「頭が真っ白になって」「知らんと言え」と息子の横でささやき続けた女社長)みたいな存在(笑)。

太田 ああいう人と同類なんだと思う。……べつに悪いことしてないのにひどいよね、そこにジャンル分けされちゃうっていう(笑)。

──同じ箱に入ってるわけですね(笑)。太田さんはそういう人を見つけると、いつまでもネタにし続けるじゃないですか。「アイ・ワズ・ゲイ」(98年に有森裕子と結婚したガブリエル・ウィルソン氏の記者会見上での発言。2人は2011年に離婚した)だのなんだの(笑)。

太田 そうなんだよね、ささやき女将はホントに好き。ただ、こないだの『日曜サンデー』でも言ったんだけど、ささやき女将とセクハラ村長は俺のなかでは同レベルにはしたくない。同じささやきでも完成度が違う!

実現しなかった爆笑問題VS浅草キッドの真相

──しかし、そういう無邪気な感覚はホントなくならないですよね。

太田 結局、漫才やってるからでしょうね。

──時事漫才を。

太田 うん。俺のなかで、世の中のできごとの思い出が全部漫才とリンクしてるから、職業病なのかわかんないけど、何年にこんな事件やスキャンダルがあったとかいったら「あ、こんなネタにしたな」ってすぐ思い出す。

──イジり方で覚えてるんですね。

太田 そうそう。でも、毎月『日本原論』みたいな時事漫才の原稿を書いてると、世の中で起きることってホントに変わらないんですよ。

──パターンが決まってるわけですね。

太田 政治家のスキャンダルと、変なヤツが出てきてへんてこりんなことをするっていうのと、あとはお金の問題とか、食品偽装的なのとか、だいたい20年前からずっと変わらないから、自然に俺のなかで分類されちゃってるのかもしれないね。

──これはこの箱、小島慶子はこの箱っていう。

太田 そうそう。

──その弊害もあるかもしれないですね、どんなニュースも笑ってもらえるもんだと思ってるっていう。

太田 そうね、こっちの思い込みだけどね。

──安倍首相いじりもそうですけど、その感覚がついちゃってる。

太田 そうなんだよね。そもそも『日本原論』の出発が阪神大震災とオウムの年だったし、俺らの始まりは昭和の終わり、崩御のちょっと手前なんですよ。だからデビューしたときは完全自粛ムードなところがあって、復活したときがオウムと阪神大震災で、ホントに漫才しにくい状況っていうのがあって。

──その状況をどうイジるのか、みたいな闘いから始まったわけですね。

太田 そう、そこからなんですよ、節目が全部。あの頃はまだネットがないから、地下のライブハウスだったらOKだったんだよね。全然笑って済まされてた。で、そういうムードが重ければ重いほどウケた。

──いまだに地下のライブハウスだとそういう空気はありますからね。

太田 うん。でも、そっち行って帰ってこなくなっちゃったヤツいっぱいいるからね。その体質はあるかもしれないね、根っこには。

実現しなかった浅草キッドとの舞台対決

──太田さんは地下で危険なことをやり続けるよりも、地上でギリギリのことをやりたいって前に言ってましたよね。そういう意味で、クローズドな世界で危険なことをやり続けている人と、テレビでギリギリのことをやるようになった人との対決として、浅草キッド対爆笑問題の闘いは観たかったんですよ。

太田 そうね、浅草キッドはそうだね。

──昔からガチな確執はあって、対戦に向けたいい流れもできていたところでポシャッちゃったわけですけど。

太田 ポシャッちゃったというか、あれは単なる玉袋(筋太郎)の暴走だからね。

──2013年2月に玉さんが「どっちの『たけし愛』が上かどうか、どっちが本当の漫才師か、舞台で勝負しろ!」って『東スポ』を使って対戦をアピールして、太田さんも「ひねりつぶしてやるよ! 赤子の手をひねるように。いつでも来い、この野郎!」「こっちは異種格闘技戦、さんざんやって来たんだよ、この野郎!」とか言ってたら、水道橋博士のストップが入ったんですよね。

太田 あれなんだったんだろ? 俺もよくわかんないんだけど。

──博士と東スポの担当者との間に信頼関係がなかったとか、いろいろあるみたいですけどね。

太田 博士も、ちょっとナーバスになってた時期というか、それこそ大阪の番組を辞めたり(2013年6月、テレビ大阪『たかじんNOマネー』の生放送中に降板を宣言してスタジオから立ち去った件)とか、ちょっと悩んでるのかなって思ったけど。

──光代社長が間に入ってまとめようとしたら「女は関係ない」のひと言で(笑)。

太田 ハハハハハ! 社長は社長でまた全然デリケートなものでも「ちょっとちょっとー」って入っていくから、それはそれでまたすごいんだけど(笑)。

──なんとか実現してほしいんですけどね。

太田 俺はべつに構わないけど、田中はプライド高いから、「浅草キッドとなんか」って思ってるからさ(笑)。

──ダハハハハ! 太田さんのコメントもよかったですよね、「お前らね、自分たちで意見を統一してから挑戦してこいよ」「俺だって受けて立つって言ってんだから、まず博士を説得しろ、お前は!」って。

太田 そうだよね。玉袋とはあのあと会って「ごめんなー」とか言ってたけど。「大丈夫なの?」って聞いたら、「いや、まあまあまあ」って。だから俺もふたりのあいだのことは詳しくはわかってない。

──それ以降、玉さんがラジオなりMXテレビなりで博士との不仲ネタを口にする機会が増えてますね。

太田 俺もあの頃周りから最近なんかうまくいってないみたいよっていうのは聞いたんだけど。でも、漫才はやってるんだよね?

──やってますね。

太田 まあ、漫才コンビはそういう時期もあるだろうしね。

<次回:太田光インタビューいよいよ最終話>

プロフィール


爆笑問題

太田光

太田光(おおたひかり):1965年、埼玉県出身。1988年に大学の同級生の田中裕二と爆笑問題を結成し、時事問題も取り込んだ漫才で人気を獲得。テレビ、ラジオなどで活躍する他、著書も多数。爆笑問題としての著書だけでなく、太田個人で『マボロシの鳥』などの小説も発表している。近著は爆笑問題と映画評論家・町山智浩との共著『自由にものが言える時代、言えない時代』。6月3日には毎年恒例の時事ネタ漫才ライブのDVD『2015年度版 漫才 爆笑問題のツーショット』をリリース。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

(取材・文/吉田豪)

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