【安保法制】「戦争反対」の声を「利己的」と断罪する自民党議員はいかがなものか|やまもといちろうコラム
やまもといちろうです。憲法違反はいかんと思いながら、憲法学者ってそんなに偉いんだっけ? と疑問に思ってしまうぐらいには現実派です。
ところで、安保法案を衆議院で「強行採決」したとかで支持率が急落してしまった安倍政権ですが、自民党方面の話をよく聞くとどうも「議席数がこれだけ安定して確保できている時期はいましかないのだから、経済問題も外交問題も多少の抵抗があっても一気呵成に進めてしまおう」という気持ちが強いらしく、いやあまあ気持ちは分かるけれど、それは長い目で見て、大変なことになるんじゃないのと思う毎日です。
しかしながら、安倍政権支持率は下落しているのに自民党支持率は上昇するという騒ぎがあり、その自民党支持者から安倍政権不支持者が増えるという「党高官邸低」みたいな状態になってるのが、国民の感情を良く表していると思うんですよね。参議院をうまく捌くと支持率が下げ止まる期待感が高まる一方、女性からの政権支持率の低迷が顕著で、これは長くは持たないよなあと思うところでもあります。8月末が天王山ですが、さてどうなりますか。
安倍内閣 支持率は?調査日 2015年8月1日,2日 定期調査
さて、昨今自民党のアイドルとして人気急上昇中なのが武藤貴也さんです。
SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は「だって戦争に行きたくないじゃん」という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ。
— 武藤貴也 (@takaya_mutou) 2015, 7月 30
SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は「だって戦争に行きたくないじゃん」という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ。
言論の自由で許される発言ではない!?
あのさあ……。
私のような保守主義者ももちろん、戦争については絶対に反対です。暴力的な戦争や政策は、いくら国策であったとしても、また国民が真に腹に据えかねる問題があるとして、選択肢として最後の最後であって、何かあるとしても必ず着地点や落としどころを考え、出口戦略が見えないような戦争はしてはならないと思います。それが日本があの悲惨な太平洋戦争で体験したことであり、多くの日本人が悲惨な戦地で尊い命を減らし、また近隣諸国にも帝国主義的な行動で迷惑をかけ、戦後70年をかけてお詫びをし続けたり、平和憲法を護持しながらこんにちまでやってきたのもまた事実であります。
SEALDsの主張で大きく首肯することはふたつあり、ひとつが「戦争は絶対に駄目である」ということ、もうひとつは「若者はきちんと主張しよう」ということです。安保法制がどうこうという以前に、民主主義の根幹であり、平和を追求する日本として当然の主張をSEALDsは行っているに過ぎません。
ただし、左翼系団体の活動員が関与していたり、戦争法案等のレッテルを貼って健全な議論に発展しようもない主張が含まれているのは残念なことですが、それはそれで「意識赤い系」の政治活動についての分析はまた後日したいぞとは思っています。
で、ある意味で「そう言う議論が若い人から出てくること自体は健全な民主主義のあり方」だと思っていたら、上記のような武藤某という若手議員が出てきて「極端な利己的考え」と言ってしまうのは凄い。戦争行きたくないのは当たり前であって、なんで青春を謳歌し友と語り恋人と愛情を育み子を育てるべき人々に、鉄砲持たせて戦場に行かせる必要があるのかを考えれば、そういう懸念について反対の声を上げるのはごく自然なことでしょう。
言うべきことがあるとするならば、一連の安保法案は憲法違反の疑いが強いとはいえ、日本の安全を文字通り保障し、戦争をしないようにするために然るべき軍備を整え、日本を世界の時流に合わせた国力に見合った戦力を持ち運用できる国にしようという話で、まあそれはそれで戦争をしないために力をつけて行使できるようにしておくという準備は必要じゃないですか、というのが自民党の考えです。それを堂々と言えばいいわけですよ。
利己的個人主義だから戦争に反対なのではなく、与党も野党も戦争をしない日本にするためにはどういう安全保障を考えるべきかを議論しているわけで、そこに馬鹿が出てきて「戦争に行きたくないのは利己的だ」と煽ること自体が軍国主義的な発想です。公共心があれば戦争に行くのかという話であり、太平洋戦争の最中だって、仕方なく戦争にいって、しかも戦死よりも補給不足で餓死や病死が多かったり、まあ悲惨だったわけですよ。そら負けますわな。
武藤貴也さんはこれらの暴言を撤回しないとのこと。言論の自由を認めるのも民主主義の根幹ですし、好きにすればいいんじゃないかと思いますが、政治的に正しいかどうか、いまのこの状況でいみじくも自民党議員の肩書きを持った人間が行うべき発言かは、よくよく胸に手を当てて考えてみるべきです。酷すぎて腰が抜けるレベルの失言ですし、政治家として絶対に上を目指して欲しくない筆頭級の人材の一人と見做されても良いのだ、ということであれば、オウンゴール覚悟で思うことを思い通り発言し続けていって欲しいと願っております。
著者プロフィール
ブロガー/個人投資家
やまもといちろう
慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数
公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)