想像の余地を残すドット絵表現の可能性 たかくらかずき×m7kenji対談
「ドット絵」……主にコンピューター上における画像の表現方法・作成方法のひとつ。限られた制限の中で1ピクセルずつドットを配置して構成される。
グラフィックシーンでは3Dが全盛となっている昨今、ある意味で懐古的な表現である「ドット絵」を使って自主作品や商業作品を制作する気鋭のクリエイター2人がいる。
フライヤーから舞台美術まで、演劇集団・範宙遊泳のアートディレクションをつとめ、美術集団・カオス*ラウンジがおこなった「キャラクラッシュ!」展ではゲーム作品「たいないめぐり」を発表。ドット絵を自らの表現のツールとして利用してきたイラストレーター/アートディレクターのたかくらかずきさん。
もう一人は、チップチューンアーティスト・TORIENAさんの楽曲「PULSE FIGHTER」のMVや、お手軽にドット絵が打てる「PixelTweet」などのスマホ向けアプリを手がけるVJ/デザイナー/プログラマーのm7kenji(ケンジ)さんだ。
共に映像作家・大月壮さんの元でドットを使った映像作品に文字通り打ち込んだ経緯を持つ個性的なドッターの2人に聞いた、「なぜ今ドットを打つのか?」──ドット愛に溢れる特別対談を掲載!
(取材・構成/コダック川口)
画材の最小単位は「粒子」 デジタルに置き換えると「ドット」
──ドット絵で作品をつくるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
たかくら 最終的には、ゲームが好きだったから、だと思うんですけど(笑)。僕は大学で映画専攻だったんだけど、一人でできることがしたくて絵を描きはじめたんです。その時は、『マリオペイント』の感覚を引きずってました。
子供の頃から、コナミの「Picno」っていうペンタブとパッドが付いてるお絵描き専用ハードを買ってもらってテレビで絵を描いてたから、昔から「なんで紙だとワンクリックで全面が塗れないんだろう?」っていう感覚がずっとある(笑)。
僕が人生で初めてやらせてもらった個展が原宿ラフォーレのギャラリー「H.P.FRANCE Wall」で、ビギナーズラック的に外国人観光客にウケたんです。その頃は日本画とデジタルを組み合わせたものをやっていて。それで調子に乗って、「これから絵でやっていこう」と(笑)。
絵をちゃんと勉強して、「美術」とか言ってれば食っていけるんだ〜みたいな甘い考えで、そのまま大学院に進んで。日本画を専攻して学び始めた頃に、日本画の先生と話していたら、日本画の画材(岩絵の具)って砂でできているんですけど、最小単位は「粒子」で、それをデジタルに置き換えると「ドット」だという話になって、そこからドットにのめり込んでいきました。
m7kenji 僕は中学生の頃からクリエイティブ系に携わった仕事をしたいと思っていたんですが、デザイン科に落ちて、イラストにも挫折したんです。ちょうどその頃に、携帯電話を持ちはじめて、かっこいい待ち受け画像を自分でつくりたいと思ったんです。
それで写真からグラフィックを制作して、それと同時に携帯の待受サイトをはじめ、サイトの見出しなどのパーツに使うドット絵のGIFアニメをつくりはじめたのがきっかけだと思います。
当時、携帯電話の解像度は120x160px位の小さいサイズだったので、表現としてドット絵を選択したのは自然な流れだったと思います。
「最初の1ドット」
──作品制作の手法として意識的にドットを使おうと思って打った「最初の1ドット」を覚えていますか?
m7kenji 僕は携帯の送信メール用のGIFアニメが一番最初につくったものかなと思います。
その後、待ち受けサイトを通じて企業から「男性向けのデコメを展開したいからドットをつくりませんか?」という話が来て、本格的にドット絵をはじめていきました。
デコメールというと普通は主に人物のイラストが主役になりますよね。ただ、僕はイラストがあまり上手じゃなくて……僕が出せるとしたら「動き」だなと思い、7キロバイトという制限の中で、棒人間のような細かいドット絵をできるだけ動かしました。
たかくら m7kenjiくんは動きがすごい上手いんです。映像作家の大月壮さんとの仕事でも、背景は僕が書いて、キャラはm7kenjiくんが描くみたいなことが多い。
全員で、それこそ『魔界村』をクリアした感じ
──大月壮さんと言えば、お2人の出会いが大月さんディレクションのSPACE SHOWER TV「ときめき SHOWERメモリーズ」ですが、それぞれの大月さんとの出会いは?
