怒号と奇声が飛び交う…認知症患者が集まる“老人病棟”の実態

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認知症患者が急増する日本(写真はイメージです)
認知症患者が急増する日本(写真はイメージです)

「お~い! お~い! ヤッホーーーーっ!!! ヤッホーーーーーーっ!!!!」

 大声で老人が発する声が木霊するここは東京都下のある大手病院にある老人病棟だ。

 ただ叫んでいるわけではない。これは体力が落ち、発声がままならないと同時に、嚥下(註:食物を認識して口に取り込み胃に至るまでの一連の過程)がスムーズにいくよう回復するためのトレーニングなのだ。

 この「お~い!」の発声トレーニングに、「うるさい」と腹を立てる老人患者も数多い。しかし腹を立てた患者自身もまたこのトレーニングを受けなければならない。患者にとって「明日はわが身」だ。このトレーニングをきちんと受けなければ退院後の後々まで、食事を取ること、意思を伝える言語の発声にも支障が出る。医師、看護師はもちろん、患者の家族にとっても受けてもらわなければ困るトレーニングなのである。

 最近、腸閉塞を発症し、危篤状態で入院した中沢卓也さん(仮名・84歳)は、術後1週間目にして、この嚥下を円滑にする「お~い!」のトレーニングを受けることになった。だが、やはりトレーニングは嫌だったのだろう。中沢さんは家族にこう懇願したという。

「借金を支払うから、おしっこを取って下さい」

「お願いですから。れ、練習は、か、か、か勘弁して下さい! て、て、て手形47万円、かならず落としますから。こ、こ、今度は本当に期日までにお支払いしますから……。なので勘弁して下さい。おしっこも取って下さい」

 個人で事業をしていた中沢さんは現役時代、銀行や消費者金融での借金も耐えなかった。そのため手形や借金返済が認知症を患った今でも記憶から消されることはない。付き添っている家族は“借金取り”にみえたのだろう。嚥下のトレーニングを促す病院スタッフは性質の悪い“金融屋”に思えたことがありありと伺えた。

「でも、この患者さん大人しいほうです。なかには看護師に暴力を振るう認知症を併発している患者さんもいらっしゃいますから」(老人病棟看護師)

 同じ病棟内に入院中の元中学校長という患者は、家族の面会時はとても大人しい。だが家族が帰ると看護師にグーパンチを見舞う。点滴を外す、ベッドに仁王立ちとなり小便をする、隣の患者のベッドにドロップキックで攻撃するなど傍若無人の限りを尽くす。時には排泄物を投げるなど手がつけられない。

「ご家族との関係がいい患者さんは“内弁慶”、ご家族に当り散らします。でもご家族との関係があまりよくない患者さんは“外弁慶”、医師や看護師、“言語さん”と呼ばれる訓練士に当り散らします。女性スタッフのお尻や胸を触ることも日常茶飯事です」(前出の老人病棟看護師)

 病院側としては、できれば家族に付き添って貰いたいというのが本音だ。家族の付き添いがなければ患者は「抑制」といって手足をベッドに紐で縛り拘束する措置が取られる。

「ただしご家族が付き添っておられる場合は抑制はいたしません。できるだけ患者さんの抑制は避けたいというのが病院としての願いです」(前出・同)

 しかし家族にも言い分はある。重度の認知症を患った患者の世話は、24時間、気が休まることはない。食事や排泄の世話、入浴、病気となれば薬を飲ませるのも一苦労だ。認知症が酷い患者だと点滴や治療目的で体に入れているチューブを外すことも珍しくない。むしろ家族のほうが“介護疲れ”で疲弊してしまう。

患者付き添い家族を“利用”する国家福祉

「ある国立病院では、看護師から『息子、これやって!』と体よく使われました。また患者のご家族が、『付き添いの対応が悪い』と、若い女性看護師から怒鳴られていました。病院の人員不足を患者の家族が補っている様子が素人目にもありありとわかりましたね」(冒頭部で紹介した老人病棟患者、中沢さんの家族、40代男性)

 今、認知症高齢者の数は全国で約462万人と厚生労働省では推計しており、これから10年で1.5倍にも増える見通しだという。

「しかし厚生労働省の対応はまさに“お役所仕事”、増えゆく認知症患者増の社会では何の解決にもなりません」(都内の病院で老人病棟で勤務する男性看護師)

 厚生労働省の認知症への政策は、「認知症を知り地域をつくる10ヵ年の構想」が2005年度以降取り組まれている。

「地域に認知症を正しく理解する人を増やそうというものです。今年2015年以降の政策は状況を的確に判断し追って政策を検討します」(厚生労働省関係者)

 認知症患者が増えていくのはわかっている。だから理解しましょうね……というのが厚生労働省の政策だ。これでは抜本的解決にはならない。

 看護師の数を増やす、医療、福祉費の負担を減らすなど、いくらでも打つ手はある。急ぎ、国は、進みゆく高齢者社会に向けて認知症患者とその家族への具体的なケアを行うべきだ。

(取材・文/秋山謙一郎)

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