ドローン少年を暴走させた“生主”逮捕の舞台ウラ

デイリーニュースオンライン

ドローン少年が利用していたとされる「アフリカTV」
ドローン少年が利用していたとされる「アフリカTV」

 5月、小型無人飛行機「ドローン」を三社祭で飛ばすと示唆したとして横浜市の15歳の無職少年が逮捕された。少年は「ニコニコ生放送」など複数の生放送サイトで動画を配信する有名人であり、注目を集めるために騒動を起こしたとみられている。

 当初は未成年ということもあって「保護」という扱いだったが、少年はこれ以前にも善光寺の御開帳でドローンを落としたり、警察官との口論を生配信したりするなどのトラブルを起こしていた。さらには任意同行された後も挑発的な配信を繰り返し、それが災いしたのか逮捕という結果になってしまった。そこまで彼を駆り立てたものは何だったのだろうか。

生配信サイトを利用し半年間で60万円稼いだ少年

 この事件の背後には、少年を支援していた「囲い」の存在がある。「囲い」とは、ファンが配信者を囲い込んで思い通りにしようとすることを揶揄したネットスラングだが、単純に熱狂的ファンを指す言葉にもなっている。

 少年が利用していた生配信サイトの一つ「アフリカTV」には、気に入った配信者に「投げ銭」をするシステムがある。「投げ銭」はクレジットカードでポイントを買って配信者に送り、配信者はそれを貯めればAmazonギフト券などに交換できる。ギフト券で欲しいものを買ってもいいし、換金すれば現金収入になる。また、配信者と囲いが仲良くなれば銀行口座に直接振り込むこともある。

 2014年10月以降、少年の口座には十数人から約60万円の現金が振り込まれ、約15万円分のギフト券も手にしていた。少年は無職で小遣いも貰っていたなかったというが、犯行に使われたドローンは約15万円相当。自宅からはパソコン2台やタブレット端末3台、スマートフォン5台も押収されているが、その購入資金は「囲い」からの支援だったようだ。

 なぜそんな支援をするかといえば、少年の配信活動をサポートするためだ。「囲い」たちは少年の過激な放送に引きつけられ、さらなる暴走を期待して支援していたとみられても仕方ないだろう。

 一方の少年は収入目的だった部分もあるだろうが、それで逮捕のリスクまで犯すのは異常だ。

 その行動心理を読み解くカギとして、少年が生配信の最中に言い放った言葉がある。少年は母親や妹と口論する様子を生配信していたことがあったが、その時に「俺はこれ(生配信)しかイキがれないんだよ!」と口にしていた。

 少年は2012年に進学校として有名な中学に入学したが、周囲になじめずに孤立。その後は横浜市内の中学に転校するも、卒業までほとんど不登校で動画配信ばかりしていた。家庭環境は運転代行業の父親が家を出ており、保護者である母親との折り合いも悪い。学校にも家にも“居場所”がない彼にとって、ネット配信だけが生き生きできる場所だったのだろう。

 配信で過激なことをやれば支援者にチヤホヤされ、ネットの中で注目を浴びる有名人になれる。リアルでは冴えない自分でも「イキがる」ことができる。それは彼にとって大きな救いだったはずだ。つまりは動画配信による収入は二の次で「唯一の承認欲求を満たす手段だった」という点が彼を暴走させたといえる。であれば、彼は代わりの「何か」を見つけるまで同じことを繰り返すだろう。

若者の承認欲求を利用する「悪い大人」たち

 これと似たようなケースがある。3月に30代の男性が「TwitCasting(通称ツイキャス)」を使い、無免許で自動車を運転する様子を配信したとして逮捕されたのだ。男性は「インターネットタレント」を自称し、ドローン少年と同じように一部ネット上の有名人だった。逮捕後、男性は「注目を集めたかった」などと供述し、反省しているかのような態度を見せていた。

 ところが、その翌月に男性は無人の交番内でダンスしている様子を生配信し、建造物侵入の疑いで再び逮捕されてしまった。すでに現在はイベント出演などに復帰しているが、自身のTwitterに「どぉも!犯罪者でえぇ~す?」などと悪びれずに書き込んでいる。彼は有名になりたいという欲望とともに過激な行動を求める「囲い」に乗せられている部分があり、これも承認欲求が深く絡んだ事例といえるだろう。

 これらの騒動は男性ユーザーによるものだが、女性ユーザーも同様だ。女性の場合は生配信サービスが始まった当初から、視聴者の興味をひくために配信中にヌードになってしまう「脱ぎ配信」などが問題視されていた。リストカットや半裸で暴れまわる動画を配信したケースもある。これも金銭が目的という場合は少なく、大半が視聴者からの称賛を浴びたいがための行動だ。

 たとえネットの片隅でも「必要とされる」「輝ける」ということは彼らにとっての救いだ。それを維持するため、ある者は警察沙汰を起こし、ある者はケンカを見世物にし、ある者は衣服を脱ぎ捨てる。

 彼らを愚かだと笑うのは簡単だが、その状況に追い立てているのはパソコン画面の向こう側にいる「囲い」の人々だ。チヤホヤして承認欲求をいたずらに刺激し、時には金銭まで援助してバカをさせる。相手の人生や家庭環境が崩壊しようと知ったことではない。一つのエンターテインメント……というよりも暇つぶしとして面白がり、他人の生活を消費しているようなものだ。芸能人のゴシップと似たようなものだが、配信者たちはそれに見合った報酬や評価を得ているわけでもない。

 これはネットや生配信サイトの悪玉論につながってしまいがちだが、その裏側にあるのはもっと人間の根源的なもの。必要なのはネット規制や若者批判ではなく、彼らに向き合う教育や環境づくりだろう。大手メディアや識者がそこから目をそらし続けている限り、問題の本質にはたどり着けないのではないだろうか。

(文/佐藤勇馬)

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