たかくら 僕はコンピューターで言う「バグ」を取り入れるような表現が好きで、絵画制作であえて粗いドットやバグを入れたりしてたんです。
それで、大月さんがTwitterでドットを打てる人材を募集しているのを見て、大月さんの仕事を見たら、「うわ!この人めちゃくちゃバグってる!」ってなって、たいして打てないのに「ドット打てます、仕事ください」って会いにいきました。
m7kenji 僕はDOTAMAさん×USKさんの「通勤ソングに栄光を」という曲のMVを制作したのがきっかけで、大月さんにTwitter上でフォローして頂いて。そこから声がかかり、ローソンの「からあげクン音頭2012」のドットシーンをつくりました。
たかくら 今ではこのクルーでつくる安心感はハンパないです。一番思い出深いのは上坂すみれさんの「パララックス・ビュー」のMVをつくってるときで、ソファーで寝てた大月さんが急に起きて「たかくらくん! 銀行強盗のシーンできた?」って聞かれたんだけど、そもそもそんなシーン存在しないっていう(笑)。みんな三日三晩働いててボロボロでした。
m7kenji 普段2人で使っている大月さんの事務所スペースに、大月さんとたかくらくんが入って、間に僕がMacBookとiPadを置いて台所用のイスに座って、という環境で。エピソードとして浮かぶのはそういうストイックな状況だよね。
たかくら 秘密基地感があった。
m7kenji 大きなプロジェクトだと、一番つらいのは「終わりが見えないこと」だったりするんだけど、大月さんの現場は「ゴールに向かってみんなで突っ走る!」って感じ(笑)。
たかくら すごい鍛えられました。ボスキャラ考えさせてもらったのがとても嬉しかった。大月さんはお祭り感を出すのがうまい人だから、あの時も全員で全力で頑張って、それこそ『魔界村』をクリアした感じでした。
「携帯ゲーム機」と「据え置き機」
──それぞれの表現としては、同じ「ドット絵」と言っても、全く違った表現に落とし込まれていますが、お互いの作品をどう思っていますか?
たかくら m7kenjiくんのドット絵はすごく整っていて、キレイに簡略化されている。僕のイメージだと「携帯ゲーム機」なんですよ。僕はゲームでも「据え置き機」が好きだし、作品も基本的には大きい絵を描き込むタイプです。
m7kenji 僕の場合は「このキャラは首回りがこういう風だから、ここに肌色の1ドットを入れて」っていう細かい作業が多いです。
たかくら そういう簡略化の技術は、だいたいm7kenjiくんに教わりました。徹夜明けで2人で帰ってる時、1ピクセル以下のエスカレーターの黄色い線を、どうやって1ピクセルで表現するんだとか。現実世界のものをピクセルにしたらどうなるのかという話はよくしてた。
m7kenji 半分、自虐で話してました(笑)。
──例えば、この部屋もピクセルに置き換えたりできますか?
m7kenji (テーブルの木目を指して)こことか使い回しできるんじゃないですか。ドットはパターンの使い回しも重要なので。
たかくら ドット的見方っていうか、もうそういうときは目がドットになっちゃってるんですよ!
m7kenji DOTAMAさんのMVつくってた時も、毎日仕事が終わって3時間ぐらい近くの店で作業してて、窓の外を走ってる高速道路の外壁を見てるとそれがパターンに見えて、ドット絵だと、こういう風に表現できるなというか。
たかくら わかる(笑)。
m7kenji 元になるものを見てドットにしていくっていう工程が、PCだけじゃなくて日常生活でも続いてる感覚です。例えば駅のホームに帽子かぶってる人がいたら、ピクセル数に制約があるので、とりあえず帽子をうしろに逃がす……とかいう風に。
──動画になるとより大変そうですがMV制作は、どれくらいかかったんですか?
