火災を起こした北朝鮮「高麗ホテル」は盗聴の“総本山”だった

デイリーニュースオンライン

火災を起こした高麗ホテル(Photo by Chris Price via Flickr)
火災を起こした高麗ホテル(Photo by Chris Price via Flickr)

6月11日、北朝鮮の首都・平壌にある45階建ての高麗ホテルで火災が発生した。

ロイター通信やAP通信、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などが目撃者の話に基づき報道したところによると、「火災は11日午後5時30分頃、ホテル36階の廊下から発生」し、「火はさほど激しくなく、宿泊客・職員に避難命令は出なかった」という。

 高麗ホテルは北朝鮮屈指の高層ビルで、外国人や在日朝鮮人が主に利用している。報道によれば、写真を撮ろうとした外国人数人が拘束されたとされるが、北朝鮮としては当然の措置だろう。外国人が日常的に集まる高麗ホテルが、秘密警察や治安機関の管理下に置かれていることはまず間違いないからだ。

 以前、朝鮮総連OBの男性からこんな話を聞いたことがある。

 時は1990年代半ば、日本人拉致問題が本格的に両国間の懸案となる直前の頃である。その男性が参加した朝鮮総連の訪朝代表団は、定宿の高麗ホテルに宿泊した。

 代表団は数十人規模であるため、ホテルの1フロアをそのメンバーだけで占有してしまうことが多い。スケジュールの打ち合わせなどで頻繁に部屋を行き来するため、日中はドアを開けっぱなしにして過ごすことが多いという。

絶妙なタイミングで部屋のドアがノックされた!

 その男性も、いつも通りドアを開けたまま在室。別の部屋から遊びに来た同僚と談笑していた。すると何かの拍子に、話題が金正日総書記の後継者問題に流れた。当時はまだ、三男の正恩氏の存在は在日朝鮮人の間でも知られておらず、長男の正男氏が「後継ぎ」として取り沙汰されていたのだが、いずれにせよ、男性らは「総書記は三代世襲をやるか、やらないか」の話で盛り上がりかけた。しかしその時……。

 コン、コン。

 開けっぱなしのドアをノックする音が聞こえ、そちらに目を向けると、フロア係の女性従業員が戸口に立っている。彼女は言った。

「お客様、防犯のため、ドアは閉めてお話し下さい」

 男性らはそれまで何度も高麗ホテルに宿泊しているのに、そんなことを言われたのは初めてだった。話題が「金王朝」の機微に触れた、絶妙のタイミングで女性従業員が登場した事実が意味するものは……。

 警告である。部屋の会話を盗聴していた秘密警察が、「止めさせてこい」と言って女性従業員を放ったに違いない。男性らはすぐにそれを察し、すぐさまその場を“お開き”にしたという。もっとも今までは、こうした会話を聞かれたところで、北朝鮮当局が在日朝鮮人にまで手を出すことはまずなかった。

 だが、これからはわからない。些細な理由から側近を銃殺刑にしている正恩氏が、在日朝鮮人にのみ寛大であるという保証はどこにもないのだ。外国人と異なり、北朝鮮を「祖国」であるとする在日朝鮮人の場合、仮にかの地で「行方不明」になっても国際問題には発展しにくいからだ。

 今後、訪朝する予定のある在日コリアンの皆さんは、どうか十分に注意して欲しい。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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