百田尚樹氏の「言論の自由」を認めないメディアの矛盾

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一転して防戦一方となった与党と内閣
一転して防戦一方となった与党と内閣

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 6月25日、自民党本部で開かれた「安部応援団」ともいうぺき37人の若手・中堅議員による勉強会「文化芸術懇話会」をめぐって、今も批判報道が続いている。講師として呼ばれた作家・百田尚樹氏は「マスコミに言いたい。破廉恥とか売国奴とか、日本をおとしめる目的を持って書いているとしか思えない記事が多い。沖縄の2つの新聞社は潰さないといけない」などと発言。参加した議員たちも「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番だ。文化人、民間人が経団連に働きかけていただきたい」などと報道機関への圧力を求める“暴言(?)”まで飛び出した。

 背景には、いったいどこの国の利益を考えているのかわからないような「反日的」な偏向報道を執拗に垂れ流し、世論を悪しき方向に誘導し、日本の国益を害すること甚だしい一部報道機関に対する保守性の強い若手自民党議員たちの日頃の憤懣と「憂国」の思いとが込められている。国政を預かる者の言としてはいささか軽率の謗りは免れないが、その心情はよく理解できる。

大衆はメディアに煽動されやすい

 しかし、これにメディアがいっせいに反発。安部政権に批判的な『毎日新聞』は「言論統制の危険な風潮」、政権べったりの読売新聞でさえ「看過できない『報道規制発言』」という見出しの社説で掲げ、批判の論陣を張っている。百田氏から名指しされた「沖縄タイムス」と「琉球新報」2社も26日、「言論弾圧の発想そのもので、表現の自由、報道の自由を否定する暴論」との共同の抗議声明を発表している。

 百田氏は26日のツイッターで「講演で言ったのではない。講演の後の質疑応答の雑談の中で、冗談で言った」と釈明しているが、百田氏が安部総理と親しいこともあって野党に格好の攻撃材料を提供してしまった。

 言うまでもないことだが、民主主義国家においては、犯罪の教唆や名誉毀損、猥褻など明らかに公共の福祉に反するものを除き、「表現の自由」は最大限に尊重されなければならない。憲法第21条1項は「集会、結社及び言論、出版その他の一切の表現の自由は、これを保障する」と規定している。いかなる形にせよ権力による言論統制などあってはならない。もしそれが許されるなら、筆者のような始終、著書やテレビで権力者を批判し、揶揄している、しがない“もの書き”などは、たちまち北朝鮮や中国のように「粛清」されてしまうであろう。どんな権力者に対しても誰もが自由に物申せる。それが民主主義を支える根幹だ。「表現の自由」には国民の「知る権利」に資するものとして「報道の自由」が保障される。報道機関の使命はまさに権力の「暴走」を監視することにある。立法・行政・司法と並ぶ「第四の権力」と呼ばれる所以である。

 だが、どんな自由や権利も大きな責任を伴う。英国の政治学者・グレアム・ウォーラスは『大衆論』の中で「大衆は本来、政治的に中立であり、暗示に弱く、大勢に同調しやすい。メディアに煽動されやすい」と説く。メディアから洪水のように発信される報道や論説によって思想形成を左右され、マインドコントロールされてしまう。いやしくも「報道の自由」の名の下に濫用し、事実の捏造、歪曲、露骨な偏向報道などによって世論誘導を画策することは厳に慎まなければならない。権力を監視する以上、報道機関には「中立性」と「良識」とが求められるわけだ。

 ところが日本の報道機関の中には「中立性」などかなぐり捨て、いったいどこの国の「国益」を考えているのかわからないような反日的な偏向報道を垂れ流し、世論を悪しき方向に誘導しようと画策するものも存在する。そうした報道機関に対し憤懣を抱く心ある文化人や国会議員がいること自体はあながち責められまい。

百田氏の「言論の自由」は認めないマスコミ

 いずれにせよ、衆院憲法審査会で自民党推薦の長谷部参考人の「違憲」発言に続く思わぬ「敵失」に民野党は俄然、勢いづき、「自民党の奢りだ。安全保障関連法案への国民の深まらないことをメディアのせいにしている。報道の自由を規制しようとするのは民主主義の否定につながる」などと批判を強めている。

 安保法制審議の行方に危機感を抱いた政府・与党は勉強会の代表の木原稔青年局長を役職停止1年の処分にした。「報道が事実なら大変遺憾だ。自民党が企業に圧力をかけてスポンサーを降りろとかは考えられない」(安部総理)、「報じられたことが事実だとすれば、どう考えても非常識だと思う、国民の審判を受けて国会に来た人は、自らの発言に責任を持つべきだ」(菅義偉官房長官)などと火消しに躍起だが、「一強」の奢りか、油断があったことは否定できない。

 報道機関はいっせいに「報道の自由」を主張する論陣を張り、百田氏や若手議員たちを集中攻撃しているが、何かを忘れてはいないだろうか。それは報道機関に「報道の自由」が保障されると同時に、表現は政治的配慮を欠き、いささか過激過ぎたかもしれないが、百田氏や若手議員たちにも等しく「言論の自由」が憲法上、等しく保障されているということだ。松井一郎大阪府知事が26日に「百田さんにも言論の自由はある。朝日や毎日は百田さんの言論の自由を奪っているのではないか」と記者団に語っているが、筆者もまったく同感だ。自分たちの権利のみを主張し、他の人間の同種の権利を認めようとしない報道機関はその「特権意識」からくる自己矛盾に気がつくべきだろう。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中
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