栄養価は低い!? 粉ミルクよりも母乳をWHOが推奨するワケ

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赤ちゃんにとって母乳と粉ミルク、どちらが良いのか?
赤ちゃんにとって母乳と粉ミルク、どちらが良いのか?

 母乳の販売が問題になっている。あるサイトでは 授乳6ヶ月の母乳が50mlあたり1200円、12ヶ月が50mlあたり800円で販売されていた。食品として考えると非常に高い。それでも欲しいというユーザーは多く、人気があるらしい。

 誰が買うのかというと母親だ。フェチ的な用途で買うユーザーもいるようだが、主な顧客はあくまで母親。母乳で子供を育てたいが、自分から十分に母乳が出ないため、買うらしい。現代版の乳母である。

 ビジネスになれば、そこに偽物や不衛生なものが混じってくるのは世の常だ。さる7月3日、毎日新聞は通販の冷凍母乳に、一般的な母乳の1000倍もの細菌が混入、さらに母乳を謳いながら粉ミルクで水増ししたものだと判明した。

 身元不明の母乳はHIVなどのウイルスに感染していないとも限らず、安全が担保されていない。同報道を受け、厚生労働省は全国の自治体に、身元不明の母乳販売について注意を呼びかけた。

母乳に含まれる天然の殺菌剤「ラクトフェリン」

 赤ん坊は母乳で育てなければならないというのは、一種の神話になっている。母乳が極めて優れた食品であることに間違いはない。もっとも特徴的なのは、強力な抗酸化作用を持つタンパク質『ラクトフェリン』を大量に含んでいることだろう。ラクトフェリンは鉄と結合しやすいが、大腸菌など体に悪影響を及ぼす最近は鉄分がないと増殖できない。

 だから母乳を飲むと腸内では細菌は繁殖できなくなる。ラクトフェリンは天然の殺菌剤なのだ。また母親の持つ免疫情報は免疫抗体物質=免疫グロブリンとして母乳内に分泌され、子供に継承される。

 粉ミルクがいくら母乳に近づこうとしても、この免疫システムは真似できない。ラクトフェリンも酸化しやすいため、粉ミルクなどに添加しても母乳のラクトフェリンのような効果はないと言われてきた。さらにWHOが母乳による子育てを推奨していることもあり、母乳でなければ子供が育てられないとかたくなに思いこんでしまうお母さんたちが増えてしまったわけだ。

 母子間の免疫システムを真似することはできないが、この受け渡しが起こるのは初乳からせいぜい数日間のみ。生まれたばかりの赤ん坊は細菌などに対する抗体を作ることができない。その間だけ、母親の免疫システムを使って赤ん坊を守るというのがこの仕組みだ。数日を超えると赤ん坊は自分で免疫力を獲得していく。最初の数日、清潔で快適に管理された場所にいれば、病原菌に感染することもなく、母乳の免疫も必要ない。今の日本ではほぼ問題ないだろう。

 ラクトフェリンも現在は酸化を防ぐ形で粉ミルクに添加できるようになった。母乳には他にもビフィズス菌の生育に必要なオリゴ糖や脳の成長に欠かせない必須脂肪酸のアラキドン酸やドコサヘキサエン酸(魚に含まれているので有名)なども含まれている。それも粉ミルクに添加され、免疫グロブリンを除けば、母乳と粉ミルクの栄養価上の違いはない。

 むしろタンパク質やカルシウム量は粉ミルクは母乳を上回り、母乳だけでは不足しがちなビタミンD(授乳中の母親はあまり外に出ないため、ビタミンDの合成量が減ってしまうのだ。ビタミンDが足りないと骨が形成できない)も粉ミルクには十分に添加されている。

 ではなぜWHOは母乳を奨めるのか? 発展途上国の多くは不潔な環境で国民が暮らしている。粉ミルクを溶く水が細菌に汚染されているのだ。そんな状態で子供に粉ミルクを与えたら病気になってしまう。だから母乳なのだ。あくまで安全面からの推奨なのだ。

 母乳が出ないからといって、粉ミルクが悪いわけではない。母親の体調で栄養価が大きく変わる母乳よりも、高い栄養価が必ずとれる粉ミルクの方がいいかもしれない。

 50~60年代は粉ミルクブームで、母乳で育てた子供は病弱で頭が悪くなると言われたものだ。世間の噂に神経質になってもまったく意味がない。母乳か粉ミルクか以前に、お母さんが気楽でストレスのない育児をすることが、子供には一番である。

(文/川口友万)

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