m7kenji 「通勤ソングに栄光を」は、3ヶ月ぐらいで、TORIENAさんの「PULSE FIGHTER」の方は、なんだかんだ7ヶ月ぐらいかかりました……自分で設定したハードルを飛び越えるのが大変でした。
「背景」と「主人公の動き」
m7kenji 僕はイラストレーターとしてのたかくらくんの才能に嫉妬してます(笑)。まずイメージがあって、それを表現する手段としてドット絵を使ってる感じが、ものすごく自由なんですよ。木の形1つ出すにしてもボキャブラリーがすごくて。「ときシャワ」の時の、独特の色彩感とかサイバーな感じを見たとき、これは僕には出せないって思った。
僕のドット絵は「記号化」だと思うんです。ピクトグラムみたいなイメージで、見た人に解釈とか、想像してもらう感じ。
たかくら 「ときシャワ」は、大月さんからも昔のパソコン・PC-8800シリーズをベースにしようって言われて、漫画のトーンのように色を交互に配置する「網点」も使ってたんだけど、PC-8800シリーズを忠実再現すると高解像度なかわりに色数が8色しかないから、結果的には好きな色でやらせてもらいました。
m7kenji たかくらくんは大月さんから「イルカの大砲」というリクエストをもらってもポンとイラストが出てくるんですよ。
たかくら よく考えたら、ファレル・ウィリアムスの「IT GIRL」のMVの時は、m7kenjiくんが「イルカのマシン」つくったし、イルカめっちゃつくってるよね。
──m7kenjiさんが、引き算としてのドットによる記号化表現をしているとしたら、たかくらさんは、自分の絵を表現するためのツールの一つとしてドットを利用していると。好対照になっていますよね。
たかくら タイムラインがあるものはm7kenjiくんの動きが強い。僕がm7kenjiくんみたいに描こうと思っても描けない。
m7kenji 僕もたかくらくんみたいに描けない。
「想像の余地」を残したい 「ピーチ姫が美人かどうか」
──グラフィックや映像の技術が進化し続け、さまざまな選択肢がある中で、あえてドット絵をご自分の持ち味として選ばれているのはなぜですか?
m7kenji 僕は映像もやってますが、ドットと映像の集大成としては、アプリやゲームだと思ってます。例えば、小説を読んで、風景が浮かぶことがあるじゃないですか? あまり説明的じゃないドット絵の中で受け手にいろいろ考えてほしい。そんな「想像の余地」を残したいです。説明しすぎると、ひとりよがりになるから。
僕のアプリ作品だと「ロクジョーヒトマ」だったり「BUGTRONICA」の主人公は、あまり現実の世界だったらこう見えるとか、外観的な個性がないんですよ。だから、ユーザーが自分自身に置き換えられる。
※それぞれのアプリの紹介ページはこちらから「ロクジョーヒトマ」、「BUGTRONICA」
たかくら 想像の余地って、「ピーチ姫が美人かどうか」という話に象徴的だと思うんです。ファミコンの時は、粗いドットだから想像の余地の幅が広い分、期待感も高いわけです。でも、WiiUとか高解像度になってピーチ姫の顔がわかるようになってきたら、あんま俺の好みの顔じゃなかったなみたいな(笑)。
ゲームもどんどん解像度が高くなっていって描写力が映画的になってきていますよね。それはそれで好きなんですけど、ドットは半記号的につくることで小説や漫画のような想像の余地を生み、デジタルなのに工芸的な手作業感というか、アナログ感とか、味みたいなものがあると思っています。
映画の『ブレードランナー』とかもフィルムやビデオのノイズが良いアナログ感とか、味だったのがBlu-rayで観たらかつてのスモーキーさがなくなって、かっこ悪いみたいな。
ドット絵は懐古的な表現か?
──ドット絵は、ある意味で懐古的な表現ですが、それは近年続くデザインやファッション、音楽などのカルチャーシーンで起こっている80〜90年代リバイバルと関係があるとお考えでしょうか?
