“ウナギ味のナマズ”養殖に成功…近畿大学が日本の食卓を救う!?

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近畿大学水産経済学研究室の有路昌彦准教授
近畿大学水産経済学研究室の有路昌彦准教授

「世界の生産量の約8割を日本人が食べる」と言われるウナギ。しかし近年は日本のみならず世界中でウナギの漁獲量が減少し、ニホンウナギはついに絶滅危惧種指定を受けてしまった。日本人がウナギという種を食い尽くしてしまったようだ。

 そもそもウナギはほぼ養殖され食卓へのぼる。しかしウナギの稚魚の「シラスウナギ」自体の人工ふ化、養殖技術は確立されていないため、天然のシラスウナギを養殖するという方法が取られている。

 そして近年シラスウナギの減少は絶滅の危機の現実味を帯びておりウナギの流通量が減少、値段が高騰している。日本人にはなじみの深い味のあのウナギが、消えつつあるのだ。

 そんな「ウナギ危機」の中、クロマグロの完全養殖で有名な近畿大学の水産経済学研究室が「ウナギの味がするナマズ」の養殖に成功した。

 産地食として食べる地方もあるものの、一般的な食材とは呼べないであろうナマズを「ウナギ味のナマズ」として養殖したのは、同研究室・有路昌彦准教授。「なぜナマズをウナギの代用にしようと考えたのか?」との質問には「そもそも発想が逆」との答えが返ってきた。

「ワシントン条約により、輸入していたヨーロッパウナギに規制が入ったのが2009年。この頃から国内の養鰻業者さん達からは『やがて養鰻業ダメになる、その代わりになる魚を探して欲しい』という声が挙がっていました。そしてウナギと同じ味がする魚で、かつ新たに養殖設備を整え直す必要のない魚を探すことがポイントだったのです。今ある設備で養殖できる魚でなければ養鰻御者に新たな負担を強いることになり、養鰻業界の立て直しには意味がなく本末転倒でした」(有路准教授)

 シラスウナギの完全養殖を目指す研究も行われているが、その研究が完成するのは、少なくとも10年後か、それ以上とも言われている。それまでに養鰻業界が経済的に壊滅したのでは意味がなく、ウナギの供給量の減少と養鰻業界の事情、両方をクリアする研究が急ぎ必要とされていた。

 当初は様々な魚種(どじょう、ぎぎなど)をひたすらかば焼きにしてテストしたが、養鰻業者の養殖設備をそのまま使える淡水魚であり、かつ、かば焼きにした際の味わい、火が立ち上るような脂の乗りも考慮しなければならなかった。それらの限定された条件から見つけたのが、淡水魚であり白身魚でもあるマナマズだった。

 有路准教授が最初に「コレだ!」と思ったのは、琵琶湖北部で獲れたイワトコナマズ。しかしこれは一匹に5万円の値が付くこともある高級魚である。ウナギより高いのであれば、これまた問題外になる。しかしイワトコナマズの味はウナギより美味しかったことから、他種のナマズに狙いを絞った。選んだマナマズは、すでに完全養殖の技術が確立されていたことも有利な条件だったという。

 魚種の選定に続いては、日本各地からマナマズを取り寄せての試食をしたという。しかし一般的なナマズのイメージと同じく、どれも味が淡泊だったり泥臭さがあったりと、琵琶湖で獲れたあのイワトコナマズのような味とは程遠かった。そこで再度琵琶湖の漁師に依頼し、あえてイワトコナマズではなくマナマズを獲ってもらった。

「琵琶湖のマナマズと、奈良の佐保川で獲れたマナマズを比較実験(試食)したら、やはり格段に琵琶湖のマナマズの方が美味しい。そこでわかったのが生育環境の重要さで、水と餌に研究の焦点を絞りました。環境をコントロールして養殖することで、ウナギに近い味にできるのでは、と考えたんです」(同)

苦労して開発したベストミックスの餌

 養殖の研究には膨大な蓄積がある近畿大学だけに、人口餌(ペレット)の種類や効果の基礎研究は済んでいる。ペレットは300種類以上が存在し、当初は養殖ウナギと同じ配合のものを与えてみたが、同じ味にはならなかった。そこからはひたすらペレットのスペック表やカタログ、現物を見ながら配合を変え、実験を繰り返し餌の開発に専念したという。

「一番苦労したのが餌のベスト・ミックスを見つけることでした。うまくしないと死んでしまうし成長もしない。脂が乗るような配合にしたら、確かに脂は乗ったが、肉に弾力がなくなった。あくまでもウナギの代用とするので、口に入れた際の触感などもある程度似せなければなりません。タンパク質の多いもの、コラーゲンを含むものなど、数あるペレットの組み合わせに当りを付けていく作業には苦労しました。それと、出来上がったサンプル(ナマズ)をひたすらかば焼きにして延々と試食し続けるのも大変でした」(同)

 そうして研究開始から約6年、今年3月に完成したのが「ウナギ味のナマズ」。商業ベースに乗るのは、いつごろになるのだろうか?

上がウナギ、下がナマズの長焼き。見た目も味も遜色なし

「すでに引き合いはもの凄く多いです。というのも、我々は味に関してはいわば素人ですので、実験の試食段階でプロのバイヤーや養鰻業者に食べてもらっていたんです。そのプロの方々が「普通に売れる」と言ってくれていますし、一般消費者へのテスト販売のアンケートも反応はよく、「もう一度食べたい」というリピート率は60%を超えています」(同)

かば焼き、長焼き以外にも多彩に調理が可能だとか。すでに販売開始した養殖業者も

 本物のウナギまでとはいかないものの、価格帯が1500~2000円程度のうな重のマーケットとして出すなら十分に通用する、というのがウナギのプロたちの評価。そしてテスト段階の試食こそが、代用ナマズの宣伝の役割も果たしていた。来年には生産体制を整え、市場流通に向けて急ピッチで準備中だという。

「近畿大学では、研究して論文を書いて終わりにはせず、研究を産業として使える技術にまで達成し、商売(ビジネス)まで持っていく。学生も産業化するには研究だけではなく何が必要かもわかっていきます。研究とはいえ、数年間ひたすらナマズを蒲焼にして食べ続けることを許してくれた、という点も実学も重んじるウチの大学らしさと言えるでしょうね(笑)」(同)

  積み上げた研究を実際のビジネスにつなげるという近畿大学の「実学」スタイル。有路准教授自らも代表取締役を務める国内水産物を海外へ輸出する会社「(株)食縁」を立ち上げ、海外向けに特化した養殖魚の研究などを行っているという。

 有路准教授いわく日本人と欧米人では美味しいと感じる味覚が微妙に違うため、欧米人の舌に合わせた養殖魚の研究も行っている。国内では「近大マグロ」に続き、ウナギ不足を救う「うなぎ味のナマズ」に続いて、そして海外では近大ブランド魚が大流行する未来も近いかもしれない。

(取材・文/佐藤圭亮)

有路昌彦(ありじ・まさひこ)
福岡県生まれ。京都大学農学部卒業後、同大学院修了農学博士。大手銀行系シンクタンク研究員を経た後、民間研究所役員等を経て近畿大学農学部・水産経済学研究室准教授に。日本学術会議連携委員、水産庁の有識者検討委員、内閣府食品安全委員会専門調査会委員他、国の政策に関わるとともに、地域再生や経営再建などのコンサルティングをも手掛ける。専門は食料経済学、食品リスクの経済分析、水産経済学、計量経済学、経営学。近畿大学 農学部HP
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