たかくら 単純にゲームや90年代カルチャーに育てられた人たちがクリエイターとして活躍し出したんじゃないかな。ドットについて言えば、僕はm7kenjiくんと逆で、それまでは自分の表現したい世界を高解像度で出してたけど、周りが引いちゃうんですよね。全部説明しちゃってたから。
で、試しにドット絵をやってみたら、わりと受け入れられた。解像度が低いことで、自分の持つ毒みたいなところをぼかしてくれるから「想像の余地」を無理やり入れられるのがいいなって。表現としての「ドット絵」というフックもあるし。
──m7kenjiさんは、例えばTORIENAさんのチップチューンだったり、8bit的な昔ながらのドットと共存してるように見えます。Twitterでも「#ドット絵を流してドット絵民を増やそう」というハッシュタグがあったりしますが、つくり手としてはどう感じますか?
たかくら TORIENAさんとかは8bit世代じゃないよね?
m7kenji うん、世代じゃない。
たかくら だから、若い人にとってはそれが逆に新しいみたいな? gigandectさんとかも若いもん。
m7kenji 実際ゲームボーイとか触ってない子でも、そのデザインが好きだったりとか。
たかくら デジタルの最小単位に惹かれるみたいなところがあるのかな。突き詰めて言えばすべての画像がドット絵じゃないですか? 今は、特にブームになってるかもしれないけど、ドットという表現自体なくなることもないだろうし。
m7kenji リアル世代は、ドット絵をファッション的に、クールなものだとそこまで思ってないんじゃないかな。あくまでゲームを通しての経験が先にあって、それをリバイバルをする感覚があるような気がします。
若い世代にとっては、世の中が現実的なものに溢れてる時代じゃないですか? イラストも絵も昔と比べてすごい上手い人が増えたし、ゲームも3Dだったりするし。
四角いマスの集まりで絵をつくるドット絵独特のデフォルメが若い人たちにとっては新鮮なのかな。
たかくら そうかも。だから、まだ余地があるじゃんって話になる。ゲームに付随する懐古主義的なドット絵じゃなくて、「マスを埋める」という表現方法として。
自分でつくるってやっぱり楽しい
──ある種、懐古的表現であるドット絵を今、制作される上で意識されている点はありますか? また、現代ならではのドット絵として、どのような創意工夫をされていますか?
たかくら 僕はパーツとしてドット絵を使うみたいなことを引き続きやっていきたい。デジタル画像を細かくしていったら、ドット絵になるから、拡大率のコントロールとしてドットを使っていくというか。絵としては、まだまだやれることはあるんじゃないかな。
──雑誌『SWITCH』のゲーム特集でも3DCGでイラストを制作されていましたね。
たかくら 3DモデリングはA4Aのかとうみさとさんにお願いしたり、自分では3DCGドットのソフトを使っていました。あと、プレステっぽさを出すために、3Dマテリアルでつくってもらったものを解像度を粗くしてドットに戻して平面的に打ちなおすとかもしてます。
──ドットの種類ってどれぐらいあるんですか?
たかくら 技法はわからないけど、曲線の描き方とかはパターンがあるみたい。僕はm7kenjiくんからパクって学んだ(笑)。
m7kenji 僕は我流で、自分で打って「うまくできたなー」っていう。
たかくら いまさらだけど最近『ドットの打ち方』という本を買いました!
──役に立ちましたか?
たかくら なんとなくだったことが「やっぱり、そうだったんだ」って。でも最終的には「自由でいいんだよ!」って書いてある(笑)。
──昔のドットと、いまm7kenjiさんがされてるドット絵表現に違いはありますか?
m7kenji 違いはあると思います。昔のドット絵は実際に見るにしても例えばゲームボーイだと緑色の液晶だったり据え置きのゲーム機だとブラウン管ですし、そういった環境だと目に入るドット絵は今iPhoneや液晶モニターで見た様にくっきりしていません。
先人の方たちは、最終的に受け手側が絵を見る環境を考慮して全体の画面のバランスや色の置き方に注意を払い、さらにはマシンスペックも考慮して制約された中で大きいグラフィックを動かしたりと、その制限の中で取捨選択された表現が独特の味を出していると思うのです。
僕も個人的に色数や解像度などをある程度、制限をかけて制作していますが、その点においてはまだまだだと思っています。もちろん忠実に制限を再現するだけが全てではないので、自分にとって先人の方たちが描いたドット絵のどういった部分を好きになったか、その点は今後も自分の中で探求していきたいと思います。
たかくら アプリで出すとかが、昔とは違うんじゃない? Twitterと絡めたものもなかったし。
m7kenji ドット絵エディタアプリの「PixelTweet」は、要素を最小限にしてます。プロ向けじゃなくて、はじめてドット絵を打つビギナーに向けて色を4色に絞ったり。
今のスマホアプリってほぼ「消費」じゃないですか? 昔と違ってゲームのスコアに関係なくプレイするだけでやたら褒めるし、今のアプリは中毒性が高いものが多いんです。僕はそういうのじゃなくて、アプリを使って自分でつくってほしいんですよ。「生産」して欲しいんです。自分でつくるってやっぱり楽しいから。
今まではドット絵を打ってみようとしても初心者にはハードルが高いアプリしかなかったんです。色数が多すぎたり複雑なレイヤーがあったり。だからそこを出来る限り削りました。
たかくら UIごとドット絵みたいに簡略化したんだね。
m7kenji だから、グラフィックという点で、特に真新しさはないんです。むしろ先人たちに学んでいる感じが強い。
意識しているのは、向こう側に相手がいる「ぬくもり」を感じるような、触っててさみしくない感触。
ツールアプリって普通は開いたらパネルやアイコンが並ぶだけじゃないですか? 「PixelTweet」には「ドッチャン」というキャラクターを入れて、例えば絵を全部消す時に水がジャーっと流れた演出を入れたりして、それに反応してキャラも少し動くみたいな。そういう生命感に気を使いました。
m7kenji母「中古屋に売ったよ!」
──思い入れの強いゲームや映像作品、または影響を受けた作品はありますか?
たかくら ゲームだと「ロックマン」ですかね。あと映画とかだとテリー・ギリアム映画の世界観にすごく影響をうけてます。
「ロックマン」はモノとかマテリアルが全部キャラになってて、日本っぽい八百万感がハンパなくて好きです。そもそも僕が作品制作を始めた根本が「モノに命を吹き込む」みたいなことだったから。
m7kenji ゲームボーイだけはずっとリアルタイムで触ってて、『ゼルダの伝説』とか初代の『聖剣伝説』が好きでした。あと、「たまごっち」とか「デジモン」も好きでしたね。
たかくら あ、「ポケモン」!
m7kenji 「ポケモン」も、いっぱいやった。
たかくら 携帯機は目が悪くなるっていう理由で、むしろ買ってもらえなかったけどね。
m7kenji うちは小学生の時、ファミコン本体はあったんだけどソフトがなくて。それで箱に入ったまま埃かぶってて、「お母さんいつファミコンできるようになるの?」って言ってたんだけど、ある日突然なくなってて「どこやったの?」って聞いたら「中古屋に売ったよ!」って。
たかくら なんで(怒)!
m7kenji だから、結局買ってきたソフトの『ジョイメカファイト』ができなかったんですよ(笑)。そのあと、プレステ全盛期の頃に弟がスーファミひろってきて、そのとき「FF6」をやって、ドット絵で小さいキャラが驚いたり笑ったりして感情を表現しているのに感動しました。
あとは、先ほども話した先人に学ぶという意味では、ゲームボーイの『PocketCamera』の使い心地を参考にしてます。
たかくら 「PixelTweet」を触ってて、まさに『PocketCamera』を思い出した。遊びの多さ、ユーモアがある。
m7kenji スマホが登場して、ゲームの技術表現力がめっちゃ上がったのに、スペック的にも劣ってて、4色しか出せないゲームボーイの方が触ってて楽しい。
たかくら 玩具として、クオリティが高いよね。
m7kenji そういう使い心地みたいなものは学んでいきたいと思います。
そもそも、ドットシーンなんてあるの(笑)?
──最近、ドットシーンで気になる動きはありますか? 例えば今年9月に映画『ピクセル』が公開されますよね。
たかくら 『ピクセル』すごく楽しみですね〜! 『ピクセル』もそうだし、『LEGO ムービー』もそうだったけど、ドットを立体化するみたいな流れきてる気がしますね。マインクラフト的な表現というか。
ドット彫刻なんていうのをやっている人もいますよね。
m7kenji 僕らは、全然ね。
たかくら 外側だからね、僕ら。
──お2人はドットシーンの主流にはいないんですか?
たかくら そもそも、ドットシーンなんてあるの(笑)?
m7kenji ゲームとしてのドット絵を極めていく人と、単純にドット絵の見た目が好きで、作品に取り入れてやってる人がいると思うんです。
ドット絵って、色数や解像度や描き込みの細かさなど、絵としての面白さ以外に技術的に優れているかが評価の基準になったりしますが、単純に、いち表現方法としてみんな好きに楽しめばいいんじゃないかって思います。
たかくら ツールでしかない部分もあるよね。
m7kenji 僕が尊敬するアーティストの1つに「Delaware」というグループの方々がいまして、「ビットマップでやると決めてしまった瞬間に技術の修練に時間の費やしようがあまりない、未来へのステップを踏むのに最適だ」といった内容の詩がありまして。
たかくら 敷居が低いんだろうね。
m7kenji 敷居は低いけど、奥は深い。
たかくら 僕は、ドット絵は日本的なやり方だと思っています。奥行きがない日本画的な表現にすごく合ってるから。最古のドッターは、江戸時代まで遡って日本画家の伊藤若冲なんじゃないかって思ってるんですよ。ドット絵は、パースがわかんなくても描ける。
──日本画的な考え方が影響してるんですかね。
たかくら 西洋のドットは斜めにしなきゃいけなかったり、ゲームの『DOOM』とか頑張ってドットでパースをつけたりしてるけど、めっちゃ粗くなってるじゃないですか? それも変態っぽくてかっこいいんですが、奥行きの概念をショートカットした方が、ドット絵はかっこよくなるのかな。
ドットの未来!
──最後に、それぞれ今後やってみたいことはありますか?
たかくら 僕は着物をつくっている高木薫さんと、ドット着物をつくっているところです。ドット絵的な表現技法って、実は着物や織物に昔から使われていて、昔の着物を見ると完全にドット絵で描かれたお城の柄とかがあるんです。『謎の村雨城』かよ、みたいな(笑)。
ドット絵って実はデジタル特有の新しいものではなくて、デジタルになってもなお残された、過去の工芸や文化の破片みたいなものだと思ってるんです。だから現代のものと過去のものをもう一度繋げたい。ドット絵の漫画や、絵文字で宗教画を描いたりもしたいですね。
m7kenji 僕は「PixelTweet」を出す前に開発を休止してしまったゲームがあるのでそれを完成させたいです。星をキャッチするだけの簡単なゲームなのですが、一応ストーリーがありまして、西新宿の中央公園みたいな所に妖精の親子が住んでいて、主人公の子供があまり元気がないお母さんのために毎晩、星を集めるという。
たかくら 泣ける話……。
m7kenji お父さんも出てくるけど、主人公はお父さんが大嫌いなんです。
たかくら けっこうドープな話だった(笑)。
m7kenji あとは「PixelTweet」のアップデートもやりたいですね。
話の方向がだいぶ逸れてしまいますが、僕の創作の根底にあるのは、人の精神的な成長なんじゃないかなと思っていて。なぜ人間は苦しい気持ちになったり、悲しんだりするのかということをちゃんと考えたい。それに対する答えや考えを形にしたいです。同じ様に苦しんでいる人がいたら自分自身を救うために行動するきっかけを与えることが出来ればと思います。
たかくら それはあるよね。人を楽しませたいとか。
m7kenji ただ、そればっかりやってると自分が病みそうなので、その他のことも平行して色々出来ればなと思います。アプリ開発だけになると制作期間中は地下に潜っているようなものなんです。
だから、それと平行して去年はオリジナルマフラーも出しましたし、TORIENAさんと「PULSE FIGHTER」を通じてDVDやグッズを制作して展示もすることが出来て良かったです。
たかくら あと、現代のドット絵系のアーティストを集めた展示をやりたい! マスを埋めるだけの表現が、こんなに多様性を生んでいる現状っていうのはすごいことだと思うんです。
m7kenji やりたいよね。
たかくら おもしろい人を集めてやりたいですね。